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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第十三話 よし、お着替えしよう

 

 迫るは『炎上暴風のエリス』。魔法使いの弱点として最も有名な『速度』を克服した怪物である。


 魔法は亜空間内で構築し召喚する必要があるので、その分だけ時間的ロスが生じる。中には複数の魔法を亜空間内に構築、ストックすることで時間的ロスを埋める魔法使いもいるが、その方法にしてもまずはじめのストック構築にかかる時間は必要。そう、どうしても初動が遅れてしまうため、魔法使いは大技による一撃必殺を好む。


 だが、エリスは違う。

 肌にぴったりとはりつく頭部以外を覆うバトルスーツに『技術』を付加、『防具技術(アーマーアーツ)』を利用して肉体を保護した上で炎や風を使い高速戦闘を実現していた。


 一撃に重きを置き、手数を増やすことが難しいはずの魔法を使い、高速戦闘を実現したと言える。


 つまり、不意打ちさえなければ、初動の遅ささえつくことができれば、黒ずくめたちにも勝機はあった……はずなのだが、どうにも違和感があるとリーダーは睨んでいる。


 そう、確かにエリスは魔法使いなのだが、炎や風を扱う際に『違い』があったような──



「(リーダー、『炎上暴風のエリス』接近中だって。早く逃げないとっ)」



 そう囁く女勇者(浮気やら売春やらを軸とした寝取り寝取られ満載な恋愛小説『ぷりちー☆バーニングエンド』がライバルキャラにして殺人鬼)の格好をしたちんちくりんの声で現実に引き戻されたリーダーは迫る怪物を視界に収める。納めてしまう。


『炎上暴風のエリス』。

 激突した時は知らなかったが、のちの調査で判明した『偉業』は普段ならばどれもこれも誇張された眉唾だと切り捨てていたほどに現実味がない。


 古龍討伐を筆頭に四属性束ねし破滅の賢者を打ち負かしただの死者を束ねる『エインヘリヤル』の女王ヘルに勝負を挑んだだの中原にその名を轟かせる帝国から将軍として迎え入れたいと打診があったのに即答で断っただの、話だけを聞けば安っぽいチート小説そのものだが、現実として激突したリーダーは知っている。少なくともそんな話が飛び出してくる程度には怪物であると。


「りっ、リーダーぁ……っ!!」


 早くも涙を浮かべ出したおしゃれさんを目にして、リーダーは意図して表情を整える。状況は致命的、破滅は目の前。それでも彼女はリーダーなのだ。黒ずくめらを率いる長なのだ。ここだけは決して折れてはならないのだ。


 ……エリスの妹人質にしようなんてリーダーが言い出したのがすべての元凶だが、その辺は脇に置いて不敵な笑みを浮かべてみせる。


「大丈夫。私は信じてるよ、ちゃんと騙せるって」


「うう、どうしてそんなこと言えるのよぉ!」


「背中を預けられる仲間が選んだからよ」


「っ」


 言って、笑って、一歩前に踏み出す。

 逃げるのではなく、立ち向かう。

 下手に挙動不審な態度を見せては意味がない。ここは真正面から胸を張って歩み寄る場面だ。自身に満ち溢れた態度が燻る疑惑を消し去り、人違いだと錯覚させるのだ。


 だから。

 だから。

 だから。



『炎上暴風のエリス』とリーダーとが相対した瞬間、かの怪物の両腕が左右から挟み殺す勢いで放たれた。



 ーーー☆ーーー



 可愛いとは何か。

 おしゃれとはどこに起因するのか。

 流行りやら定番やら変わり種やらコスプレやら組み合わせは自由。想像するだけで心臓がバクバク暴れ出すほどだった。


 だけど、やっぱりそうじゃない気がする。

 本当に、一番ミリファが可愛い姿は──



「ねえファルナちゃん。なんでメイド服?」


「やっぱりミリファさんはメイド服が、その、一番だよねっ」


「えー……」



 キラキラと瞳を輝かせるファルナ。そう、メイドとして尊敬しているミリファの一番可愛い姿といえば、メイド服しかないのだ。理想の象徴にして憧れの極致、焦がれるほどに愛らしい友達はメイド服もセットで尊敬していると言っていい。


「どうせなら普段見慣れてないほうが良さそうだけど、まあファルナちゃんがいいならいっか。それじゃあ移動しようか」


「へ?」


 パンっとタッチでもするような気軽な動きで手を握り、ミリファは笑う。素敵に大胆に煌びやかに。


「はじめっから躓いちゃったけど、ここからが本番よ。せっかくデートにお誘い頂いたんだもの、ファルナちゃんの心をずっきゅーんと射抜かないとねっ」



 ーーー☆ーーー



『それ』は人の目に止まらないような路地の端や石造りの屋根の上、あるいは噴水の中や『女傑像』の影などに落ちていた。


 白にも黒にも見える不可思議な鉱石、つまりは魔石。小粒な、それこそ安価で魔力容量なんて大したことないものではあるが、それは確かに魔石であった。


 普通ならば気にする必要もないのだろう。

 そう、普通だったならば。



 ーーー☆ーーー



「そういえばちょっとした疑問なんですが」


 フィリアーナ=リリィローズは本当に何気ない様子でこう尋ねたものだった。


「魔導兵器ってかなり希少ですけど、なぜですの? 術者が少ないとはいえ、魔法で外装回路を作ってコアたる魔石を埋め込むだけ、後は魔力で起動や停止等を入力できるようにすればいいって話ですし、量産なんて簡単なんじゃあ???」


「お嬢様。通常魔法と違い、外装回路構築やコアの埋め込み、そして起動や停止等の受信機能の搭載には膨大な時間がかかります。普通なら三ヶ月、天才と呼ばれる者でも数週間は軽くかかるでしょう。そこに出力向上や複雑な機能の搭載を目指せば、さらにかかると考えていいですね」


「まあ才能ない人でも安易に力を上乗せできる便利グッズが一般に出回れば、私たち魔法使いの価値も下がりますから、それならそれでいいのでしょうが……勿体ないですわぁ」


「こればっかりはどうしようもないですから。ですから変なこと考えないでくださいね? ね!?」


「そこまで必死にならずともいいではありませんか。いくらなんでも今の段階で出来ることはありませんよ」



 ーーー☆ーーー



 両腕による挟み込み。左右の逃げ場を封じられたとはいえ、高速戦闘を得意とするリーダーならば回避するのは簡単だったはずだ。そう、普段だったならば、いかに『炎上暴風のエリス』の一撃といえども避けるだけなら何とかなったはずだ。


 だが、自然体を装いすぎた。

 無抵抗にして無垢な一般人。血なんて見たこともなく、暴力なんて目にしただけで目を回す庶民ですよとアピールするのに注力しすぎていた。


 結果、反応が遅れた。

 一瞬の判断ミス、回避行動に移るタイミングを逃した。いいやそれ以前に『炎上暴風のエリス』が攻撃を仕掛けてきた時点で命運は尽きている。ここから足掻いたところで意味はない。真っ向からの勝負では勝てないことは先の戦闘で証明されている。


 ゆえにこれにて終演。

 正義が悪を粉砕して、世界は平和になりました、と。胸糞悪い常識が蔓延する。



「きゃわわーっ!! 『いちゃらぶ☆フォトンウェーブ』のエンジェルミラージュたんだーっ!! うわ、うわわあっ。かーわーいーいー!!!!」



 はずだったのだが、どうしてかリーダーはエリスに抱きしめられていた。それはもう熱烈に、情熱的に。というか、頬ずりまでし出したエリスが耳元ではぁはぁと熱い吐息を漏らしていたりする。


(な、んだ……これ?)


「もう、もうもうもーう! なんだかきゃわわな集団だと思っていたけど、まさかまさかのエンジェルミラージュたんだよー!! こんなの反則、ずっきゅーんだってーっ!!」


 ゾワゾワッ!! と背筋に今までとは別種の悪寒が走る。人のことを炎で炙り風で吹き飛ばし思いっきりぶん殴ってくれた怪物に抱きしめられているのだ、こんなの普通に殺し合うより悲惨なほどだ。


 このままでは戦う前に精神が擦り殺されると手を後ろに回して、仲間たちにハンドサインを送る。視界は宿敵に塞がれているわそもそも抱きしめられているから振り返れないため視力を軸とした意思疎通方法はリーダーに伝わらないが、音による意思伝達手段も想定していたため不都合はない。


『た・す・け・て』


 果たして、床を蹴る音による返答といえば、


『が・ん・ば☆』


(あいつら見捨てやがったなーっ!!)


 振り向かずともわかる。仲間たちは視線を外し、私たち無関係ですよーっと遠ざかっているはずだ。


(ふ、ふざけ……っ!!)


「ハッ!? あ、あたしとしたことが気分が高ぶって、つい。ごめんなさい、いきなり抱きついたりしてっ」


「あ、はは。そんな、別に、ええ」


 ようやく離れた復讐相手。対してリーダーはといえば愛想笑いなど浮かべていたりする。どうして『炎上暴風のエリス』に気を使う必要があるのかと不思議でたまらないが、ここまできて正体がバレてぶっ飛ばされては堪らない。せめて逃げ切らないと、精神をすり減らした甲斐がないではないか。


「あの、好きなんですよね? 『いちゃらぶ☆フォトンウェーブ』。あたしもなんですっ。ああ、こんなところで同士に出会えるなんて、なんたる運命! 今日は最悪な一日だと思っていたけど、こんなステキな出会いがあるなんてっ」


「そ、そうかなーあはは」


 もういいからどっかいけ、という想いが表情に溢れそうになるのを気合いで封じ込めるリーダー。どうにも引きつっている気がしないでもないが。


「それでは、私はこれで」


「あのっ!!」


「ひゃ、ひゃいっ」


 なんだよもう勘弁してーっ! とおしゃれさんでもあるまいし涙が溢れそうなリーダーへと追い討ちが放たれる。



「お願いなんですけど、エンジェルミラージュたんの決め台詞、言ってもらえたりしない、です、かね?」



 瞬間、バッと手を後ろに回し、内緒話(ハンドサイン)開始。


『き・め・せ・り・ふ?』


『───、』


 果たして帰ってきた(こたえ)を解析したリーダーの顔はそれはもう青ざめていたが、幸か不幸かエリスに気づいた様子はなかった。


「一度でいいの、じゃなくて、いいんですっ。こんなに理想的な可愛いに出会えるなんて、しかも推しのエンジェルミラージュたんの化身だなんて、こんなのもう反則なんですう!!」


「あ、あはは、ははははは……」


 相手は『炎上暴風のエリス』。ふとしたきっかけでこちらの正体がバレれば、瞬く間に粉砕されることだろう。この場はなんとしても切り抜けなければならない。その後だ、妹さえ人質にすれば、この精神的疲弊も今から受ける屈辱も倍どころか十倍にして返してやれるのだ。


 だから、リーダーは選択する。

 エリスの興奮状態を持続させることで冷静な判断能力を取り戻す隙を作ることなく安全に戦線を離脱するために。


「決め台詞、だね。いいよ、ははははは! やってやろうじゃない!!」


「いやったーっ!!」


 そして。

 そして。

 そして。



「貴女の心をずっきゅーん射抜く、鏡合わせの純白天使☆ 愛と希望のエンジェルミラージュ見参だぞ☆☆☆」



 ポイントはダブルピースを顔の横に添えてウインクすることだったりする、らしいとはおしゃれさんの伝言だったか。


 やりきったリーダーには『エンジェルミラージュたーん!!』と臨界点をぶっちぎったエリスからの熱い抱擁が待ち受けていた。

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