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ぐーたらメイドと無能なお姫様〜無自覚スキンシップで女の子陥落大作戦〜  作者: りんご飴ツイン


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第十一話 よし、集合しよう

 

 フィリアーナ=リリィローズは想起する。『炎上暴風のエリス』との運命の出会いを。


「お嬢様。魔法とは魂の構成因子にして生命エネルギーである『魔力(フォトン)』を引き出し、変換し、召喚することを指します」


『流通区画』の一角、薄暗い路地裏に囮であるフィリアーナが足を踏み入れることで『奴ら』の監視網を捕捉するつもりが、監視網の捕捉を嫌がった『奴ら』と護衛とが激突。その隙を狙って黒ずくめの集団がフィリアーナを襲撃した。


「魂は肉体の中に存在しますが、その座標は三次元空間には存在しません。薄皮挟んだ亜空間に位置する魂には三次元空間には存在しないエネルギーが内包されています。つまり『魔力』ですね。生命エネルギーとも呼ばれてはいますが、通常魔力を消費する分には生命が脅かされることはありません。種の防衛本能が許容範囲以上の魔力消費を阻止するためですね」


 フィリアーナ=リリィローズはそこらの魔法使いが足元にも及ばないほどの『才能』を繋げる貴族であったが、その『才能』は魔法特化。高速戦闘を得意とする黒ずくめの集団に近接戦闘を仕掛けられたために敗北、誘拐された。


「『魔力』そのものを召喚し破壊エネルギーとして使うこともできますが、より効果的に使用するための加工方式が魔法となります。魂が放出した『魔力』を変換することで四大属性は具現化されます。炎、水、風、土の四種類のどれかへと変換し、そこから細々とした性質を埋め込んでいくわけですね」


 フィリアーナ=リリィローズは魔法使いだ。戦闘行為では魔力を引き出し、変換し、召喚するといったプロセスを踏む必要がある。高速戦闘を得意とする集団に捕まっては魔法を召喚する前に首を切り落とされてしまうことだろう。


『奴ら』を警戒しすぎて、全く関係ない第三勢力に襲われることを考慮しなかった詰めの甘さが誘拐という結果を招いた。対外専門の秘匿()()()にあるまじき失態である。


「ここまでが亜空間内での工程です。そうして具現化された魔法を三次元空間で使用するために召喚する必要があります。つまり亜空間と三次元空間とを繋げるというわけですね。そのためのゲートが魔法陣、魔法を放射する際に必ず発生する己の魂と三次元空間とを繋げる出力口にして、最大の『弱点』となります」


 そんな時にあのお方は現れた。

 黒ずくめの集団に拉致監禁されたあの場所に暴風と猛火を纏ったヒーローがだ。


「魂は他の『魔力(フォトン)』と混ざると拒絶反応を起こし、最悪の場合魂が崩壊、生命活動の停止を招きます。よって魔法陣展開時に魔法を放り込めば、一直線に己が魂を狙い殺されることとなるというわけですね。そのため魔法戦闘時には魔法陣展開を最小に収めます。というか、魔法放射と共に解除するのが常識ですよね」


 高速戦闘なんて関係ない。全方位に暴風と猛火とを撒き散らし、迫る黒ずくめたちを根こそぎ薙ぎ払っていったのだ。


「とはいえ魔力から具現化された魔法同士をぶつけても通常は拒絶反応は起きません。魔力から『変質』させているため、触れ合った程度ではエネルギーの芯まで魔力が浸透しない、と言われています。とはいえ魂に魔法をぶつけると拒絶反応が起きて、魂が崩壊するため、何らかの条件が揃えば魔法同士でも拒絶反応が起きるのかもしれませんが」


 魔法特化の『女傑の血』とも並ぶアリシア国でも屈指の魔法使いが敗北した集団をいとも簡単に殲滅したその手腕……いいや、そこもそうなのだが、


「格好良かったですわぁ……」


「お嬢様。お言葉ですが、お勉強の最中に欲情するのはおやめください」


「はうう……」


「聞けよ、おい」


 思わず言葉遣いが崩れたメイドの言葉も聞こえていないのか、ぽーっと紅色に染まった顔で虚空を見つめるフィリアーナ。ドキドキというかムラムラしている今の公爵令嬢に何を言っても無駄だろう。


「あら涎が……じゅるり」


「お嬢様。お言葉ですが、公爵令嬢としての行動を心がけてくださいませんか!?」



 ーーー☆ーーー



 エリスは安宿の一室、狭苦しい室内をぐるぐると歩き回っていた。その表情には隠しようもない苦渋が滲んでいた。


「……分かってるのよ女友達と一緒に出かけるだけよ何もおかしなことはないでしょこんなに胸が締め付けられるなんておかしいのよ気にする必要なんてどこにもないはず女の子同士よ過ちなんてあるわけないいやでもそんなのおかしい性別なんてただの記号よ生物的な分類よ生まれ持った性質のせいで愛が抑制されるなんて論外よいや違うそうじゃなくてそうよただ遊びに出かけているだけよぐーたらなミリファが友達と出掛けるなんて滅多にないわけだけどうわあ嫌だどう考えてもデートじゃない!!」


 うがーっ! と頭を抱え振り回すエリス。地元にもミリファの友達は存在した。したが、ぐーたらが基本なミリファが休日に家を出ることなんて滅多になかったのだ。それこそ誕生日会みたいなイベントでもない限り、遊びに誘われたって部屋に招いてベッドの上で一緒にぐーたら過ごすくらいには。


 そんなエリスが同僚と遊びに出かけた?

 特別なイベントでもなさそうだが……いいや、デートというのもまた特別なのかもしれない。


「う、うあああ!! 取られちゃう、あたしの妹が、あたしだけの妹なのに!!」


 ブォワッ! と暴風が漏れる。あまりの感情の奔流に魔法陣が展開され、魂から具現化された魔法が漏れ出たのだ。


 感情の奔流はとどまることを知らない。

 妹が取られたと、たった一人の大好きが自分以外の誰かの隣に立ち、微笑むのだと。


 ……ミリファにとっての一番ではなくなってしまうのだと、そう考えるだけで魂が引き裂けそうな痛みを発する。


 ズキンッ! と現実に鋭い痛みを発する胸を押さえ、どこか空虚な瞳で虚空を見つめる。その先に幻視されたミリファを追い求めるように、もう片方を腕を伸ばす。


「いや、だ……もう二度と失ってたまるものか! 『あんなの』は一度きりでいい、もう耐えられないのよ!!」


 だから。

 だから。

 だから。


 やがて闇よりもなお昏き瞳が蠢き、ゆっくりと静かにその唇が動く。



「私の妹、返せよ」



 ーーー☆ーーー



 黒ずくめの集団はぞろぞろと『流通区画』を練り歩いていた。数十人もの女、しかも全身真っ黒となればいかに各地の商人が集まり賑わいをみせる『流通区画』といえども目立つことこの上なかった。


 リーダー格らしい長身の女は腰の双剣に触れ、ミリファたちが入っていった衣服店を見つめながら、


「さあて、それじゃあ攫おうか?」


「ねぇリーダーもしかしなくてもばかぁ? こんなに人の目がある中で攫うなんてさぁ」


 おしゃれさんがそう言えば、誰にも聞こえないような小声で影が薄いちんちくりんが吐き捨てる。


「……(馬鹿だ馬鹿だ思ってたけど、ここまでだなんて思わなかった……)」


「ふっふう。分かってないねー。いいこと? 大型店ともなれば死角も多いものよ。そこらへんを上手く利用すれば、人の目を気にせず誘拐できるってね。というか、どこぞの平和ボケしたご令嬢でもあるまいし、間抜けヅラして路地裏に迷い込むこともないのよ。どうしても人の目がある中で事を成し遂げる必要があるってわけ」


「でもぉ、その辺の技術を持ってる人がこの中にいるのぉ?」


「技術? 別にぶっつけで問題ないでしょ」


「……(やっぱり馬鹿だった)」


 と、その時だった。

 ゾクリッ!! と黒ずくめの集団全員の背筋に強烈な悪寒が走り抜けた。


 バッと振り向くと、人混みの中、遥か遠くに──



「げっ! 『炎上暴風のエリス』う!?」



 思わず逃げ込むように大型衣服店に駆け込む黒ずくめたち。よもや彼女らを発見したエリスがトドメを刺そうと迫っているのではないか?


「りっ、りりりリーダーぁ!? ど、どう、どうするのよぉ!! うわぁんだから嫌だったのよぉ妹を人質にすればってリーダーの馬鹿ぁ!! あんな怪物を敵に回してぇタダで済むはずないじゃんっ!!」


「やめこら泣きつくな鼻水をつけるなっ。だ、大丈夫何とかなるって!」


「どうするのよぉ!?」


 恥も外聞も投げ捨て泣きつくおしゃれさんを筆頭に怯えを隠しもできていない仲間たちを見渡すリーダー。先日の殲滅劇は皆の脳裏に強烈に刻み込まれている。もう二度と真正面から炎風の怪物に挑みたい者はいないだろう。


 だからこそ、だ。

 だからこそ、リーダーは不敵な笑みを浮かべるのだ。


 状況は致命的かもしれない。どう足掻いてもエリスには勝てないかもしれない。


 だからどうした、とそう吐き捨てなければならないのだ。誰もが諦める絶望的な状況であろうとも、仲間たちを引っ張る立場たるリーダーだけは決して折れてはならないのだ。


 ……そもそもリーダーが復讐なんて考えなければこんなことにはならなかったのだが、その辺はすっかり忘れていたりする。


「まだ突破口は残ってる」


「どこによぉ!?」


「そこに、よ」


 びしっとリーダーは指差す。

 その指の先には一番酷く泣き喚いているおしゃれさんの姿が。


「う、え?」


「幸いにもここは服屋、変装に使えるものはありったけある。この中から貴女がエリスを欺ける組み合わせを見つけるのよ」


「そ、そんなの上手くいくわけぇ……っ!!」


「エリスは私たちのことを黒装束の集団と捉えている。その先入観を利用すれば、もしかしたら誤魔化せるかもしれないのよ」


「だからってぇ」


「これは常日頃からおしゃれを心がけている貴女にしか頼めないの! 服なんてこれっぽっちも興味がない私たちに比べて、より多くファッションに触れ合ってきた経験こそが必要なのよ!!」


「ちょっとはファッションに興味持ってよぉ! 女の子でしょぉ!!」


 ガシッと肩を掴まれ、見つめられ、おしゃれな黒ずくめは両目いっぱいに涙を浮かべ、ガクガクと全身を震えさせ、それでも真っ青な唇を開く。開く力を叩きつけられたがゆえに。


「や、やるしかないじゃんっ。うわぁーん! リーダーの馬鹿ぁ!!」


「よしっ。それじゃあどうする!?」


「うう、うううう!! 私についてこいおしゃれ知らずの非女どもがぁ!!」


「いやあそれに関してはどうでもよくない? 服なんて肌を隠すためのものなんだし」


「ちょっとは女としての自覚を持ってよねぇ!!」



 ーーー☆ーーー



 そして、三勢力は決戦の地へと集結する。

 ここから全ては始まるのだ。

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