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第184話 メリアの得た力

雄叫びを上げながら突っ込んでいく素人集団と違い、騎士団は粛々と武器を掲げ、突撃の体勢を取った。武器を構えた騎馬の群れは、まるで一つの生物のように整然と、少しの乱れも無く突撃体勢を取っていく。そして互いの距離が縮まり、あと少しで交錯するかと思われたその時、騎士団が一斉に動き始めた。


『おおおおお!』


この戦いの中、はじめて上げた騎士達の鬨の声。それだけで群衆の先頭集団の足が止まった。奴等が相対する初めての軍隊。戦闘に数の差で押しつぶしてきた地方領主の兵隊など比べものにならない本物の軍隊。戦闘に特化した集団の圧力に、奴等はわかりやすいぐらい怯えていた。


徒歩で突っ込む民兵と、突撃体勢を取った騎士団が正面からぶつかれば、結果は誰もが予想するとおりだ。勢い任せに突っ込んで、今の今まで自分達が無敵だと信じていた群衆の先頭にいた者達は、壁のように迫ってくる騎士団の圧力に耐えられず、我先にと逃げ出した。


しかし、今更武器を捨てて逃げ出したところで何になると言うんだろう。騎士団は敵と見なした相手に容赦などしてくれない。逃げる奴等にあっと言う間に追いつくと、その背中に向けて槍を遠慮なく突き刺した。


「がはっ!」


血を吐いて絶命する群衆に構うことなく、騎士は次の敵を求めて足を止めることはない。素早く槍を引き抜くか、引き抜くのが困難だと思えば躊躇なく槍を捨て、腰の剣へと武器を切り替えていく。そうでなくても武装した騎馬に体当たりされるだけで、普通の人間は重傷を負ってしまう。結果、文字通りに、あっと言う間に群衆の前線は崩壊した。


「あらら。綺麗に別れていくわね」


戦場を俯瞰出来る尖塔の上に腰掛けながら、私は戦場の全体を見回していた。奴等がぶつかり合っている時、私はさっさと離脱して聖都へ侵入を果たしていたからだ。


上から見ると、騎士団という槍の一撃に、暴徒の群れは綺麗に二つに分かれていくのがわかる。この動きから察すると、騎士団はまず敵を二つに分け、片方ずつ包囲殲滅するつもりのようだ。これがまともな軍隊同士の戦いならこんな簡単には行かず、包囲部分を集中攻撃されて窮地に陥る可能性もあるのだけれど、烏合の衆相手ならその心配もないようだ。


「……逃げ道も別働隊が塞ぐんだ。連中、ここで完全に殲滅するつもりね」


仮に、今回の反乱に参加した連中が改心して戻ったとしても、為政者からすればそれは潜在的な敵を抱え込むのにも等しい。なにせ一度不満に思えば武器を取って立ち上がった前科があるのだから、信用など出来るわけがない。ならここで、一切の後腐れもなく殲滅した方がいいと判断したのだろう。


これが教皇の指示なのか、騎士団の独断なのかはわからないけど、冷酷で妥当な判断だと言えた。


「教皇のジジイは……無理か。あの偽善者なら、ギリギリまで民衆を説得するとか反吐が出そうな事を言うだろうし。たぶん騎士団が勝手にやってる事なんでしょうね。……ま、関係無いか」


見れば、一部の騎士隊に被害が出始めている。追い詰められてヤケクソになった群衆が死兵と化したんだろう。乱戦になれば騎馬の突撃も活かせず、単純な数の暴力がものを言う。練度の差で最終的には騎士団が勝つだろうけど、それでも馬鹿にならない被害が出そうだ。


そんな彼等の戦いに背を向けて、私はさっさと目的を果たすために動き始めた。こんな戦い、どっちが勝とうと興味などない。死体の山が出来上がるまで無様に殺し合えばいいんだ。


「教皇のジジイは今頃神殿の奥で祈りでも捧げてる頃かな?」


でも、今更あの偽善者をどうこうするつもりはない。私はあいつを直接どうこするつもりもない。あいつにとって一番ダメージが大きいのは、手塩にかけて育てたフレアがこの世から消えることだ。あの女の首を持って教皇の前に転がしてやったら、奴はどんな顔をするんだろう? 絶望して泣き出すだろうか? それとも怒り狂って襲いかかってくるだろうか? どちらにせよ、今から反応が楽しみだった。


「待ってなさいよ。すぐに結果を出してあげるから」


そう言って、私は空へフワリと浮かび上がる。魔族によって力を得た私だったけど、今は完全に力を使いこなし、奴等の知らない力まで身につけていた。この飛行魔法のその一つだ。魔族からはただの駒として使い潰されるはずが――そして馬鹿な民衆からは偽の聖女として祭り上げられ終わる予定が、いつの間にかこんな力を得ているなんて、嬉しい誤算だった。


「こんな力を突然得られるなんて、やっぱり神様は本当にいるのかもね」


いるとしても、そいつはきっと邪悪な神に違いない。きっと、人間なんて娯楽の一つぐらいにしか思っていないような、ろくでもない奴に決まってる。空に浮かび上がった私は、猛烈なスピードで西の空へと飛行し始めた。今頃国境付近では、聖騎士団とフレアが魔族相手に頑張ってるはず。私は高みの見物を決め込んで、勝った方を潰してやることにしよう。相手がフレア達人間だろうが魔族だろうが関係無い。私にとっては、世界全てが敵なのだから。


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