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第182話 リュミエル最悪の一日

地方で小規模な反乱が起きた。そんな報告があった後、鎮圧のために騎士団が出動していきました。反乱と言っても、戦闘訓練も受けていない人々の集まりなら、騎士団の陣容を見せるだけで矛を収めてくれるのではと言う淡い期待もあったのです。しかし、それは最悪な形で裏切られることになってしまいました。


あろう事か、騎士の一人が村人の一人を手にかけたと言うのです。その事件は村の代表と騎士団長にその護衛が加わった話し合いの最中に起きました。自分達が不満に思っていることを洗いざらいぶちまける村人達に対して、騎士団長は辛抱強く耳を傾けていたそうです。しかしその間、駐屯していた騎士団に罵声を浴びせる村人達が後を絶ちませんでした。


罵声だけならと何も言わずに我慢していた騎士達でしたが、それが村人達の目には弱気に映ったのでしょう。調子に乗った彼等は騎士達に向けて投石を始めました。これには流石に黙っているわけにもいかず、騎士達は狼藉を働いた者達をすぐさま捕らえようと動き出したのです。それに対して村人達は手に手に武器を取り、交戦する構えを見せました。


日常的に戦闘訓練を受けている人間と、ろくな訓練も受けずに過ごしてきた人々の戦闘能力には、思っている以上に開きがあります。たちまち村人達は取り押さえられ、話し合いを横に暴動は力尽くで鎮圧されそうになりました――が、捕らえられた村人の一人を助けようとした子供が、大きな石を拾って騎士の頭に振り下ろしたのです。不意を受けた騎士は流血しながら咄嗟に身を守ろうとし、再び自分の頭目がけて石を振り下ろしてくる人物を斬り捨てたのでした。


最初に手を出したのは間違いなく村人。その場の多くの人がそれを見ていたにもかかわらず、子供が殺されたと言う事実をもって、彼等は決定的に決裂したのです。


殺意に瞳を燃え上がらせ、次々に武器を持って襲いかかってくる村人達。騎士達はやむなく応戦し、双方に多数の死者を出したのです。その村に限って言えば、暴動はそれで収まったと言えるでしょう。しかし、それを聞いた周囲の村々や国中の人々は、そうは思いませんでした。


『国に逆らえば殺される』


今この瞬間、自分達は大丈夫だ。だが明日は? 明後日は? 国が反抗的な自分達に対して、騎士団を差し向けてこないなどと誰が保証出来る? そう考え、怯えた人々は、やられる前にやれとばかりに、一斉蜂起を始めたのでした。


反乱は主に中央から遠く離れた地方から始まり、徐々に勢いを増して聖都へと近づいてきました。戦いの素人とは言え、その数が増えれば増えるだけその脅威は増していきます。数百人が数千人、万単位になるまで、それほど時間を必要とはしませんでした。


「やむを得えんか……」

「教皇様……」


血を吐くような気持ちで鎮圧を命じた教皇様の顔は、苦渋に満ちていました。未だ従順に自分達を信じてくれる民を守るために、欺されているとは言え愛する民を殺さなければならない。矛盾にまみれた決断を、教皇様は下さねばならない立場にありました。


「教皇様。私も戦場に――」

「それは駄目じゃフレア。それだけは駄目なんじゃ」


私の力を持ってすれば、騎士の大半に被害を出さず、戦いに勝利することが可能でしょう。しかしそれをやってしまえば、この国は取り返しの付かない事態になってしまう。たとえ暴徒を皆殺しにしたとしても、勇者や教会に対する信頼は地に落ち、二度と浮かび上がることもなく、この国は滅んでしまう。そんな気がするのです。


それに、まだ確信はありませんが、この事態に至って魔族が静観してくれるとも思えないのです。リュミエル教の総本山であり、魔族にとって邪魔で仕方のないこのリュミエルと言う国を滅ぼす千載一遇の好機とも言える時に、彼等が何もしないはずがありません。


私が魔族なら、乱れに乱れたこの時を狙って、総力をぶつけてくるでしょうから。


「国内の事は騎士団で対処出来る。しかし、魔族が出張ってくればお主が出るしかない。聖騎士団の大半は魔族に対する西の守りで動かせんし、厳しくなるじゃろうが……」


そう。事ここに居たってなお、メリア達は直接姿を見せていないのです。裏で糸を引いている彼女達『虐げられた者』がいつでてくるのか。それに対する対処も考えておかねばならないのですから。


「も、申し上げます! 早馬が! 西から早馬が!」


取り乱し、息も絶え絶えの伝令が飛び込んできたのはそんな時でした。その時、私と教皇様は不思議なほど落ち着いていたのを覚えています。まさか――と言うより、やはり――と言う気持ちの方が大きかったためでしょう。


魔族動く――そんな急報が国境からもたらされた時、来るべき時が来たか……と、そう思ったのでした。

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