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第130話 救出

ヴェルナが攫われたのは私がシモンの実家を後にして、シモンが加勢するため家を離れた直後だったらしい。つまり時間的にそれ程差が無く、連中は私がその場に居たとしても、お構いなしで襲いかかるつもりだったんだろう。


「……ずっとこっちの居場所を把握していたって事?」

「そう考えるのが自然だと思う。たぶん街に入った時からつけられていたんだ。……くそっ! 俺がもっと注意深く回りを見ていれば!」


シモンが壁を殴りつけながら悔しそうに呻く。幸い、彼の家族は無事だった。ヴェルナが大人しく投降するのを条件に、手を出さないようにと約束させたらしい。


「嘆いていても仕方ないよシモン。大事なのは後悔することじゃない。どうやってヴェルナを取り戻すかなんだから」

「……そうだった。お嬢様を取り戻さなくちゃ」


シモンが代わりに激昂していたので、私は比較的冷静でいられた。改めて考えてみる。連中はどんな理由でヴェルナを攫ったんだろう? もともと彼女はスティードが自分のものにしたいと考えていた女性だ。だったらスティードに対する献上品目的なの? 全く可能性がないとも言えないけど、それだけじゃ弱い気がする。


私が城の連中を蹴散らしていない状態ならその理由でも不自然じゃない。でも、状況は良くも悪くも変化してしまった。だったら私達に対する人質ってのが一番可能性が高いのかな?


「ヴェルナを攫った時、連中は何か言ってませんでした?」

「城へ戻ると言っていました。でも急に外が騒がしくなって……。奴等の仲間が血相変えてやって来たんです。化け物が出たから逃げるぞって……」


シモンの母親が青い顔でそう答えた。化け物……たぶん大通りで暴れ回ったソルのことだ。


「他には?」

「城は駄目だって。その後すぐに出て行ってしまって」


……まだ街の中に居る? いや、その可能性は低いか。ほとんど全滅近くまで追い詰められた状況で、なお街に残るほど連中に根性があるとも思えない。なら――


「街の外に逃げたのかも?」

「なんだって!?」


シモンが驚く。確証はない。ないけど、それが一番可能性が高いように感じる。もともと奴等はスティードに対する忠誠心なんて持ち合わせていないはずだ。自分が一番可愛いならず者の集まりだし、ヴェルナを人質に逃げるか、スティードに対するご機嫌取りに使うかのどっちかだろう。どちらにせよ、それは街を出なければ出来ない事だ。ならさっさと逃げたと考えるのが自然だと思う。


「そんなに時間は経ってないはずだから、追いかければまだ間に合うかも知れない。シモンはどうする?」

「もちろんついて行くさ! お嬢様が攫われたってのにジッとしていられるか!」


そうと決まれば行動は早いほうが良い。私とシモンは今来た道を戻り、城へと走った。城へ続く大通りには戦いの跡が生々しく残されたままで、時折近所の住人が路地の影から様子を窺っているだけだった。まだ日が昇ってないし、片付けるのはこれからになるだろう。バラバラに引き裂かれた黒騎士の死体の横を駆け抜け、城の城門まで辿り着いた私達はそのまま中に入り込み、迷わず厩舎を目指す。


「こっちだ!」


案内はもちろんシモン。城内を出入りしていた彼は案内役にピッタリだ。運良く残っていた馬に飛び乗って城を飛び出したあと、私達は二つある街の門――北門と南門の内、南門へ走り出した。スティードの居る王都は町の南。北に進んだところで違う国に行くだけだから、連中は南に進んだに決まっている。予想が外れていたら目も当てられないけど、どっち道調べていたら追いつくどころじゃなくなるんだ。賭けるしかない。


見る見る迫って知る門に人影はない。詰め所に居るはずの兵士は逃げてしまったのか、門は明け放れたままだった。


「ディエーリア!」


シモンが指さす先には地面があり、そこには真新しい蹄の跡が見えた。日中なら人の行き来で簡単に消えてしまうものが残っていると言う事は、少し前に誰かが馬でここを通った証拠に違いない。私とシモンは馬に鞭を入れ、更に馬の速度を上げた。


「はぁ……! はぁ……!」


息が荒れる。魔力は徐々に回復しているものの、万全の状態とは程遠い状態だ。ソルを操って連中と戦わせた負担は思った以上に大きかったらしい。


「見えた!」


シモンが指さす街道の先にいくつかの人馬が見えてきた。数は全部で三騎。内一騎は馬の後ろに何か大きな荷物を括り付けているように見える。いや――あれは荷物じゃない。人だ! モゾモゾと動くそれは間違いなく人間をぐるぐる巻きに縛り付けたものに違いない。


「お嬢様!」


叫びながらシモンが一気に加速する。その一声で連中も追っ手に気がついたのか、慌て始めたみたいだ。馬に鞭を入れてシモンの跡を追うと、連中は覚悟を決めたのか馬から下り、剣を抜いてこちらを迎撃する構えを見せた。


「止まれ! この女がどうなっても良いのか!」


黒騎士の一人が馬に縛り付けたままのヴェルナに剣を突きつけた。慌てて手綱を引き急停止するシモン。勢い余って落馬した彼はゴロゴロと転がり、そのまま黒騎士達の側まで近づいていく。他の黒騎士が彼に注意を向けたその時、私の準備は既に終わっていた。


「偶然だけど良くやったわシモン!」


人質を取られた状態でも私は馬を止めない。馬上で弓を構えた私はヴェルナが縛り付けられたままの馬に弓を放つ。矢は鋭い音を発して闇夜を飛び、馬の尻を鏃で浅く裂いた。


「ヒヒヒィィン!」


突然の痛みに馬が驚き暴れ出す。普通の馬でも危ないのに暴れているのは軍馬だ。蹴り上げられた後ろ足が直撃でもしようものなら、人間ぐらい簡単に殺されるだろう。


「くっ! くそ!」

「シモン!」

「お嬢様!」


放たれた第二射は黒騎士の首元に突き刺さり一瞬で絶命させる。残り二人の内一人にシモンが襲いかかる。


「おおおおお!」

「こ、このガキが!」


シモンと黒騎士の実力差は明白だ。冷静になられては負ける。敵が慌てている内に勝利を決める必要があった。私はシモンと争っている黒騎士の背に最後の矢を放つと同時に弓から手を放し、そのまま馬を走らせる。そして最後に残った一人の黒騎士にすれ違い様飛びついた。


「うわ!?」

「ぐ!?」


取っ組み合ったままゴロゴロと地面を転がる。黒騎士をクッションにして落馬のダメージを軽減したものの、やはり痛いものは痛い。体のあちこちをぶつけて擦りむいて、涙目になりながら黒騎士の顔面に剣の柄を叩き込む。


「この糞アマ――」


鼻血を撒き散らし、体勢を立て直した黒騎士が怒りの形相で立ち上がったその瞬間、彼は地べたに勢いよく叩きつけられた。体の半分以上を地面にめり込ませて。それもそのはず。暴れ馬が全体重を

乗せた前足の一撃を背中から加えたからだ。剣で切り結んで死ぬならともかく、馬に踏み殺されたのは敵ながら気の毒だと思うけど、私にはそれに構う余裕は無かった。なぜなら暴れ馬が今度は私を標的にしたからだ。


「わわわ!? ちょっと! あっち行きなさいよ!」

「ヒヒヒィィン!」


動物に説得など通用するはずがなく、私は慌ててその場を逃げる。シモンはと視線を向けると、彼はちょうど黒騎士を仕留めたところだった。背中から矢の不意打ちを食らっただけあって、シモンでも何とかなったらしい。シモンは暴れ馬に縛り付けられたままのヴェルナを何とかして助けようと駆け寄ってくる。でも、理性を失った馬を力尽くで取り押さえるのは今の私やシモンに無理だった。


結局、落ち着きを取り戻した馬からヴェルナを助け出せたのは少し時間が経ってから。簀巻きから解放されたヴェルナは白目を剥いたまま吐瀉物を口から溢れさせ、それはそれは残念なことになっていた。貴族の令嬢としての威厳が欠片もないどころか、出来れば近寄りたくない状態で。


ま、助かったから良いよね。私とシモンはお互いに自分を納得させていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恐怖の意表を突いた強制ロディオ・・・。 ヴェルナ嬢に同情・・・。(´・ω・`)ヾ(・ω・*)なでなで
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