こいつは怪しい雲行きだぜぇ
今日で町に来て四日目だ。
初日から襲撃展開を迎えた町での生活だったけど、普通に穏やかに過ごせている。
というよりこれ以上巻き込まれたくないってこともあって基本引きこもって暮らしていた。
しかし、仕立て屋から頼んでいた服が完成したと連絡があった以上外に出ないわけにはいかない。
手短に支度を済ませると宿を後にした。
町の様子に変化はない。
けれど、噂が収まってきたみたいで自分に向けられる好奇の視線はあまり感じなくなった。
そして服を受け取て着替えてみるともはや田舎から現れた天才調合師の面影は消えて、自由に動き回れそうだ。
?:「エイタ・オオミヤ様ではございませんか?」
突然メイド服を着た女性に尋ねられる。
そうだ思い出した。
ジェンセンさんの屋敷で見た覚えがある。
確か紅茶を用意してくれたメイドさんだ。
エイタ:「確かあなたはジェンセンさんの屋敷でお見かけした...」
?:「ポートランド家のメイドを務めさせて頂いております、サテラと申します。」
メイド喫茶のような服装ではなく、いかにも保母さんといったたたずまいだ。
確かに科学技術の劣るこの世界でメイド服のようなコスプレ服は難しいだろうけど。
なんだか夢を壊されたような気分になってしまった。
エイタ:「あっ、調合師のエイタです。」
がっかりしたことを気取らせないようにごまかすように自己紹介をした。
コミュ力があればもっと気の利いたセリフで自己紹介ができるんだろうけど、こちとら数々の不採用を獲得したコミュ力の持ち主で不意の応対はこんな感じになってしまう。
サテラ:「洞窟でサーシャ様とユーナ様に出会われたそうですね。
お二方はご健在だったでしょうか?」
エイタ:「二人とも仲良くやっているみたいですよ。
秘密基地みたいで楽しそうでしたよ。」
サテラ:「本当に良かったです。
あんなことがあってもやはり姉妹ですものね...」
少し寂しそうな表情で応える。
エイタ:「そういえば髪の色が対称的でしたけど、二人は血のつながった姉妹なんですか?」
サーシャは銀髪、ユーナは金髪でどこか似ているけど姉妹と呼ぶには少し違和感があった。
サテラ:「腹違いの姉妹になります。
ジェンセン様には三人の奥様がいました。」
辛そうなサテラさんの表情を見ると、それ以上は訊けなかった。
コミュ力はなくともそれくらいの空気は読めるのですよ。
むしろ空気を読み過ぎて、コミュ障になっている気がする。
用事があるのでと市場に向かうサテラさんと別れ宿に戻った。
ジェンセン様には三人の奥様がいました。
やっぱり過去形ってことは今は三人はいないってことだよね。
エイタ:「ただの家出じゃなさそうだな...」
いかにもできる刑事が事件の臭いをかぎつけた風にハードボイルドにつぶやく。
はい、黒歴史が増えました!
ここまでが初めての異世界派遣の前編になります。
続きの後編は明日まとめて公開します。
後編ではチート過ぎる神様能力が大活躍?