実験は周囲の安全を確認して計画的にやろう!
少女を抱きかかえて一安心している姿が犯罪者チックだったのは認めるけど、いきなりナイフで攻撃って酷くないですか?
自分を背後からナイフで攻撃した少女は未だ驚愕の表情をしている。
倒れている少女とどことなく顔の作りが似ていて、年のころも同じような雰囲気だ。
だが髪の色が金髪で、きつそうな目つきをしている。
少女:「サーシャに何をした?」
しばらくするとはっとした表情をした後に訊ねてきた。
エイタ:「ちょっと洞窟に立ちよったら女の子が倒れてたから介抱しただけだよ。」
少女:「本当か?」
訝し気ながらも倒れている少女に近づいて状況を確認している。
少女:「またか...」
あきれるようにつぶやいた。
もしかしてあのあからさま毒キノコを前にも食べたのか?
そこで一つの考えが思い浮かんだ。
エイタ:「もしかして自殺?」
そうでなければあんな分かりやすい毒キノコを繰り返し食べる理由が思いつかない。
少女:「違う、この子はその... ものすごくあれなんだ...」
そういって力なく座り込む。
あれってなんですか?
それからは警戒を解いてくれて事情が明らかになった。
倒れている銀髪の少女がサーシャ。
実験と称して色んなチャレンジを繰り返してきたみたい。
そして金髪の少女がユーナ。
目を離すと繰り返される奇行に疲れ切っている印象だ。
サーシャ:「うーん、ここは天国ですかぁ?」
呑気つぶやく彼女にげんこつを食らわせるユーナ。
ユーナ:「いったいなんで... はぁ...」
問い詰めるのも面倒くさいという感じだ。
サーシャ:「だってここまではっきりと毒物ってわかるきのこ誰も食べたこと無いでしょ?
だからこそ食べてみたんだよ!」
げんこつで意識がはっきりしたのか勢いよく話し出す。
エイタ:「予想通り毒物だったわけで、ほっといたら死んだかもしれないんだよ?」
呆れて遠い目をしているユーナに代わって訊いてみる。
サーシャ:「まさか特性の解毒薬まで効かないなんて思わなかったんだもん!」
そういって薬の瓶を差し出す。
半分ほど減っているところを見ると一応服用はしたみたいだ。
けれど毒性が上回ったらしい。
サーシャ:「ところであなた誰?」
するとまたもや炸裂するげんこつ。
ユーナ:「助けてもらった恩人になんて口を訊くんだ。
すいません、解毒薬の費用は払います。」
よく分かっていないサーシャの頭を無理やり下げつつ、頭を下げるユーナ
エイタ:「別に良いんです。道中拾った薬草を調合したものですから。」
ユーナ:「もしかして調合師様なのですか?
私たちのためわざわざ調合までしてくれて感謝しかありません。」
一瞬強張った表情をした後に、えらく畏まった口調で話す。
AIさんに調合師についてこっそり訪ねてみる。
AI:「調合のスキルはごく一部の人間だけに現れ、薬草の調合はスキルでのみ可能です。
田舎町では調合師が町の長を務めることがほとんどで町の顔役とも言われています。」
RPGだとデフォルトで備わっているスキルだけど、この世界では貴重なスキルらしい。
確かに薬の調合は命に直結するスキルだし、与えられる役職も相当なものになるのも納得か。
ってもしかしてAIさんの声が聞かれたって思ったけど、どうやらAIさんの声は自分にしか聞こえていないみたいで安心した。
エイタ:「毒キノコを食べた経緯は分かったけど、なんで洞窟で?」
ふと思ったことを口にした。
ユーナ:「ここは私たちの住処ですから...」
少し寂しそうな表情で応える。
確かに良く見ると家具みたいな岩や木材が散らばっていて、秘密基地みたいだけど。
なるほど家出でもしてるのかな?
エイタ:「でも両親も心配するし、ちゃんと家に帰るんだよ。」
ユーナ:「はい...」
寂しそうな笑顔見せながら応える。
この時はまだ異世界に来たという認識が薄く、この世界について理解できていなかった。
そしていかに自分が安全な世界で生きてきたことを再確認することになる。
次回、現実が襲ってきます。