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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
幕間:回想
36/37

1-2


 どうやら、ユイとマナの関係はちょっとした噂になっているらしかった。

 堂々と告白をした女子と、最低の返答をした男子、というのが噂の内容だ。ほとんど話をしたこともないようなクラスメイトに苦笑交じりに聞かされて、ユイもそれを知ることとなった。

 女子からは少し敬遠されるようになった気がした。攻撃されるならともかく、実害が無いならユイにとってそれはどうでもいいことだったので無視していた。


 付き合うようになってから、マナはひたすらにユイのことを求め続けていた。朝は一番に声をかけに来て、帰りはギリギリの時間までユイと一緒の時間を過ごそうとしていた。

 マナは時間さえあればどんな時だろうとユイの側を離れなかった。ユイが発したどんな小さな言葉にも全力で最大限に応えてくれた。どんな些細な約束も絶対に守ろうとしてくれた。並んで歩くときは必ず手を握るか、腕を組んできた。ユイの全ての行動に対して、笑顔で返してくれた。


 それはユイにとって初めての経験だった。ユイがどんな態度を取ろうと、マナはユイの側を離れない。少々突き放しても次の瞬間には距離を詰め、何もしなくても嬉しそうに側にいる。

 それはユイには理解の及ばない行動だった。何が嬉しいのか分からない。何がしたいのか分からない。ユイの近くにいることのいったい何が彼女に喜びを与えているのか。


 よく分からなかったので、ユイはマナを見るようになった。マナはいつも嬉しそうな瞳で応えてくれた。気になったので声をかけるようになった。マナはいつも弾んだ声を返してくれた。いつも手を握ってくるので握り返してみた。マナはいつも幸せそうな笑顔を浮かべてくれた。もっといろんなマナが見てみたいと思って、帰りや休みの日にユイから誘ってみるようになった。マナはいつもユイを何よりも最優先にしてくれた。触れる髪の毛は柔らかく甘い香りがして、手を添える頬は温かくて気持ちよかった。


 誰かが側にいてくれること。好きだと言って触れてくれること。それは思っていた以上に心地よく、安らぎを与えてくれるものだった。

 安心というのはこういう感じなのかと、ユイはマナに出会って始めて知った。ユイは感情が抜け落ちているのと同時、それを知る機会に恵まれてもいなかったようだ。


 マナが側にいてくれると、身体の力が抜けてその場に腰を落ち着けていたくなる。そうして生まれる感情は、かつてのユイには無かった温かな感情だった。

 マナの傍に居ると安心する。そういう時に一体どうすればこの気持ちを落ち着かせればいいのか分からなかったので、マナの行動を参考にしてみることにした。


 だからユイは、身を寄せるマナにこちらからも身を寄せるようになった。それでも足りないと思ったので、マナを抱き締めるようになった。もっと、マナが欲しいと思ったので唇を求めるようになった。マナはユイの好意の全てに一切嫌がる素振りも見せず、むしろユイを求めて自身の一部を積極的にユイの口内へ侵入させた。ユイもそれを受け入れ、こちらからもそれを返した。


 唇を離した時に間近に見えるマナの心から幸せそうな表情を見ていると、ユイも幸せな気分になれた。そう思うと自然と口元が緩み、笑みが浮かんだ。


 誰に対しても何の興味もないから、感情と言うものを表に出す機会が今まで一度もなかったけれど、マナといるとそれらが湧きあがる。嬉しいとか楽しいとか幸せとか、きっとそんな名前の感情が次から次へと際限なく溢れだす。


 そういう感情がきっと、恋なんだろうと思ったし、仮に違ったとしてもどうでも良かった。その感情が何であろうと、マナと一緒に居たいと思っていることに変わりはないのだから。


 当然、と言っていいのかどうかは分からないけれど、やがてユイはマナの体を求めた。マナの全てが欲しくて、その想いを抑えることなどできなくて、だからユイはマナを抱いた。

 マナはユイの全てを喜びで以て受け入れてくれて、破瓜の血を流しながらでさえも、その痛みですら幸せの一部だと言って笑顔を浮かべてくれた。


 ユイはそんなマナをただひたすらに愛しいと思った。こんなにも何かを求めたのは初めてだった。ずっとマナと一緒に居たくて、マナだけを求めていたいと思うようになった。


 それと同時に、ユイの中で1つの変化が起こった。

 それは自分に対する価値観。


 ユイはマナそのものと共に、マナの大切なものも守りたいと思うようになった。そしてマナの大切なものとは、とりもなおさずユイ自身のことだ。

 ユイはマナの幸せを望んでいて、マナの幸せはユイと一緒に居ることだけだと言ってくれる。マナはユイのことだけを求めてくれていた。


 だからユイは、マナの為に自分自身を大切にしようと思うようになった。ずっとどうでもいいと思っていた自分自身だったけれど、マナの幸せの為の自分であろうと思った。


 いつどんな時でもマナの傍に居てあげたい。マナの笑顔の為に、ユイはマナの傍に居る。なによりそうしなければ、マナの笑顔が見られない。それでは何の意味もない。

 だからユイはマナと、自分自身にも興味の対象を広げた。そしてやはり、ユイの興味はそこで止まった。結局それ以外には、何の興味も持てないままだった。


 マナと2人でいること。マナの笑顔を守ること。マナを幸せにすること。マナを求めること。

 それが全て。


 マナ


 それがユイの全てだった。


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