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アパートに帰ると、すぐにマナが出迎えてくれた。それは毎日のことで、ユイが待ち望んでいる瞬間でもある。
マナはすぐにコーヒーを淹れてくれた。いつも通り、それはユイの好きな味に調節されていて美味しかった。
「今日はちょっと帰るの遅かったね。なんで?」
「なんか、店に警察が来たから。殺人事件の捜査だって」
「あ、私のところにも来たよ。ワケ分かんないよね。誰が死んだってどうでもいいし、私全然関係ないのに」
マナの口調は至って本気だった。恐らくマナが一番の関係者だろうが、ともすれば本当に忘れてしまっているのかもしれない。それを指摘する気は、ユイにはないけれど。
「あのねユイくん、私ちょっとずつユイくんに似てきたかもしれない」
「どのへんが?」
急にマナがそんなことを言い始めて、ユイはつい首を傾げる。
「んーとね、怒らないところ」
ユイは思わず数度瞬きをしてマナを見つめた。
「‥‥今日、陸瀬さんと千尋さんといっぱい話できて楽しかったよ」
途端にマナの眼が鋭く尖って、膨れ面でユイを睨んだ。
「ユイくんのイジワル」
「怒らないんじゃなかったの?」
「もー、そんなこというユイくんなんて嫌い、になるはずないから大好きー」
ぎゅー、とマナに抱きつかれ、ユイもマナを抱き返す。
「なんでそんなこと思ったの?」
ユイが問うと、マナは腕の中で心地よさそうに頬を緩めていた。
「なんだかね、最近仕事中に前ほどイライラしなくなった気がするの。だから、私もユイくんみたいに心が広くなれたのかなって。ううん、なれたの。だって私ユイくんが大好きだから、似るのは当たり前だよね」
笑顔でそう語るマナに、思わずユイの頬が緩んだ。
「そっか。それは良かった」
2人きりで言葉を交わし、唇を交わし、体を交わす。
それは、あまりにいつも通りの、ユイとマナの姿だった。
誰が死のうと、誰を殺そうと、何も変わることのない、たった2人だけの世界。その世界は壊れることなく、だけどどうしようもなく歪んだまま、いつまでもそこに在り続ける。
今更気づくまでもなく、ユイとマナは正反対でありながら、よく似ている。
裏返しの性格で、だけど共通するのは触れ合った背中。見える部分は逆を向いていながら、重なり合って見えない部分は溶け合うように同じ色。
狂っている彼女をこんなにも愛することが出来る理由なんて、ひとつだけ――。
ユイは目の前で幸せそうに綻ぶマナを見つめて、幸せそうに呟いた。
「マナ、愛してるよ」
「私もだよ、ユイくん。世界で唯一、ユイくんだけが好きだよ」
ユイは、マナだけを見つめていた。
これはハッピーエンドなどではない。
ただの、幸福な毎日の続き。
いつも通りの毎日。
エンディングなど存在しない、終わることのない幸福。




