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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
3・幸せな殺意
33/37

4-1


 事件発覚から数日後、バイト先に警察がやって来た。被害者がよく店を訪れていたらしいと知り、聞き込みをしに来たらしい。

 ユイはその制服を見て一瞬だけ眉を顰めたが、すぐに興味を失った。


 警察はしばらく店長と話をしていて、監視カメラもあるにはあるがあまり多くは設置されていないので、口頭での質問を長めに受けているようだった。

 ユイ達も仕事が終わると、片付けもそこそこに聴取に時間を割かれていた。


「従業員のみなさんは、この男性について何か知っていることはありますか」


 警察に写真を見せられ、ユイは適当に記憶を探るがなかなか思い当たらない。


「あー、この人あれじゃない? いつもの、のウザいオッサン」


 まだスカーフを巻いたままの陸瀬は、すぐに思い当たったらしい。それを聞いてユイもようやくその男のことをぼんやりと思い出す。そういえば、そんなのもいたかもしれない。


「いやいや、ニュース出てたじゃん。気づかなかったの?」


 陸瀬の隣には千尋がちょこんと立って呆れたように2人を見上げていた。こうして並んで立つと、彼女の背の低さがより際立つようだ。


「あー、近所で事件あったらしいってのは見てましたけど、この人だったんですね」


 陸瀬も事件自体は知っていたようだが、まさかこんな身近な人物だとは思っていなかったらしい。

 そこまで聞いて、ユイはようやく思い至る。


 そうか、この男だったか。


 あまりに興味が薄かったせいで記憶が曖昧だったが、先日ニュースに出ていたのはこの男だったのか、と今更気がついた。そしてユイが記憶しているのはそのニュースの内容ではなく、そのニュースを見ていた――マナの表情。

 あの時ほんのりと笑っていたのはてっきり別の理由だと思っていたのだが、もしかするとこれのことだったのかもしれない。


 正直、ユイにとっては理由などどうでも良かったのだが。

 そこまで気づいて、ユイは思わず笑みを浮かべそうになった。もちろんこんなところで不自然に笑うわけにもいかず、ユイは対外的にはいつも通りの完全な無表情を保ったままだった。


「被害者はここで、普段はどんな様子でしたか」

「あ、はいはい! あたし重要参考人やります!」

「ちーせんぱい‥‥それほぼ容疑者って意味ですよ‥‥」


 警察の質問に勢いよく答えたのは千尋。千尋も時々ホールに出て働いているため、その男とも少なからず顔を合わせたことがあるらしい。


「まー、はっきり言っていい客ではなかったかな。態度悪いし、女の店員にだけやたら馴れ馴れしいし」


 千尋がかなりはっきりと述べるのに対し、陸瀬もうんうんとしきりに頷いている。


「いっつも何人か部下っぽい人を連れて来てて、会計はこの人が全部払ってたみたいだけど、あんまり慕われてる感じではなかったかな。一緒にいる人たちも、けっこう嫌々付き合わされてる感じがあったし。やたらへらへらしてるっていうか、へこへこしてるっていうか、そんな感じ」


 その辺りは、ユイと陸瀬はよく知らない情報である。直接金に触れるため、会計まで任されている店員は少ないからだ。


「だから動機っていうなら、その部下の人たちにも無くはないんだろうけど、さすがに殺してやるってほど張り詰めた空気も重苦しい空気もなかったと思うけどなー。上司に付き合わされるなんてよくある話だと思うし。刑事さんだって、よくそういうことあるんじゃないですか?」

「まあねえ、飲むの好きな上司も多いから」


 警察もすっかり千尋のペースにはまっているようだ。苦笑いしながら、何かメモは取りつつも愚痴らしきものがこぼれている。


「それに一緒に来てる部下も毎回違う顔だったと思うから、お店で見てる感じ個人的に恨みを持ってそうな人ってのは、あたしには分かんなかったかな。でも正直、あの態度だったら色んなところで恨みは割と買ってると思いますよ。あたしのコメントとしては、涙ながらに「どうしてあんなに優しい人が‥‥」っていうより、「まあ確かに、敵の多い人でしたから‥‥」って感じ」


 目元を手で隠しながら、機械音声を真似て語る千尋。なんだかずいぶんと楽しんでいるようだ。

 最後に「あたしに分かるのはそんくらいですな」と締めくくり、警察は礼を述べながらも浮かない表情だ。恐らく近い情報はすでに男の職場の人間から得ているのだろう。


「そちらのお2人は何か気づいた点はありますか」


 陸瀬は質問を振られ、ユイと目を合わせようとこちらを向いてきたので、ユイも一拍遅れて一応陸瀬と視線を合わせた。


「いやー、知ってることはちーせんぱいに全部言われた感じですね」

「俺もよく知りません。嫌われてましたし」

「嫌われていた、というのは」


 ユイの言葉に警察はすかさず反応する。不要な一言だったかと思ったが、すぐに陸瀬が顔をしかめてフォローしてくれた。


「さっきちーせんぱいが言ってたじゃないですか、女の子にだけ馴れ馴れしいって。だから男性の従業員はみんな嫌われてましたよ」

「そーだね。みなみんの何が気に入らないって、性別だろうね」

「そうそう。だから恨まれてたとしたら、絶対男の人だと思います。あ、でもセクハラとかしそうな顔だし、女の人にも嫌われてるかも。いや、絶対嫌われてますよ」


 結局どちらにも嫌われているという結論に達してしまっていた。要は、陸瀬が嫌っているのだろう。

 まあとにかく、これで容疑の目が男の周囲の人間に向いてくれればいいのだが。


「なるほど、ありがとうございます。ちなみに、みなさんは殺害予想時刻には何をしていましたか?」

「わたしは、家にいたと思います。多分、スマホゲームとかしてたんじゃないかなあ」

「あたしは向こうのラーメン屋で働いてましたよ」

「俺はここにいました」


 三者三様のアリバイを主張し、警察もとりあえずそれで納得したらしい。そもそも、3人にかけられている嫌疑は薄いのだろう。


「それからこれもちなみに、なんですけど、こちらの男性について何か知っていることはありませんか?」


 そうして警察は2人目の男性の写真を取り出した。その写真に写る男性を見て、ユイは眉ひとつ動かすことはなかった。

 陸瀬と千尋はその写真の男を見て、首を傾げる。


「常連、ではないよね? んー、でもなんか、最近どっかで見たような‥‥」

「俺は見覚えないですね」

「わたしも、ないと思います。関係者ですか?」

「いえ、実はこの男性も先日この近くで殺害されていまして、先程の男性との関連も見て捜査しているんです」

「あっ、そっか。その人もニュースで見た人だ。ごめんなさい、あたしもやっぱ知らないや」


 千尋が合点がいったという風にぽんと手を打ち、ぶんぶんと手を振って協力できないことを示した。


「この2名が一緒に居たということはありませんか?」

「いや、あたしは見たことないですよ。そっちの人は、単品でも見たことないと思う」

「‥‥うん、わたしも、見たことないと思います」

「すいません、俺も分かりません」

「水波くんは常連の顔さえ覚えてないもんねー」


 ユイの否定に、陸瀬が茶化しを入れてくる。千尋にも「だから嫌われてたんだよ」と笑いながら突っ込まれ、とりあえず3人の聴取はそれで終了となった。

 ご協力感謝します、と警察が去って、陸瀬は大きく息をついた。


「ぷはー、悪いことしてなくても、警察が前に立つとドキドキしちゃうよー」

「あはは、あたしはワクワクしてたけどね。某居酒屋の従業員としてあたしのコメントも報道されないかな」

「いやー、警察とマスコミは別モノだから、今のは出ないと思いますよ」

「えー、つまんねー。あたしもテレビ出たーい! 『被害者がよく利用していた居酒屋の美少女従業員のちーたまは「殺害するなら金をくれ!」などと意味不明な供述をしており‥‥』とか言われてみたい!」

「だからちーせんぱい、それ容疑者。ちーせんぱい殺害されてねーし。しかも自分で美少女とか。ていうかちーたまって何のつまみですか。ていうか突っ込みどころ多すぎ!」


 あははー、と楽しげに笑う2人を見ながら、ユイはほとんど表情を動かさないまま胸中で小さく安堵の息をついていた。


 少しばかり予定外のことも起ってはいるが、ひとまず問題はなさそうである。聞く限り証拠も見つかっていなさそうだし、被害者同士の関連は恐らく皆無。だが関連があるとみて捜査してくれればかく乱されてむしろ都合がいいかもしれない。

 最初に見せられた男も、一応ユイとの関係もなくはないが、殺したのは恐らくマナだ。それこそ、ユイには関係のない話である。


 3人は警察のせいで遅れてしまった店の片づけを手早く済ませると、おつかれさまーと言い合って店を後にする。


 淡々と仕事をこなし、淡々と周囲の人間と付き合い、淡々とアパートへ帰る為自転車を走らせる。

 それは、あまりにいつも通りのユイの姿だった。


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