7-3
後日、バイト先で陸瀬に会うや否や、深く頭を下げられた。
「水波くん、ごめんなさい」
それが何に対してかよく分からず、ユイは「なにが?」と返す。陸瀬は恐る恐る顔をあげ、取り合う気もないわけではないと分かると、それはそれで驚いて言葉を続けた。
「いや、だって、この間、その、思いっきり殴っちゃったし」
陸瀬は再び視線を下げ、ユイはようやく「ああ」と謝罪の内容に思い当たった。
「別に気にしてないよ」
「本当にごめんなさい。傷になったりしてない?」
「大丈夫。まあ、マナもやりすぎたと思うし」
そう言うと、陸瀬は疑念の表情を浮かべて顔を上げた。
「‥‥あのさ、水波くん、なんで香澄さんと付き合ってんの?」
尋ねられてしばらく考え、考えたが他にどう答えようもなかったので、一番分かりやすいであろう理由を答えた。
「好きだから」
その答えに陸瀬は眉をひそめ、重ねて尋ねる。
「どこが?」
彼女のどこが好きなんですか? なんて冷やかしの定番のような質問だが、陸瀬の言葉にはそのような軽さは一切含まれていない。
どう考えても失礼に当たるその尋ね方に、ユイはしかし態度を荒げる素振りも見せず曖昧な態度で首を捻る。
「別に、どこって具体的に言えるものでもないんだけど」
「‥‥ふうん」
以前のこともあってか、陸瀬はそれ以上尋ねてこようとはしない。下手に喋ると、確実に否定になってしまうことを自覚しているのだろう。
正直なところユイとしても、その気遣いはありがたかった。突っ込んで聞かれたところでまともに答える気などないし、それが双方にとって最も無難な対応のはずだ。
「陸瀬さんは、大丈夫?」
ユイは陸瀬の首を見て、一応気遣いを見せた。
「うん、もう痛みとかはないし。‥‥痕はまだ残ってるけど」
恐らくマナのことを考えながら、陸瀬は憎らしげに一言を付け足した。
その首にはお洒落にも見えるようにスカーフが巻かれていて、絞首の痕を覆っている。
「止めるの遅れたし、俺の責任でもあると思うしさ、悪かったよ」
「い、いやいやっ、別に水波くんを責めてるわけじゃないから!」
淡々としたユイの謝罪に、陸瀬は慌ててぶんぶんと両手を振った。
「だってまあ、悪いのは‥‥ほら、今回はさすがに、香澄さん、でしょ‥‥」
かなり遠慮がちに、陸瀬はユイの様子を気にしながら小さく呟く。
「‥‥‥‥」
そんな陸瀬を、ユイはじっと見つめた。
別に、怒っているわけではない。少し気になることがあって観察しているだけだ。
「え、なに‥‥? どうかした?」
突然のその行為に、陸瀬は戸惑って視線をうろつかせる。
しばらく陸瀬を見つめ、しかしユイは目立った反応も見せず視線を逸らした。
「いや、なんでもない」
陸瀬は首を傾げ、ユイはそれ以上何も答えなかった。
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