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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
2・無関心と殺意
25/37

7-1


 ある平日の昼時。ユイはマナと共にキャンパスの片隅の休憩スペースで2人、昼食を取っていた。

 2人が食べているのはマナの手作り弁当。家事は分担しているが、これだけはマナは決して譲らず、弁当に関してはいつもユイが楽をさせてもらっていた。


 この休憩スペースはあまり人気(にんき)が無く、整備や掃除も行き届いておらずそれがさらに不人気に拍車をかけ、そのせいでほとんど人が来ないマナのお気に入りスペースだった。今は特に寒くなってきた季節のせいもあり、そもそも外などで食べている学生の姿自体が限りなく皆無である。


 季節的にそろそろ屋外で食べるのも限界な気もするが、人ゴミと寒さであれば、マナは迷わず寒さを選ぶだろう。もしかすると、いちいち家に帰る手間を取るかもしれない。なんにせよ他人がいる場所を選ぶことはありえないと言っていい。


 ユイは別に2人きりにそこまでの執着はないのだが、マナはユイ以外の存在が近くにあるとひどく不機嫌になってしまうので、何のこだわりもないユイはマナの希望に合わせていた。

 マナの手によってそこだけ綺麗にされた机の上に弁当を並べ、その2つだけ綺麗にされた椅子を横に並べて食事に興じる。


 マナの弁当は贔屓目を抜きにしても、かなり美味いといって差し支えないものだ。それはマナの料理の腕がいいことは当然、ユイに好みに合わせてくれているからでもある。

 しかしユイの好みなどというものは、正直ほとんどないと言っても過言ではない。食に対するこだわりなど無く、何を食べようと感想と言えるほどの感想を抱くことはない。


 とはいっても、魚よりは肉が好きだとか、味付けは濃いめよりは薄めが好きだとか、比べていけばベターは存在する。

 好きも嫌いもほとんど語らないユイの、そうしたベターを少しずつ探ってゆき、最終的に自分ですら知らなかったベストを探り当てたのが、マナであった。


 だからユイに食事に抱く感慨はほとんどないが、マナの作る料理だけはとても美味いと感じるのだ。

 そんな弁当をユイは黙々と食べている。ほとんど表情を変えることなく、特に賛辞を述べることもなく。

 そんな弁当を食べるユイを、マナは嬉しそうに眺めている。幸せそうな笑顔を浮かべて、ねぎらいの言葉を急かすこともなく。


 今ここにあるのは、恋人同士の、2人きりの食事の空間である。マナはともかく、ユイの態度はどう考えてもこの場にふさわしいとは言い難いという自覚はあった。しかしマナはそんなこと全く気にしていない様子であり、ユイ自身それをどうにかしようなどとは全く考えていなかった。マナがこれで満足しているなら、それでいい。


 その空間に、遠くから聞こえてくるばかりだった生徒たちの話声がひと組ぶん近づいてきていた。ユイはそれに気づいても特に気にしていなかったが、遅ればせながら気づいたマナは不機嫌さを押し隠そうともせず声のする方を睨んでいた。


 やがて2人の前に姿を現したのは、2人の女学生。内1人はユイもよく知る陸瀬秋奈だった。もう1人とも面識はあるが、数言交わしたことがあるという程度でしかない。その人物を認め、マナの瞳がさらに冷たく細められる。


 しばらく談笑に興じていた2人だったが、陸瀬はふとユイに気づくと表情を明るくし、しかしマナに気づいて思わず足を止めた。が、すぐに無理矢理笑顔を作りなおしてこちらへとやって来た。


「やっほ、水波くん。こんなところで何してんの」

「何って、見ての通りだけど」

「あはは、まー確かにそうだけどさ。水波くんは相変わらずクールですなー」


 陸瀬は睨みつけるマナのことを気にしないまま会話を続ける。


「ていうか、なんでこんな隅っこにいるの?」

「静かだから」

「なるほどねー。でも、あんま綺麗じゃなくない?」

「座る場所くらいは綺麗にしてるよ」

「あ、ほんとだ。んー、でもホントにその部分だけなんだね。そこ以外はあんまり、腰を落ち着けたい場所じゃないっぽいけど」


 マナは陸瀬を鋭く睨み続け、陸瀬の友人はマナのことをちらちらと気にしながら困った顔をしている。それでも陸瀬は立ち去ろうとせず、ユイも関心も拒絶も見せることないまま会話に応じていた。


 正直、陸瀬のこの行動は不可解だった。なぜマナがいるのを分かっていながらユイに話しかけてくるのか。陸瀬がマナを嫌っているのは明白なのに。

 むしろ嫌っているからこそ、皮肉を込めた行動なのかもしれない。どちらにせよ、ユイには理解しがたい行為でしかないのだが。


「良かったらさ、わたしらもここで食べちゃっていい?」


 陸瀬が明るい声でそう提案してくる。陸瀬の友人は苦い表情をしつつも否定することはできないらしく、ユイとしても断る理由は無いのだが――マナに目を向けると、当然というべきかこちらは断る理由しかないようだった。


「ふざけないで」


 椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、真正面から陸瀬を睨みつけた。


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