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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
2・無関心と殺意
22/37

6-1


 準備を進めているとはいっても、それはあくまで空いた時間でしか進めていなかった。

 ユイの為にすることではあるけれど、そのせいでユイとの時間を削っていては何の意味もない。だからその準備は、基本的にユイがバイトで一緒にいられない時間にだけすることにしていた。たとえ実行が遅くなったとしても、これは飽くまで二の次であるということを忘れてはならない。


 というわけで、マナは現在パソコンを打つユイの腕の中に収まってごろごろと甘えていた。

 ユイはじゃれついてくるマナをものともせずに、ぱちぱちとパソコンを打ち続けている。作業内容は大学のレポート。同じ講義を受けているならマナもしなければならないはずだが、ユイが作り終わってから似たり寄ったりの内容で写させてもらう予定なので、今はユイに甘えることに専念する。別に頼りっきりというワケではなく、レポートの作成は交替で行っているので今回はユイの番というだけだ。


 わざわざ自分でする気は皆無だった。マナにとってユイに甘える時間を捻出することは最重要事項であり、ユイに甘えること以上に優先される事柄などあるはずがないのだから。

 甘えられる時に甘えないなんて、何のために生きているのか分からないと言ってしまえるレベルの話である。だからマナは、可能な限りユイに甘えまくる。


 ユイの首筋を甘噛みすると、画面に視線を固定したままのユイに耳をかじり返されてくすぐったかった。

 甘く歯を立てた首筋は、いつもと同じユイの味がする。きっとマナは食事をしなくても、こうしてユイだけをかじっていれば十分な気がした。いや、もはや確信といってもいい。

 マナは、ユイだけがいれば間違いなく生きてゆける。そしてそれはユイだって同じに違いないから、自分たちはとてもエコロジーな存在だと思った。もっとも、地球環境になどマナはなんの興味も抱いていないけれど。


「何かマナ、最近機嫌良くない?」


 パソコンを打ちながら、突然ユイにそんなことを尋ねられた。

 自分に関する質問は嬉しい。それだけユイがマナのことを見て、マナのことを気にしてくれていることが良く分かるから。


「うん。ユイくんがいるから」

「いや、何かここんとこ、いつもプラスちょびっとご機嫌な感じ」


 右手でマウスをカチカチといじりながら、空いた左手でマナのほっぺたをぐにぐに。マナはその手を掴んでユイの指をがじがじ。


「なんかそわそわしてるっていうか、隠しごとしてるだろ。俺を驚かそうとしてるか、喜ばそうとしてるか、そんな感じ」


 さすがというべきか、ほとんど正解だった。やはりマナのことならなんでも解ってくれているのだと、嬉しくなる。


 しかし当たっているからこそ、教えるわけにはいかない。大前提として、これはマナの独断ですることだということを崩してはならない。それに「殺してあげるね」よりも「殺してあげたよ」のほうが甲斐甲斐しさが増すような気がするから。


 上手い誤魔化し文句も特に思いつかず、とりあえずキスをして誤魔化してみた。ユイは誤魔化されたことに気づいているようだったけれど、深く追求してこようとはしなかった。

 そのままユイは無言で作業を続け、マナも無言で作業を続ける。ちなみにマナの作業内容は、ユイを抱き締めたりかじったりすることだ。


「なあ、マナ」


 ふと、ユイがキーボードを叩く手を止めて、間近でマナを見つめた。


「マナは、俺の為だったら何でもできるよな」


 突然のそんな質問。マナは思わず首を傾げる。だって、そんなこと、


「聞かれるまでもないよ? 何でもしてあげる」


 マナはうっとりと笑顔を浮かべて答えた。いい加減な返答でも、誇張表現でも何でもない。まさに言葉通り、何でも。

 ユイが望むなら、マナは何だってしてみせる。たとえそれが一見無謀なものでも、なんとしてでもやってみせる。誰かを殺すことだって‥‥とはいっても、別にそれは特別なことでも何でもない。人だろうと動物だろうと、マナに言わせればユイ以外という点で全て同列の存在だから。人間の場合は少しばかり、面倒が多いというだけのこと。


「あ、でも」


 1つだけ、例外があった。


「死ねって言われたら、ちょっと迷っちゃうかも」

「そうなんだ?」


 意外そうに、というわけではなくとりあえず聞き返してみた様子のユイ。


「うん、だって死んじゃったら、ユイくんといちゃいちゃできないもん。抱きついたりできないし、キスもできないし、エッチもできないんだよ? そんなの絶対、耐えられない。それこそ、考えただけで死んじゃいそう」


 マナは言葉通り、ユイを抱き締めてキスをした。エッチは、レポートが終わるまで待った方がいいかもしれないけれど。


「あー、そうだな。俺もそうかも」


 ユイもいつも通りの気のない様子でそれに同意した。


「じゃ、誰かが死ぬのは?」


 マナは、再び首を傾げる。そんなこと、やはり聞かれるまでもないようなことだから。


「なんでダメなの?」


 むしろ、なにを聞かれているのかが良く分からなかった。


「ユイくんと私以外ってことでしょ? なんで死んじゃダメなの? むしろ死んじゃえばいいんじゃないの?」


 この世に必要ないモノが消えることに、何の疑問を挟む余地があるというのだろうか。ユイの言葉の真意を測りかね、マナはじっとユイを見つめた。


「どうしてそんなこと聞くの?」

「んー、いや、なんとなく、確認みたいなものかな」


 ユイは言葉を濁して、再びキーボードを叩く作業に戻った。


「‥‥まあ、やっぱ、そうだよな」


 最後に小さく呟いて、ユイは再び黙り込んだ。

 結局よく分からず、なんにせよ考えるまでもないようなことなので、マナもそれ以上は何も言わず再びユイに体を擦りつける作業に戻ることにした。

 それにしても、そんなことを言われたら気分が高揚してきてしまう。


 ――ああ、早く、ユイくんの為にあいつを殺しちゃいたいなあ。



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