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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
2・無関心と殺意
20/37

4-2


「すぐに戻ってくるね」


 ちゅぱ、と嬉しそうに自らの小指を咥えてから、マナは渋々と音を立てながら重い足取りで戻って行った。

 仕事に集中しなさい、という発言は控えておくことにする。言ったところであまり効果もないだろうし。結局マナの背中に呆れた視線を向けるだけに留めた。


 マナはその後も合間を縫ってユイのところを行ったり来たり。むしろユイの側にいる合間を縫って仕事をしていると言ったほうが近いのではないだろうか。


 そんなマナの不真面目すぎる勤務態度を見ながら、ユイはあることに気がついて、へぇと珍しく感心の声を漏らした。それほどまでに、それは驚くべき事柄だったからだ。

 マナの態度を見ていると、ほんのわずか、本当に微々たるものでしかないのだけれど、あの氷雨という店員に対する態度だけが、柔らかい気がするのだ。


 もちろん、普段のマナの態度を基準としての柔らかさである。普通の人の態度としては十分刺々しい。が、それにしても、あのマナが態度を和らげるなど初めて見る光景かもしれない。

 マナも少しは成長している、というよりは恐らく、あの氷雨という女性が並外れた器量とコミュニケーション能力を持っているのだろう。


 いや、やや抽象的かもしれないが、包容力、とでも言ったほうが近いのかもしれない。あくまで、傍から眺めている限りの印象でしかないけれど。

 意外とはいえ、それは非常に嬉しい変化だ。マナの極端なまでの人嫌いも、これをきっかけに少しは緩和されるだろうか。


 様々な考えを巡らせて、思わず笑みがこぼれそうになる。考えあってここにマナを斡旋したわけだが、どうやら正しい選択だったようだ。もちろん、彼女以外の店の人間には災難でしかないのかもしれないけれど。これももちろん、客も含めて。


 そして交代の店員がやってきて、終了の時間となると同時にバックルームに引っ込んだかと思うと、帰る準備万端で即座に姿を現した。恐らく、仕事が始まる瞬間から準備は万端だったのだろうけれど。


「ごめんねユイくん、待たせちゃって」

「いいよ。マナの仕事姿眺められたから」

「カッコよかった?」

「どっちかというと、可愛い系だと思った」

「うふー、ユイくんが見てくれてたからかなー」


 などと言いつつ、ユイはマナの尻をまさぐる。


「もう、ユイくん、帰るまで待てない?」


 ではなく、単に尻ポケット自転車の鍵を取り出しただけである。ユイも屋外よりは屋内で落ち着いてする方が望ましい。マナは嬉しそうに頬を緩めているが。


「俺、今チャリ無いから」

「やったー」


 無いから、俺が漕ぐからマナは後ろに乗って、の部分は言語省略。それでもマナには正確に伝わったようだった。


 せっかちなマナに自転車に乗る前から抱きつかれながら、2人は1つの塊となってアパートへと帰ってゆくのだった。


 そんなマナを見ながら、ユイは満足そうな笑みを漏らした。

 きっと今のマナは、ユイのことだけを考えてくれているのだろう。

 そう、マナはそれでいてくれなければならない。


 ユイの為だけに笑って、ユイの為だけに――何でもしてくれるマナ。


 それが、ユイの愛するマナの姿なのだから。

 マナはそんなユイの想いを知ってか知らずか、幸せそうな笑顔を浮かべてユイの腰にさばりついていた。


 ××× ×××

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