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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
2・無関心と殺意
17/37


 学校帰りのある日。非常に遺憾ながら、マナは現在1人だった。

 今日はユイはバイトの日で、マナは休み。なので渋々、仕方なく、マナは1人でアパートに帰ってきていた。


 マナの住んでいるアパートは人通りの少ない小さな住宅街。家賃は安いものの立地が良いとは言い難い場所のため、決して居室数の多くないアパートだが現在も空き室がいくつかある。もちろん、だからこそマナはここが気に入ったのだけれど。


 自転車を停めて外付けの階段を上ろうとしたところで、どこからともなくにゃあ、とネコの鳴き声が聞こえた。

 マナはそのまま階段を上りかけ、ふと足を止めた。引き返して辺りを見回すと、探すというまでもなくそのネコはすぐに見つかった。


 道の角にちょこんと座ってこちらを見つめている、1匹の茶毛の猫。首輪もしていないし体の汚れを見る限り、恐らくは野良猫だろう。

 マナはそのネコを見つけるとぱっと表情を明るくさせて早足に部屋に戻り、荷物を置いて台所を漁る。


「‥‥食パン、でもいいかな」


 野良猫であれば、あまり人に懐いてはいないだろう。手の平に乗せてエサを与えるよりは、少し長さがある方が警戒心も薄くなるかもしれない。パンの耳を細長く千切って、3本ほどそれを引っ掴んで再び外へ出た。


 見ると、ネコはまだその場でのっそりと腰をおろしている。ゆっくりと近づいて、ネコが身構えたあたりで動きを止める。左手に持ったパンをぷらぷらと揺らすと、ネコはすぐにそれに興味を示したようだった。


 じりじりと、ネコが距離を詰める。焦らず、静かにパンを揺らして待つ。

 ある程度の距離まで詰めると、ネコは一度足を止めてじっとこちらを見上げた。そしてさらに数歩詰め寄ると、不意に俊敏な動きを見せてマナの手からパンを奪い、大きく距離を取って警戒心を保ったままパンを食べ始めた。


 その場を動かないままもう一度パンを手に揺らしてみると、ネコはすぐに反応を示し、とりあえず手元のパンをがつがつと食べる。すべて腹に収め終えると、ネコは再びじりじりとマナに詰め寄って来る。

 先程よりも、少しペースが速い。ひょいっと大きく横に動かしてみると、びくりとしながらもネコはパンから目を離さない。


 すぐに、ネコは再びパンに飛びついた。1歩だけ距離を取って、マナの目の前でネコはパンに食らいつく。そのパンも食べ終わると、ネコはその場でじっとマナを見上げていた。

 ネコの期待に応えるべくもう1本のパンを取りだすと、頭上に掲げて見せつける。ネコは一声にゃあ、と鳴いて1歩マナに近づいた。


 マナはくすくすと愉快げな笑い声を漏らして、高くあげていた手を下ろしてネコの鼻先にパンを差し出す。一瞬の躊躇いの後ネコはパンにかじりつき、先端が千切れてネコの口に収まる。

 さらに手を下ろして差し出すと、ネコは地面のパンを見つめてその場でがつがつとそれを食べ始めた。


 マナは顔をあげ、辺りを見回した。見通しはあまり良くないが、近くに人の気配は感じられない。マナはそっと右手を上げて、ぎらりと夕日を銀色に反射させる。


 ヴニャア! と凄まじい唸り声が響かせると、ネコは猛烈な勢いで食べかけのパンを残して走り去ってしまった。


 マナはその様を見送り、首を傾げると右手に握った、ねっとりと赤い血を刃に纏わせた包丁を見下ろした。

 ポケットからティッシュを取り出して血を拭い、困ったように頬に手を当てて黙考する。


 勢いをつければどうにかなるかと思ったが、ネコですら骨に阻まれて一撃では首を落とすことができなかった。想像以上に骨が硬いのかやり方が悪かったのか、もしくはマナの力不足なのかは分からないが、やはりどこを裂くにしても切り落とすとなるとコツが必要となってきそうだ。少なくとも、骨はかわした方がいい。骨の位置をよく調べておいたほうがいいだろう。


 腹を裂くのも悪くない。だけど確実性を考えると、やはり首を狙うほうが良い。これも踏まえて、色々と考え直してみたほうがいいかもしれない。とりあえず首を落とすという選択肢はもともと有力ではなかったものの、完全に除外すべきだと確信した。落とすのではなく、裂くに留めるべきだ。


 とりあえずそれだけ分かると、マナは満足げに部屋に帰って刃を洗った。切れ味を落とすわけにはいかないので、砥いでおいた方がいいだろうか。場合によっては買い直してもいいかもしれない。いや、何度も包丁を買うのは良くないか。考えるべきことはたくさんありそうだ。


 その日、路上で1匹のネコの命が尽きたことを、マナは知らないし気に留めることもなかった。


 ××× ×××

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