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クルイアイ  作者: くらうでぃーれん
2・無関心と殺意
16/37

1-2


 誰を殺せばいいのかが分かれば、次にすべきことは手段の模索だ。

 殺し方と、その方法や場所、時間。凶器の調達。等々。


 やり方は色々とあるけれど、証拠が残りづらく特徴も少ないのはやはり刃物による刺殺だろうか。要所を掻き切るだけであれば筋力にも左右されづらく、男女の特定からしづらいのではないだろうか。刃物も入手し易く、よほど特殊なものでなければ購入の際に警戒されることもないだろう。


 思い立ってすぐに、マナは買い物に出かけた。凶器の入手と実行には、間が空いているほどいいだろうから。

 よほど切れ味の良いものを買う必要はない。皮を裂いて肉を抉ることができればそれだけで十分だ。


 マナは少しだけ遠くの、時々しか訪れないディスカウントストアに向かった。近所すぎるのも良くないだろうけれど、気を張りすぎて遠出しすぎるのも良くない。


 店内の調理コーナーの商品を眺めて、マナは少しだけ不満顔だった。

 一番大切な役割を持っているものなのだから、しっくり手になじむものを選びたかったのだが、商品はどれもパッケージに入っていて直接触ることができない。何とも不親切な扱いだ。もっとも、ユイ以外の親切など反吐が出るだけではあるけれど。


 それになにより、ユイと一緒ではないというのが機嫌の悪化を促している。右手がユイを求めて彷徨い、ユイの温もりが感じられないことに肌が凍えている。

 早く会いたいなあと思いながら、仕方なく見た目だけで吟味する。種類と用途はある程度調べて来ているので、肉を切るのにはどれがいいのかはだいたい分かっている。


 ただ、実際に持って実際に切ってみなければ確かなことは分からない。しかし試してみることはできないというのがなんとももどかしいところだ。


 とりあえず、適していそうな中で一番見た目が気に入ったものを買い物かごに放りこんだ。そのままついでにいくらか買い物をしておくことにする。出来れば全ての行動はユイと共にしたいものだけれど、包丁だけ買うというのは印象に残りかねない。警戒し過ぎはしないが、堂々としすぎるのもまた問題だ。


 包丁と共に牛乳と食パンを買って、レジを通る。この店にはセルフレジが無いので、必死に意識を遠くに向けて店員の声を聞かないようにしながらレジを通過した。

 店の外に出て深いため息をついてから、マナはさらに考える。


 極端な話、これ1つだけでも実行は可能だが、もちろん本当に行動を起こしてしまうほどに短慮ではない。細かい部分はあの男の情報を仕入れつつ考えるとして、他にはどんな物が必要か考える。

 証拠を残さないという点で次に考えるべきは、指紋と返り血の防ぎ方だろう。百円ショップに向かうと、ゴム手袋を2セットと掃除用具を一緒に買った。ついでにお風呂掃除もしておこうかな、なんて考えながら。


 手はこれで防げそうだが、腕や体はどうやって防ごうか考える。まず思いつくのはレインコートだが、そんなものを着て移動するのは、雨の日ですら少し目立ってしまうのではないだろうか。

 直前で着る余裕があるとは限らないし、そう思うといらない服でも着ていればいいかと思った。ちょうど捨てようと思っていた服があるので、血を浴びたらその上からさらにいらない服を着て隠してしまえばいいかと思いつく。


 出てくる血の量は想像できないが、血だまりを踏んでしまった時のことも考えて替えの靴も準備しておこう。これも、今あるものを使えばいい。荷物は全て買い物バッグにでも詰めて持って行こう。それからタオルを数枚と、念のために大きすぎない鈍器も準備しておこう。ハンマーがいいかな。スパナくらいでも十分かもしれない。


 今思いつく必要な準備はそれくらいだろうか。一通り頭の中で情報を整理して、すぐにユイのことを考えて、思わずうふ、と笑いが漏れた。


 ユイの為を思って、こんなにも身を尽くすことができる自分はまさに良妻の鏡だ。ユイは喜んでくれるだろうか。褒めてくれるだろうか。もっとマナを求めてくれるだろうか。


 いや、気づかなくてもいい。ただ穏やかに、マナの隣にいてくれればそれだけでいい。

 もう何度目になるか分からない思考の循環をさせながら、心が躍り始める。


 マナは買い物を終えると、軽やかな足取りでアパートへと帰った。

 マナの顔に浮かんでいる表情は、どうみたところでこれから凶行に走ろうとしている人のそれではなかった。


 すでに考えることは、ユイが帰ったらご飯は何を作ってあげようかな、ということだったから。


 ××× ×××

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