表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異形者  作者: 只野直人
5/6

目覚め

好きな映画はGhost Rider

目の前に真っ白な世界が広がっていた


何度目の目覚めか分からない、そう思えるのはやけに頭が冴えているからだ

楓を説得した日の夜、院長にこれから行く場所を教えることはできないからと薬品で眠らされた

その後覚えているのは、床に転がり落ちたり話し声を聞いた気がする程度の記憶が断片的に思い出せるくらいだ


完全に頭が覚醒して煌々と輝く電灯に目が慣れてくると、危なげのないしっかりとした動きで横たわった身体を起こす

こうして意識があり動けるという事は手術は成功したと思っていいのだろう

声を出して喜びたいところだが、浮かれる前にまず自分の置かれている状況を確認するため、辺りを見回した

部屋の中央に置かれた自分が寝ていたストレッチャー以外には右側にドアが一つ、近くには水差しが乗せられた引き出しの付いた小さな物置棚、そして正面には全く同じ様な配置の空間が広がっている

ただ、僕の目に映る景色は普通ではない者を捉えていた


目の前にいた存在を一言で表すなら異形


少し離れた所で僕と同じようにストレッチャーの上で起き上がり、こちらをじっと見つめる黒い髑髏

頭から布で隠れた下半身まで肌であろう部分は真っ黒に染まり、アスリートよりも引き締まった身体をしている

指は獣のように鋭く、頭は肉を荒く削ぎ落とした頭蓋骨を狂気で歪めたと表現するのが相応しい形だ

その落ち窪んだ眼窩には吸い込まれそうな深い闇が広がり、その中心には寒気すら感じる青い焔が灯っている


明らかにこの世の生物ではない


日常とかけ離れた禍々しさに逃げなきゃいけないと頭で分かっていても驚愕と恐怖で身体が動かない

だが、幸運な事に髑髏の化物も同様に動いてこなかった

それから落ち着いて思考が出来るようになるまで身動き一つせず、永遠にも感じられる静寂は続いた


どれだけの時が流れたのだろう、先に静寂を断ち切ったのは僕だった

恐怖に打ち勝つと、髑髏の化け物から決して目を逸らさずにゆっくりと足を床に下ろす

刺激せずにドアから出ることでしか、この窮地を抜け出すことができないのだから


しかし、物事には常にリスクが付きまとうものだ

それはどんな些細な事でも、命の危機を感じる時でも平等に訪れる

逸らせない視線の先で僕の動きに合わせて化物も同じように動いていた

ドクンッと心臓が跳ね上がりそうになりながら一旦動きを止める

そうすると化物の動きも止まった


逃げ出そうとしたから捕らえようと動いたのか、そうであれば逃げなければなにもしてこないのか

あの化物はなにがしたいのか分からない

様々な憶測が飛び交う中、また静寂が訪れると頭の中で一つの疑問が引っかかった


“あいつは僕と同じ動きをしていないだろうか”


僕が止まれば動かない、僕が動けば同じように動く

まさか、そんな訳がない、ありえない

いくら否定しても自ずと一つの結論にたどり着いてしまう


分かっている、視線を少し下にずらすだけで答えがでる

そうは分かっていても行動に移す事ができない

先程から感じる違和感


先程から呼吸を必要としていない身体

目の前で映像を見せられているかのように鮮明に見える視界

皮膚から感じる鉄のように固い自らの感触

違和感が物語るあってはならない答え


目の前の異形は僕なのだと

誤字脱字等ありましたらご連絡下さい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ