人としての最後
唯一の癒しキャラ
「どういうこと!」
翌日、学校帰りに寄って来てくれた楓に事の経緯を話すとこの身体になってから初めて怒られてしまった
元気だった頃は二人でよく喧嘩をしていたので、その時の思い出が蘇るようで少し嬉しかったりもする
「お、落ち着いて楓」
「何の相談もなしに一ヶ月も会えなくなる様な手術するって勝手に決められたらこうなるでしょうがっ!」
昨日、即決してしまった自分も軽率だったと反省をしているが楓の事を思えばこその決断だ、止めるつもりはないが、しっかり納得させないと騒ぎになって手術を行えなくなるかもしれない
「大事なことを勝手に決めたのは悪かった、ごめん
だけど前みたいに普通の暮らしに戻れるなら戻りたいんだ」
楓はまだ言い足りない様子ではあったが何と言ったらいいのか分からないのだろう、口をパクパクさせた後諦めたように力なく椅子に座って呟いた
「…失敗したらどうなるの」
「失敗しても死んだりしない、今のまま変わらないよ」
嘘をついた
院長の説明では今まで失敗した事はないが、もしも失敗した場合は間違いなく死ぬ
その場合は事前に書いておいた遺書を使って死を偽装される
事故の後遺症に悩んだ末に自殺、どこかで聞いたことがある様な話だ
遺書の話を聞かされた時は正直騙されたかもしれないと思ったがもはやどちらでもよかった
どう転んでも楓にとってはプラスになる、手術を受ける理由はそれだけで十分なのだから
「それより楽しい話を聞かせてくれないか?
しばらく会えなくなるから色んな話をさ」
「…じゃあ約束してよ、またこうやってお喋りするって」
果たせないかも知れない約束はしない主義なのだが、泣き出しそうな楓を見ていると断る事などできず、
なんとか動かせる左手で楓の頭を撫でて安心させたかったが、そんな簡単な動作がどうしようもなく遠い
なので仕方が無く小指を立てて見せ付けながら、今楓が欲しがっている言葉を与えてやる
「約束だ」
下唇を噛みながら涙を堪えている楓の小指が僕の小指に絡んできた
小さい頃何度も口ずさんだフレーズをお互い口ずさみながら約束を交わす
ただ、最後のフレーズだけ僕が知っている歌詞と少し違っていた
「嘘ついたらPCの中身み~ちゃう、指きった!」
「それはまずい!」
慌てる僕を尻目に先程の泣きそうな顔はどこへ行ったのか、少し目が潤んではいるがとても悪い顔に変わった楓
「パスワードのヒントに誕生日ってさすがにベタ過ぎるよね~、しかも私の誕生日だし」
勝ち誇った顔の楓のおかげで、手術を成功させて戻ってこなくてはならない理由ができてしまった
誰だって家族にですら知られたくない秘密があるものだ、日記だったり画像だったり動画だったり、
そしてそこから推測されてしまう否定できない事実は時に死よりも恐ろしいだろう
「別の事にしないか? プライベートなものだしさ」
「………」
抵抗も空しく、返って来たのは憎たらしい笑顔から繰り出される無言の否定
どうにも詰んでしまった僕は覚悟を決めて楓の目を真っ直ぐ捉えて決意を聞かせる事にした
PCなんて些細なきっかけに過ぎない、僕が捨てようとしていた希望を楓は無理矢理にでも捨てさせなかったのだ
感謝の言葉でもいいが、こちらの言葉のほうがきっと喜んでくれる筈だ
「必ず戻ってくるよ、待っててくれ」
「うん!」
今までで一番優しい笑顔をくれた楓とその後、短い別れを惜しむように日が落ちるまで楽しい一時を過ごした
次の話から人外注意です
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