第1話 1
夜がふけている深夜の時間にアリスは跳ね起きた。
きているパジャマは汗でぐっしょりと湿り体に張り付いていた。
別に怖い夢を見たわけではない。
それはここ最近いつもの見る夢だった。
「またあの夢………」
記憶がないというのはとても恐ろしい。
それを意識するのはいつも夜が明けて目を覚ました時だが今日は違った。
違うのはそれだけではない。その夢は、恐怖を覚えるようなものではなく、とても幸せな過去の話。
同じ夢を見たのになぜか今日は、パジャマがぐっしょりと湿るほど汗をかいていた。
おかしな気持ちになりながらもベットから抜け出し机の前に立つ。
ぼぅー、とする頭をそのままにさっきまで見ていた夢を思い出す。
それは小さな街の外縁部にある緑あふれる草原。城壁を越えればその先は荒れ果てた不毛の大地。城壁のある街にのみ許された楽園のような場所にアリスは立っていた。
背の低い草の生い茂る草原に立つのは、今よりも幼いアリスの姿。
隣にはいつも見たことのない男の子がいた。
その男の子はいつも歳に似合わない冷たいそして悲しそうな表情をしていた。
その表情に幼いアリスはいつも不満を覚えているようであった。
「もぉ~!私と一緒にいるのが嬉しくないの?」
すこし傲慢に聞こえるそんな言葉にも彼は、すこし苦笑いを浮かべるのみだった。
「そんなことないよ。アリスと一緒にいれる時間はそんなに長くないからね」
「ふぅ~ん…。それにしては楽しそうな顔してないわよ?」
アリスにさらに詰め寄られ、少年は半歩後退りをして顔を引きつらせる。
「かっ顔は元からだよ!知ってるでしょ!」
「えー?昔はもっと笑顔があった気がするけどなー」
少し高いところにある少年の顔に少女が寄せることによって少年の表情がどんどん赤面していることに幼いアリスにはわからないようでどんどん顔を寄せていく。
「アッアリス!ちょっ!おっ!あっ!うぁっ!」
「きゃっ!」
少年の悲鳴を無視してアリスはさらに近づいていくと少年は背を反らして耐えていたのだがついに踏ん張りが効かなくなって二人して後ろに倒れてしまう。
「あいたたた……アリス大丈夫?」
一緒に倒れこんだアリスを心配する少年。
しかし、アリスは、少年の胸に顔をうずめたまま返事をしない。
その反応に慌てた少年がアリスを確認しようとしたとき、不意にアリスの笑い声がする。
「ンフッフフフ………」
「あっアリス?」
「アハハハアハハッ」
「え?え?」
アリスの笑い声に頭にはてなマークを浮かべて右往左往する少年。
「ハハッ………はぁ~。やっぱりアレンと一緒にいると楽しいね」
ひとしきり笑って満足したのかアリスは体勢を変えることなく少年に笑顔を向ける。
「ねえ?アレン。初めてあった時にしてくれた約束……覚えてる?」
体勢はアリスが上になって押し倒すような格好であり、顔は10センチと離れていない。
そんな至近距離で真剣な表情を向けられれば真剣な話なのだろうが少年にとってはドキドキしてしょうがないはずである。
そんな状態でアリスは話し出す。
「ねぇ?覚えてるの?」
「もっもちろん!」
「本当?」
少年の反応が遅かったばかりに勘ぐる表情を浮かべるアリス。
「本当に決まってるだろう!僕が忘れるハズないよ?」
少年は自分の決意が疑われたと思ったのか、少し強い口調で反論する。
「ふ~ん。じゃあ、あの時の言葉今言ってみてよ」
アリスは少年の上から体をどかし、立ち上がる。
少年も立ち上がりアリスの目の前に立つと真剣な表情で口を開いた。
「わかったよアリス。何度でもいうよ。僕の誓いは揺るがない」
「何があっても君を護る。君が助けを求めるなら必ず駆けつけるーーーーー
ーーーーーーーー誰でもないアイレイン・A・ヴォルフレンが誓う」
自らの名においての誓いは何に置いても重いもの。それだけ少年の決意が揺るぎないものだといえた。
だから、アリスはその言葉を……決意を、誓いを聞いてその顔に笑みを浮かべる。その表情は、なぜかすこし悲しいものが混ざって見えた。
「うん。私も君を絶対に裏切らないことを誓うね………。誰でもないアリス・H・ラトウィッジの名において」
アリスはそう言うと自分より少し高い位置にある少年ーーーアイレインの顔に自分の顔を寄せると、そっと唇を重ねた。
(うううぅぅぅぅぅ………)
今日の夢を思い出してアリスは顔を真っ赤に染めていた。
まったく身に覚えがないが確かに昔の自分の姿で声で、繰り広げられる恋愛劇。
この夢をみるたびにアリスは飛び起きたあと身悶えすることを繰り返していた。
「なんなのよ……この夢。というか、12歳くらいの時に見えたけど……なんて大胆なの!?」
もしかしたら忘れている自分の過去なのではと思うとさらに混乱するやら恥ずかしいやらでアリスの心境はいつも狂わされる。
「それにあの男の子は誰なの?あんなに親しそうなのに私は忘れてるの?」
自分が忘れている過去と親しげな少年。
それを思い出せないことにアリスは歯噛みする。
(なんで思い出せないの?他のことは覚えてるのに……)
基本的なことは覚えている読み書きや服の着方、デバイスの使い方も。
ーーーーピィーピピピッピピピッピピピー
「もう…なんなのよ」
そんな時、アリスの枕元に置いていた小型デバイスがなった。