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セブンス・オーダー  作者: 羅兎
第2章 思い出せない記憶
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第2話 5





 ーーー機外法《光廻廊》


 これを何度経験してもありえない能力だと思う。


 というかどこが機外法なのかと呆れてしまうのだ。


 定義を拡大解釈すればああそうだろう機力を外部に放出する技法なのだから。


 しかし、この現象をその論理で解釈してもよいものだろうか。

いくら神の御業といえど埒外すぎる。


 アイレインはたゆたう思考の中でそんな感想を抱いていた。


 一瞬の間にアイレインは崩壊したマンションの一室から荘厳な造りの教会にいた。室内は白を基調とし、華美にならない程度の装飾が施されている。


 教会の上部に備え付けられたステンドグラスが室内に幻想的な月明かりを落とすその下に、まるで本物の女神が降臨したのかと見紛うほどの絶世の美女が立っていた。


 アイレインの記憶では14歳の美しい美少女だったが4年の月日が経った彼女は今では美女といっても差し支えない妖艶な雰囲気すら纏っていた。


 彼女の名はエスネリーゼ・カディアン。かつてアイレインと共に戦い、機械獣ーーひいてはその親玉をこの世界から駆逐した歴史の裏の英雄の1人。


 アイレイン自身も何度この少女に命を救われたかわからない。


 それは目の前のバッカスも同じであり、だからか彼もアイレイン同様口を開かず、彼女の言葉を待っているのだ。

 

 エスネリーゼは閉じていた瞼をそっと開けると光に照らされた睫毛がキラキラと輝くように瞬く。


 そして、天使のようなソプラノが響き渡る。


 「ようこそ。私の教会へ」


 両手を広げ歓迎の意を示すエスネリーゼは慈愛のこもった笑顔で言葉を紡ぐと流麗な動作で腰を折る。


 その動作に素直に感嘆しながらアイレインは口を開く。


 「へぇー…ここは君の教会なんだね。てことは昔の夢が叶ったってことかな?」


 「そうなんです!アインさんがいなくなって…私に残された夢はこれだけでしたので…」


 初めは満面の笑みで両手を胸の前で合わせ、最後は辛そうに笑う。


 その表情にチクリと胸に痛いものを感じる。

 自分のせいではないにしろ何も言わずにいなくなったのは事実である。

 

 アイレインを慕い、共に多くの戦場を生き抜いてきたかつての仲間たちには悪いことをしたと思う。


 だからかこの世界に戻ってきても積極的に関わろうとは思っていなかった。


 かつて戦いに駆り立てたのは自分自身だ。バッカスはこの世界を守るためと言っていたが皆が皆そうではなかった。

目の前の少女もその1人。


 争いを好まず、闘争の歴史を嘆いていた。

それでもアイレインと共に戦う決意をし、アイレインの身勝手な戦いに助力してくれた。


 感謝しても仕切れない恩をかつての仲間全員に抱いていたからこそアイレインは、これ以上巻き込みたくなかった。


 自分と関わればまた奴らに狙われるかもしれない。


 「ごめん」


 だからかアイレインの口から出たのは謝罪の言葉だった。


 「謝る必要はありませんよ。あなたのせいではないことは皆わかっていましたから…」


 顔を左右に振ると優しい笑顔を見せる。それは昔と変わらない人を癒す者の表情だった。


 すべてわかっているといった雰囲気を感じ取ったアイレインはやはり頭が上がらないなと思い直す。


 そして自重気味な笑みを作るとアイレインはバッカスを見る。


 腕を組み成り行きを見守っていたバッカスは不機嫌そうにその視線を受け止めるとフンッと鼻を鳴らす。


 「そんなことは瑣末なことだ。それよりも貴様は本当にこの世界を助けないつもりか?」


 その視線には先程までの怒気は込められていなかったが冷たいものであることには変わりなかった。


 「……さっきもいったと思うけど僕の出した答えは揺るがない。アリスを助けるためなら君になんと言われてもいい」


 それはアイレインの偽らざる思いだった。

 アリスのためならなんだってする。

 それが世界を裏切る結果になろうとも…。


 バッカスはアイレインの答えに目つきを剣呑なものに変え、今にも機士剣の柄に手がかかろうとしている。


 「ここで剣を抜くことは許しません!」


 険悪なムードになっていたところで静止する声が響く。


 「……お二方とも昔と少しも変わっていないのですね。隠し事をしていては相手に真意は伝わりません」


 先の有無を言わせない一声とは打って変わって優しく諭すように語りかけるエスネリーゼ。


 エスネリーゼの言葉に息を飲む音が二つ響く。静寂の中ではよく響き、それが真を得ていると語っていた。


 元々アイレインとバッカスの戦う理由は異なっていたのだから意見の相違は仕方がないのかもしれないがアイレインとしてはある一点を除いて特に隠すつもりは初めからなかった。


 だからアイレインはため息をひとつ吐くと2人に言い聞かせるように口を開く。


 「別に2人になにか隠しているわけじゃない…。それにこの世界がすでに滅亡へと向かっているのは事実だ。そんな所にアリスを置いてはおけない。」


 アイレイン自身はそこになにか疑問を挟む余地はないと思っての発言だったがバッカスには伝なかったようでギリッと奥歯を噛みしめていた。


 「…貴様はなぜこの世界がこうも奴らの好き勝手にされているかわかっているのか?それに滅亡に向かっているだと?」


 ふざけるなと最後に発しバッカスはアイレインに詰め寄る。


 「貴様がアリスを守ろうとしているのは知っている!しかしいまアリスがいなくなればどうなるかわかっているのか!」


 詰め寄りその拳がアイレインの胸倉を掴みあげる。

 それに対しアイレインは冷徹な眼差しで答える。

 

 「お前の方がわかっているのか?アリスは道具ではない!」


 声音はひどく冷たいものであったが言葉に込められた感情は煮え滾るマグマのように熱されていた。


 「そんなことはわかっている!それでもアリスはこの世界の軛だ!どこかにいってしまえば世界自体が崩壊するんだぞ!」


 「…じゃあお前はこの世界の人間が全員死に絶え、世界自体が崩壊してからアリスを連れ出せというのか?これ以上アリスに何を背負わせるつもりだ!」


 2人の口論は白熱し、一触即発の体をなす。

 いつまた2人が剣を抜くかわかったものではない。


 2人の状況にエスネリーゼはまた溜息をつき、落胆の表情を浮かべる。


 「…おやめください。アインさんもバッカスさんも相手の意見を聞いてもいいのではないですか?話がまるで進展してませんよ?」

 

 2人の間に割って入ったエスネリーゼは珍しく怒った風な表情をしている。


 怒った風なというのは元々の性格ゆえか表情が微妙な形で固まっているからだろう。


 「 お二人の話は自分の主張を述べているに過ぎません。それに話を聞いていればそこまで意固地になるようなことではなく聞こえますよ?」


 エスネリーゼのその言葉に相手を睨み合っていた2人の視線が向く。

その四つの瞳は何を言ってるんだ?といった疑問を投げかけるものだった。


 「だってそうでしょう?アインさんはアリスさんを救いたい、バッカスさんはこの世界を救いたい。どちらも満たすいい解決策があるじゃないですか!」



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