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セブンス・オーダー  作者: 羅兎
第2章 思い出せない記憶
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第2話 4





 「お前の負けだ。諦めて引け」


 バッカスの低く冷徹な声音が空虚なマンションの一室に響き渡る。


 「なめ…るな!」


 アイレインが機力を刀に走らせようとするが帯びた機力は本来の色から想像をできないようなくすんだ銀色をしており、機力の光は明滅を繰り返し安定していない。


 「まともに機力を纏わせることも出来ないか…本当に弱くなったようだな」


 アイレインは歯をくいしばるがいつものように機力を維持できない。


 機力操作が乱れ、生成された機力が大気に溶けるように光を伴って消えていく。


 機力を振り絞れば振り絞るほど疲労が蓄積されていく。


 荒い息を吐き機息を繰り返すが機力をうまく練ることができない。


 一撃受けただけでこれだ。


 わかっていたことだがここまでとは思わなかった。


 「……終わりだなアイレイン」


 バッカスが冷めた目をしながらゆっくりと近づいていく。


 逐次たる思いを抱きながら募る苛立ちを押し殺しアイレインは弱々しい機力を纏い迎え打つ体勢をとる。

 

 それを哀れとばかりに大剣を振り上げこれまでより大きな機力を走らせる。


 振り下ろされる大剣がスローモーションに見える。


 このままではやられる。


 (こんなところで死ねるか!!)


 そうアイレインが目をカッ開いて奥歯を噛みしめて刀を腰ダメに振るおうとする。


 その時ーーー


 「ーーーそこまでにしてもらえますでしょうか」


 それほど大きい声であったわけではない。どちらかというと慈しみのこもった厳かな声音。


 しかし、その中には反対を許さない確かな機力が宿っていた。


 いままさに刃を交えようとしていた2人分の視線が突然の乱入者に向く。


 そこには薄く光を纏った聖女が立っていた。


 「いまあなた方が刃を交えればその余波でどのような事態になるかわかっておりますでしょう?」


 黄金の髪を腰まで伸ばし、同色の瞳が2人を射抜く。

 

 整った容姿に均整のとれたプロポーションを白い儀礼服で整えたその女性は、微笑を湛えた慈愛のこもった表情とは裏腹に、有無を言わさない意思を持っていた。


 「……エスネリーゼ。なぜお前がここにいる」


 その少女ーーエスネリーゼが現れてから声を発したのはバッカスが先だった。


 「あら?いてはダメだったかしら?」


 顎に指を当て小首を傾げるエスネリーゼにバッカスは奥歯を噛み締め、歯噛みする。


 この女はいつもこうだ。

 バッカスには何を考えているのか全く読めない。


 「俺は何度もお前達に従軍命令を出していたはずだが?」


 「ああ、あれでしたらいつも拝見させていただいておりますわよ?」


 なんということのないように答えるエスネリーゼにバッカスは隠すことなく舌打ちをする。


 「なら何故いつも返事すらよこさんのだ!」


 「返事なら四年前に答えたと思いますが…私は愚鈍に付き従うつもりはありませんので…」


 浮かべる微笑は天使のようでありながら出てくる言葉は辛辣なものであったがバッカスはその返答を半ば予想しておりそれを含めての舌打ちだったのだ。


 「ならなぜいまになって現れたのだ?」


 バッカスは顔を顰め、溢れる怒気を隠そうともしない。


 そんな怒気を涼しい顔で受け流すエスネリーゼはわからないのかと言わんばかりに目を開き驚いた風な表情を浮かべる。


 「それは決まっております」


 エスネリーゼは天使のような笑顔で肩で息をしているアイレインを見据えると目の前まで移動し、儀礼服の裾をちょこんと摘み礼優雅に一礼する。


 「私の主人様…遅くなりましたがお迎えに上がりました」


 その光景にどこか見覚えがあったのかアイレインは息を整えながら目を細める。


 「ネリー…なのか?」


 「はい!」


 アイレインの言葉に再度満面の笑みを浮かべると嬉しそうに返事をする。


 アイレインはその確認でこの聖女のような少女がかつての仲間の1人なのだと理解した。


 「…それにしても…昔とは変わったんだな…。四年も経ったんだから当たり前か」


 やっと息が整ってきたので目の前の少女に視線を向ける。


 自分の記憶の中の少女とはもはや別人のように綺麗に成長したエスネリーゼにアイレインは、年月を感じていた。


 「フフッ…それはアインさんもですのよ?昔よりかっこよくなりましたね」


 少し頬を染めていうエスネリーゼは満面の笑みを持って答える。


 「でもアインさん?久しぶりにあった女性には綺麗になったねと言った方がいいですよ」


 満面の笑みのままアイレインにめっというように人差し指を立てて叱るエスネリーゼにアイレインは変わらないなと思った。


 「全く…バッカスといいネリーといい久しぶりの再会だっていうのに…」


 アイレインは深いため息を吐くと刀を納める。

エスネリーゼの乱入によりアイレインはもう戦う気分ではなくなっていたからだ。


 それはバッカスも同じだったようで苦虫を噛み潰したような表現で大剣を通常の機士剣に戻すと鞘に納めた。


 「バッカス…君の言い分を教えて欲しい。そうしなければ話にならないよ」


 アイレインはすでに戦闘時のスイッチをオフにしているため、会話をするためにバッカスに問う。ため息を漏らしてしまうのは仕方がないことだった。


 「……話しても仕方がないと思うがな」


 ふんっと鼻を鳴らしながらバッカスは不機嫌そうに呟く。


 「でしたらいい場所がありますよ」


 エスネリーゼは微笑を浮かべるとどこからか取り出した錫杖をここからでは見えない天に突き出し、厳かに口を開く。


 「我が機神アフロディーテよ。今一度ここに奇跡を遣わしたまえーー」




 そう唱えた瞬間、錫杖が光を放ちアイレインとバッカスを覆い隠した。





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