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セブンス・オーダー  作者: 羅兎
第2章 思い出せない記憶
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第2話 3





 都市は静けさを取り戻し、夜陰に満ちていた。


 時刻は深夜に差し掛かっていた。


 機械獣の侵攻を受け少なくない被害被ったのだから、今夜は誰1人として騒ぐことなく生きていたことを喜び合い眠りについているころだろう。


 アイレインはエターナルダイト製の街灯の照らす暖かな光の中コートの裾を翻しながら誰1人いない街道を歩いていた。


 久しぶりにこの世界オリンポスに帰ってきたが空から降る月と星の明かりに変わりはなかった。


 それは人の営みも同じことなのだろう。


 機械獣からの侵略が最も顕著でありながら少ない安息を謳歌している。


 神と闘争の世界オリンポス


 この世界では誰にも知られていないこの第2世界の異名をアイレインは思い浮かべ、失笑する。


 誰も知らない他の世界に飛ばされたことで初めてこの世界の異形さを感じることができた。


 これはなんの皮肉だろうか…。


 滅亡が近づいているのだ。


 だからはやく彼女をこの世界から救い出さなければならない。


 アイレインは確かな足取りで街道を歩く。


 そうしている目の前の闇から1人の偉丈夫が姿を現す。


 「アイレイン…本当に戻ってきたんだな」


 その声は低く腹に響くものであったがどこか懐かしそうな響きを持って発せられていた。


 「バッカスか…懐かしいな」


 記憶よりもいくらか大きくなった身長は別として鈍い灰色の髪に同色の瞳はかつての戦友の面影を確かに残していた。


 「どこへ行くつもりだ?」


 懐かしさを多分に含んだアイレインの声色とは違う厳しさを含んだ声音。


 この問いがなにを思って発せられたものなのかアイレインにはわからなかったが答えなければ道を開けてくれないことは明白だった。


 「決まってるだろ…アリスのところだ。はやく彼女をこの世界から助け出さなければならないからな」


 「やはりな…」


 アイレインの返答に頷くとバッカスの体から機力が噴き出す。


 「……なんのつもりだ?」


 反射的にいつも纏っている機力が一瞬膨れ上がるが瞬時に納める。


 理由は分からないがここでバッカスとやりあうつもりはアイレインにはない。


 「ここを通すわけにはいかない」


 「……理由を聞いてもいいか?」


 「いまアリスを連れていかれればこの世界は確実にやつらの手に落ちる」


 それが理由か。


 アイレインは嘆息を漏らし、目の色を冷たいものに変えて呟く。


 「アリスがいてもいなくても時間の問題だろう。僕のいない四年でここまで攻められてるんだから」


 アイレインは自分の生まれ育った世界を客観的に評価すると冷たく切り捨てる。


 それにピクリと眉を跳ね上げ、機力の密度を上げるバッカスの声色が怒気を帯びた。


 「おまえはオリンポスがどうなっても構わないというのか?この世界にはまだ十万という人が住んでいるんだぞ!」


 「それがどうした?僕はアリスを守れればそれでいい」


 アイレインの言葉にバッカスは一瞬言葉に詰まるが昔の彼を知っている分まだ一線を越えるに至らない。


 「昔から変わらないな…」


 「そうか?」


 「ああ。昔からーーいやアリスと出会ってからお前は変わってしまったというべきか」


 「なにが言いたいんだ?」


 アイレインの問いに対する答えはジャキッという鍔鳴りの音だった。


 ーーー!?

 

 肉薄するバッカスの機士剣をアイレインは独特の形状をもつ自らの機士剣を抜刀し受け止める。


 「おい…どういうつもりだ?」


 先ほどから疑問ばかり投げかけているがその返答がないことに混乱しながらもアイレインは冷徹な視線を送る。


 「先ほどもいった通りだ!ここは通さん!」


 バッカスが自分の機士剣に機力をはわせ、強化すると鍔迫り合いのまま弾き飛ばすように剣を振るう。


 勢いを利用して一旦距離をとると隣のアパートの壁を蹴り屋上に到達する。


 同時に着地したバッカスは油断なく剣を両手で構えると腰を落とし、不動の構えをとる。


 それに対しアイレインは右手に持った刀をダラリと下げ、左半身の構えとも呼べない体勢をとる。


 「忘れたわけじゃないだろうなバッカス…剣を抜いたらタダじゃ終わらない」


 2人の機力が高まり、夜の静寂に2人分の軌跡が踊る。


 先に動いたのはアイレインだった。


 軽い調子でコンクリートの屋上を蹴ると一瞬で肉薄し右袈裟に振り下ろす。


 それをバッカスは一歩も動かずに受け止める。


 ーーー機内外混合法《金剛鎧羅》


 鉄赤色の機力を全身の筋力を底上げする金剛と機力の鎧を纏う鎧羅を同時に発動する高等技術でもってその一撃を耐える。


 衝撃が空間を伝播し、大気を震わせる。


 「その技もなかなかさまになったんだな」


 アイレインはバッカスの技を惜しげもなく賞賛するとさらに畳み掛ける。


 縦横無尽にかける斬線の嵐をバッカスは一歩も引かず耐え続ける。


 実際アイレインの太刀を耐えるのは至難の技だ。


 生半可な技量ではこの剣撃は耐えきれない。


 「おおぉぉ!!」


 防戦一方のバッカスがアイレインの左の逆袈裟を逆手に持った右手で受け止めると無手となった左拳を頭一つ分低いアイレインのガラ空きの顔面に叩きつけようとする。


 「甘いな」


 それをアイレインは右手の刀から力を抜き衝撃に任せ左に旋回、体勢を低くし拳を避けると機力を左脚に集めバッカスの腹部に回転蹴りを見舞う。


 「ガハッ!?」


 蹴られたことで口から息がもれ、そのまま1メートルほど吹き飛ばされ、コンクリート敷きの床に二本の痕跡を残す。


 アイレインは体勢を戻すと自然体で左半身の姿勢で様子を伺う。


 生まれた空白に、蹴撃を受けた方のバッカスからくぐもった笑い声が響く。


 「ーーこの程度だと?まさか手を抜いてるんじゃないんだろうな!!!」


 怒声とともにバッカスの機力が爆発する。


 持っていた機士剣がバッカスの機力で鉄赤色に染まり、形を変える。


 灼熱に熱せられたように機士剣が真っ赤に輝きバッカスの巨軀おも越えるに両刃の大剣に変わる。


 迸る機力をそのままにその場で大上段から大剣を振り下ろす。


 ーーー機外法《斬空閃》


 鉄赤色の機力を纏った斬撃がコンクリート敷きの床を破壊しながらアイレインに迫る。


 「くっ!!」


 縦一文字の斬撃を左にバックステップを踏みギリギリでかわすがその余波を浴びて屋上の左端に吹き飛ばされる。


 (くそっ!!体がうまく動かない!!)


 なんとか踏みとどまったアイレインにいつの間にか接近したバッカスの左の横薙ぎが迫る。


 バッカスの一撃を受けてピンポン球のように真横に吹き飛び、近くの今は廃墟になっているマンションに突き刺さる。


 「いっつ……」


 不安定な体勢ながら刀を滑り込ませたことでほとんどダメージは無かったが、全身に纏っていた機力の出力が不安定になっていたため全身が痛む。


 「ーーこの程度でアイレイン…お前がダメージを負うか…」


 直ぐに後を追ってきたバッカスが粉々になったガラス片を踏みしめパキッと乾いた音が響く。


 「……まさかこの世界からいなくなって弱くなったのか?」


 大剣を肩に担ぎ、一歩一歩近づいてくるバッカス。


 よろよろと立ち上がりすがめみるアイレイン。


 その表情は苦悶と苛立ちに満ちていた。



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