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セブンス・オーダー  作者: 羅兎
第2章 思い出せない記憶
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第2章 2






 「やすいよやすいよー!値段交渉もオッケーだよー!」


 「うちは現在40パーセトントオフセールスタートだ!」


 機械獣からの都市内部への進行を受けた学園都市アカデメイアは、まるで昨日のことがなかったかのように活気に満ちた商人達の声が飛ぶ。


 むしろ彼らにとってはこれが日常なのかもしれない。

 この世界に生まれて幾度となく機械獣の進行を受け、その度に復興してきた経験は彼らを一種の慣れへと導いたのだろうか。


 「……ううん。それは違うよアリスちゃん…。慣れないとみんなやっていけなかったんだよ」


 「…そうなんだ…」


 3年間しか記憶がないアリスはエミールから聞くこの世界の話にどこか現実味を持てずにいた。

アリスは記憶をなくしてから沢山の人に助けてもらいながら生きてきたがいつも戦いとは無縁の世界で暮らしていた。


 「それにね…今回は…誰も死んでないからまだマシだと思うの。早く復興しなきゃっていうだけだよ」


 エミールはどこか影のある笑みを浮かべ、うつむきがちに呟く。


 トレードマークの丸メガネから覗く大きな瞳は伏し目がちで儚げだ。


 (エミールちゃんももしかしたら昔誰か大切な人を亡くしたことがあるのかな…)


 その横顔を見つめるアリスはなんと声をかければいいのかわからない。


 自分には記憶はない。

 しかしなぜか心の奥底には彼女と同じような気持ちが渦巻いていた。


 そうして自分の失われた過去に意識を向けていたからかアリスはふと昨日自分を助けてくれた少年のことを思い出す。


 (あの人ははだれだったんだろう…)


 自分のことを知っている風な少年。

 いつも見る夢の中に出てくる少年が成長したような姿…。そして名乗った名前。

 

 彼は自分の過去を知っているのだろうか。

 夢では幼い頃の自分ととても親しそうだった。


 もしかしたら彼にもう一度会えば何か思い出せるかもしれない。

 少なくとも、過去の自分を知っている。なら、なぜ自分が記憶をなくしたのかわかるかもしてない。


 「アイレイン…くん…か」


 アリスは無意識のうちに少年の名前を呟いていた。


 それだからかアリスは目の前に巨漢がいることに気づかなかった。

 

 「奴とあったのか?」


 「ひゃっ!?」


 気づかなったからか目の前にいきなり出てきた巨漢の顔に驚いたからかはわからないがアリスはつい素っ頓狂な声をあげる。


 しかしよく見ればその顔は苦労が滲み出たように眉間にシワが刻まれているが怒っているわけではないことに気づく。

 それにアリスは彼をよく知っていた。


 「バッバッカスさん!?いきなり声をかけられたらびっくりするじゃいですか!」


 「いきなりではなかったのだが…。というかなぜ俺が叱られてるんだ…?」


 巨漢の男ーーーバッカスがどこかやるせなさそうに眉間のシワを揉みしだく。


 「アリス……?テッザン先輩をしってるの?」


 「あっうん!?ちょっとね…」


 アリスはいきなり現れたバッカスに一息ついたところのエミールからの問に曖昧に苦笑して答える。


 知っているかと言われればよく知っているというしかないがここで公言するのははばかられる。

 なぜなら記憶をなくしたアリスを発見し、いままで支援してくれたのはバッカスと2人の少女だ。

 このことは3人からは固く口止めされており、一瞬素で答えてしまったが学園に通ううちに誰かに知り合いだというつもりはなかった。


 「ラトウィッジ。それで奴にーーアイレインにあったのか?」


 バッカスの再度の問にアリスは見るからに気落ちした表情をする。


 「…その名前の人に確かに会いました」


 「やはりか…」


 アリスの答えにバッカスは目を少し細め考え込むように腕を組む。


 「あの人は私を知ってるみたいだったんですけど…もしかしてーー」


 「奴とは関わるな」


 アリスがもしかして自分の過去を知っているのかと聞こうとしたところでかぶせるようにバッカスの低い声が響く。


 「……どうしてですか?」


 アリスとしても頭ごなしに言われてもいくら恩人とはいえ納得できない。


 「それは……ラトウィッジ。お前が後悔することになるからだ」


 「後悔?ですか?それはなんでですか?」


 理由を聞こうとする言葉に答えることなくバッカスは踵をかえす。


 「…理由はまだいえん。しかし先程言ったことに嘘はない。奴には関わらないことだ」


 そしてそれだけ言うと用は済んだとばかりに歩き出していった。


 (後悔ってどういうこと?)


 アリスはその姿を見送りながら先ほど言われた言葉を心の中で反芻する。


 「ねぇ?アリス?」


 「ふぁ?」


 うーんと悩んでいるとアリスの肩を叩きエミールが覗き込んでくる。


 「どうしたの?」


 「どうしたじゃないよ!私アリスがテッザン先輩と知り合いだったなんて知らなかったよ!」


 鼻息荒く詰め寄ってくる友人の姿に少し引きながらアリスはそうだったと手を打つ。


 「ゴメンね。隠してたわけじゃないんだけど」


 このエミールというおとなしいクラスメイトは大の機士マニアであり、バッカスはこのアカデメイア学院都市でも守備隊長を務める猛者である。


 しかも、世界に十二人しか存在しないと言われるハイランカーのランク3である。

 エミールでなくても知り合いというだけで興奮するのはわかるというもの。


 「そうなんだ…でもどういう繋がりなの?」


 「んーーとぉー」


 エミールは一応納得してくれたがまだ気になる様子であり、それに対しアリスは口ごもるしかない。


 なぜなら、関係を説明しろと言われても、昔助けてもらった恩人ですとしか言えないわけで…しかもそのことは秘匿するようにいわれている。

 理由はアリス自身もわからないが、おいそれと秘密を口にすることはできなかった。


 「えっとね。昔住んでいた都市が同じだったんだ!」


 だから、適当にそれっぽいことをいってしんみりした表情をしてごまかそうと試みる。


 「そう…なんだ…。変なこと聞いちゃってゴメンね…」


 それが功をそうしたのかアリスの適当なごまかしを曲解して納得の表情を浮かべるエミール。


 「気にしないでエミールちゃん!みんな同じような経験してるもんね?」


 (なんかわかなんないけどうまくごまかせたかな?)


 友人に嘘をついてしまった後ろめたさを感じながら朗らかに笑い歩き出す。


 もうすぐ学園都市アカデメイアに存在するただ一つの教育施設アカデメイア学園の始業のべるがなってしまう。


 「ほら!早く行かなきゃ!学校が始まっちゃうよ!」


 「あっホントだ!待ってよー」


 歩き出すアリスにエミールは小走りで走り寄ると二人で歩き出す。


 




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