8:その次期国王、宰相が悪人につき
遅くなってすみません!!
アリスと一誠が、水浴びイベントでイチャイチャしていた頃、フィルツ王国の次期国王ーーーフェルナンドにも動きがあった。
「報告します。アリス王女を追っていたと思われる兵士が十人、死体で見つかりました。---恐らく、何者かの介入があったと思われます」
「あいつはもう王女ではない。大罪人だーーーーーーそれで、なぜそう思うのだ?あいつは従者を連れていただろう、その中に腕が立つ者も何人かいたはずだが?」
王城の最重要地点----王座に座るフェルナンドに、王宮抱えの精鋭部隊の兵士が報告していた。
「はっ、申し訳ございません。----その、罪人アリスは従者と共に王宮を脱出する際、侍女のフィナを身代わりとしていたため、護衛はついていないーーーいたとしても、向かわせた兵士には精鋭部隊のものが数人おりました。それをすべて仕留められるとは思えません。それにーーー」
「----それに?なんだ?」
純粋に次の言葉を促すつもりだったフェルナンドは兵士の顔を見て、気を引き締める。
そこは、腐っても王族だ。相手の表情で事の深刻さは理解できる。
「-----それに、死体をみるに、その人物はすべての兵の首を一撃で切り落としています。それ以外の傷は見当たりません」
ーーーーーそれはつまり、その『護衛』の人物がかなりの手練れであることを意味している。それくらいのことは、フェルナンドにも容易に理解できた。
「----ロドリスを使う必要があるか」
「----お呼びでしょうか」
「-----っ!?」
背後から聞こえた声に、その兵士は思わず振り返ってしまう。
ーーー精鋭部隊の騎士は、当然この国の軍隊のトップ集団だ。
だが、その一員である彼が声をかけられるまでその存在に気が付けないとは。
ロドリス。つい数か月前に、突然フェルナンドの前に姿を現したその男は、未だにどれほどの力を持ち、何を考えているのかさっぱりわからないーーーー非常に不気味な男だった。
だが、その頭脳はフェルナンド次期国王の大きな支えとなっている。
ーーー今回の騒動を王子に指示し、その存在を『絶対王者』にまで持ち上げたのもこの男なのだ。
ロドリスは、冷や汗を流す兵士を一瞥し、フェルナンドに話しかける。
ーーーこの国でフェルナンド相手にそのような無礼を働けるのは彼くらいなものだ。
「ーーーそれで、フェルナンド様?」
「あぁーーーーーその前に、お前たち、下がっておけ」
「「はっ」」
そう言うと同時に、フェルナンドは人払いを行い、ロドリスと二人きりで向かい合う。
「----お前は、どう思う?」
「はて、どう・・・とは?」
あくまでも、呼ばれたから来たというスタンスを崩さないロドリスに苦笑しつつ、フェルナンドは続ける。
「アリスの事だ。----あいつは一人のはずではなかったのか?」
「えぇ、間違いなく、先ほどまでは一人でしたよ。----ただ、その後は分りませんが」
「ーーーどういう意味だ?」
なぜ、先ほどまでは一人だったと断言できるのか、と疑問に思う。
なぜなら、ほかの兵や従者には分からないが、ロドリスは常にフェルナンドの側にいるのだ。
だから、先ほどの兵士の報告も一番近くで聞いていたし、それより前もずっとフェルナンドの目の届く範囲にいたのだ。
だからなおさら、断言できる理由がわからない。彼に誰かが告げたにしても、自分に見つからずにそれができる場面はなかった。
「-----そうですね、王子、いえ、次期国王様には教えておいた方がいいでしょう。----これを」
「----水晶か?」
ロドリスが取り出したのは野球ボールほどの大きさの水晶玉だった。
しかし、これが何だというのか。
「----これは、『神の目』と言います」
『神の目』それは二つで一セットとなる『魔法道具』だ。
片方を瞳を持つ生命体に持たせ、もう片方の水晶を覗くことで相手が見ている光景を、間接的に見ることができるのだ。
そして、ロドリスはこれを自身の密偵にもたせ、アリスの後を追わせていた。
ーーーーつまり、ロドリスは先ほどまでのアリスの行動をすべて知っている、のだが
「ーーーですが、その映像がちょうど先ほどの話のあたりで途切れているのです」
「ほう」
ロドリスの説明は正しいだろうが、全てを話したわけではないはずだ。ーーーこの男はそう言うものだとフェルナンドは知っている。知っているからこそ、一定の信頼は持っている。
「つまり、アイツの助っ人は誰かわからないが、かなりの手練れと言う点は間違いない。---そう言うことか」
「えぇ、この魔法道具の存在を知っているかは分かりませんが、離れた位置から監視していた私の部下をはじめに殺す。それも、映像に残らないほどの速さで。---間違いなくかなりの手練れです」
ーーーーですが、恐らく相手は一人です。
ロドリスはそう続ける。
「まず、私の部下もかなりの手練れでした。精鋭部隊に入っていてもおかしくない、いやーーーー正直に言えば、彼らなんかよりも圧倒的に強いです」
この国の精鋭部隊ーーーつまりは軍のトップ集団を『彼らなんか』と呼べるだけの実力。それを持つ者たちを従えているこの男は、いったい何を目論んでいるのか。
フェルナンドは冷たい汗を全身に感じながら、話の続きを促す。
ーーー何を企んでいようとも、今現在この男は味方であり、自分が王になるための力を貸してくれているのだ。
「----ですから、今回はこれくらいの兵士をお借りしたいと思います」
「そうか、好きにすると良い」
「お任せくださいそれとーーー」
(せいぜい役に立つと良い)
フェルナンドはロドリスの推察や今後の作戦を聞きながら、うっすらと笑みを浮かべていた。
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ロドリスは、顔に笑みが浮かぶのを堪えられなかった。
先ほどの王子が自分をどう思っているかは知っている。
だが、今のロドリスの関心は既にそこには向いていなかった。
「まず、国の北側に魔物の群れを流しましょう。そして、それらの討伐と言う名目でギルドに依頼。それから、南側の警備に多めの人材を派遣しましょう」
フェルナンドの元を離れ、自身は王宮の地下へーーーー王族のごく限られた人間しか知らないその場所で、ロドリスは彼らに指示を出していた。
そこにいるのは、ロドリス直属の部下たち。本人をしてこの国の軍隊よりも圧倒的に強いその者たちは、当然、この国のものではない。
故に、この国の誰が死のうと、誰を殺そうと一切の躊躇はない。そして
「「はい。----アギル様」」
「ーーー今はロドリスだ。普段からそう呼べ」
ロドリス以外の命を受けることはなく、ロドリスの命は絶対だ。
「「はっーーーーロドリス様」」
その言葉と共に、その場にいたおよそ十人足らずの手下たちは一瞬にして闇に溶けていったーーーー
「さて、それではあともうひと頑張りですね」
一人取り残されたロドリスはつぶやく。
「------すべては我らの望みのままに」
あぁ、この宰相間違いなくーーーーー。
まぁ、皆さんのご想像通りの展開になると思いますよ←




