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その旅人、壊れ性能につき  作者: 猪口茂
第一章 フィルツ王国
7/22

7:その青年、神の力を持つ者につき

今回、ちょっとだけ量が多くなりました。

「----ところで、ずっと気になってたんですけど」


一誠に対して、気を許しているのか、上から目線な言葉遣いに移行しつつあるアリス。

互いの自己紹介も済み、今後の方針を決めるーーーーその前に一つ、アリスにはどうしても聞いておきたいことがあった。

目の前の人物ーーーラーズグリーズルと名乗るこの青年のもつ『力』について、だ。


先ほど彼は間違いなく『魔術』を使った。しかし、恐らく彼の主戦力は最初に見せたあの剣術だろう。だが、魔術は『剣術を極める傍らで』などと、そんな簡単に会得できるものではない。


この国の王宮魔導士ですら、何十年も努力と研究を重ね、火の玉をいくつか飛ばすので精いっぱいなのだ。

ーーーー決して、さっきの彼のように、ほいほい使えるほど『魔術』は簡単ではない。

だが、彼は自然にーーーあたかもあたりまえのように使っていたのだ。この国、いや、この世界の常識において、それはあり得ないことだった。

だから、アリスは思い切って聞いてみることにしたのだがーーー



「----あなた、魔術師なの?」

「え、違うぞ。俺はーーーー」



ーーーーこんな答えが返ってくるとは思わなかった。

それはつまり、専門職でない『魔術』を普通に使ってみせる。そんな『人ならざる』力をこの青年が持っているという事になるのではないか?

だが、そんなアリスに気づいていないのか、彼は続ける。



「----俺は、『神剣士(ウェポンマスター)』だ」

「-------。-------------。----なにそれ」

「-----」

「-----」

「ーーーえっと、神剣士って言うのはなーーーー」



神剣士、そんな存在は聞いた事がない。

ーーー自身が追われている身であることも忘れ、アリスは青年の説明に耳を傾けた。



  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


神剣士(ウェポンマスター)。それは、《ナイアー・ラ・オンライン》において、『すべての武器の熟練度をMAXまで上げた』究極の猛者(暇人)にのみ与えられる称号。そして、その称号の効果は『武器の入れ替え速度の向上』。

一般的なゲームなら、『やり込み要素』程度なのだが、このゲームにおいては違う。

それは、このゲームの『特異性』に起因しており、だからこそこの《ナイアー・ラ・オンライン》において、神剣士(ウェポンマスター)は文字通り『神』のような存在であり、カンストプレイヤーの最終目標の一つでもある。



ーーーでは、ここで《ナイアー・ラ・オンライン》の特異性について語っておこう。

通常のMMORPGにおける職業は『戦士ファイター騎士ナイト僧侶ヒーラー魔導士マジックキャスター盗賊シーフ』などが基本である。

そしてそれらは、その世界の住人ーーいわゆるNPCにも当てはまる。

彼らもまた、プレイヤーと同じように職業を持ち、レベルがあり、その世界で生きている。


だが、この《ナイアー・ラ・オンライン》は違う。

この世界に飛び込むプレイヤーはみな『勇者』という職業を与えられる。

そして、勇者は基本的に『何でもできる』存在なのだが、最初の頃はただの『器用貧乏』でしかなく、一つ一つの攻撃力は格下のモンスターにも劣るほどなのだ。

ーーーーもっとも、十数レベル上がれば『化け物』じみた強さになるのだが。


だから、勇者は自身が極める武器を選択することによって『独自性』を手に入れる。

例えば、剣を極めれば『剣士』、杖を極めれば『魔術師』と言ったようにーーそれが、ほかのゲームにおける『職業』のような形になるのだ。

つまるところ、ナイラにおけるプレイヤーは常に職業変更ができる、もしくは職業の組み合わせによって、オリジナルの職業を扱うことができるのだ。

『ーーー組み合わせ自由な職業。君だけのオリジナルを見つけよう。』これが、ナイラが三年間もの間常に売り上げ一位を記録した理由なのだ。



ーーーーと、ここまで説明すれば、神剣士(ウェポンマスター)の異常さは理解できたと思う。

『全ての職業の全ての技を使うことができる。』-----そう言うことなのだ。

だから、全てのカンストプレイヤーはこの神剣士(ウェポンマスター)を目指す。

そして、この男、佐倉一誠は辿りついた。ただそれだけの話だ。


ちなみに、一誠が現役のころにこの『神の領域』に辿りついたのは、たった十数人。

そして、各々に『ヴァルキュイヤ』の異名が与えられるのであった。




  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・・・・・・・・・・」


アリスは、はじめ自分の耳を疑った。---目の前の青年は何と言った?

『俺は、全ての職業を完全にマスターしている』と言ったのだ。

ありえない・・・ありえないがーーーー


ーーーーー仮にそうだとすれば、彼の特異性が納得できてしまう。

当然のように魔術を使い、剣術でフィルツ王国の精鋭騎士を圧倒する。

そんなことができる職業は聞いた事がない。

それに、職業を完全習得(マスター)するなど、何年かけてもできる事ではない。

だけど、神剣士(ウェポンマスター)と言う職業がーーーそんな『神』の力とも言えるそれをこの青年が持っているのであればーーー



ーーーーそうか。

アリスはハッとした。


この青年は、端から命を懸けて自分を守るつもりはなかったのだ。

いや、もちろん、必ず守ってくれるのだろう。先の眼差しはそれほど真剣だった。だが、命を懸けるほど危険な事だとは露程にも思っていないのだ。

軍を相手にしても勝てる。それだけの力を持っているからこそ、彼は『気が向いた』と言う一言で自分アリスの運命を、死を迎える少女の運命をーーー変えてみるのも面白そう(・・・・)だと思ったのだ。


ーーー本当に、どこまでも単純な人だ。

人の命を何だと思っているのだ、とか、まるで悪魔だ、とか、本来ならそう言った感情が湧くものだが、このときアリスはーーー



ーーー彼を、ラーズグリーズルを『とても人間味のある勇者』だと感じたのだった。

面白そうだから(そうしたいから)』力を使う。

そんな生き方をする彼はとても楽しそうでーーー


ーーーー『力がある者は総じて不幸である』

つい先ほどまで核心をついてると思っていた言葉の、まさに『例外』。

いや、本来あるべき『強者』の姿なのかもしれない。そんな風にも思えた。


だから、そうやって生きていけるーーーそうやっていけるだけの力がある彼を羨ましく、頼もしく思ったのだ。


だからアリスは願った。

物語の中にいる、綺麗なだけの勇者ではなく、目の前にいる、自分のために力を使う、そんな勇者に。



「----勇者様」

「ん?」

「兄を、止めたいのです。ーーー姉を救いたいのです。------この国を救いたいのです。だから、私に力を貸してください。----勇者様」

「----勇者、ね。----わかった。って言うか、元からそのつもりだ。任せとけ」



ーーーーーあぁ、間違いない。

この人は、勇者だ。私の(・・)勇者だ。


自由で、自分勝手で、自分のために力を使う。

だけど、私をーーー見ず知らずの少女を救ってくれた。守ってくれる。


そしてーーーー未来を見せてくれる。


だから、私は、私だけは彼を勇者と呼ぼう。

自由に生きる、彼の生き様をいつまでも見つめていたい。

ーーーそう思った。



王女アリスと旅人ラーズグリーズル。

二人は作戦を練り始める。


そこには勇者に全面的な信頼を置く王女と


ーーーー充実感から顔がにやけつつも、いつになく真剣な目をした勇者がいた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


こうして、物語は動き始める。

神の力を持つ一誠と、のちに彼の妻となる聖女のーーーー





ーーーーーー圧倒的な『力』で、多くの『策略』を打ち砕く。そんな物語が。

なんか、魔王に転生したかのような物語の始まり方ですが、安心してください。

彼は、自由気ままに『楽しい事』を探す、そのためには手段は選らばーーーーーあれ、なんか魔王の方が似合っている気が←

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