4:その悪魔、鉄仮面につき
自分を見て震えあがるアリス。
そんな彼女を一誠は無表情で眺めていた。
別に、粗相をした彼女を疎ましく思っているわけではない。
孤児院出身の一誠にとって、粗相をしてしまった子供への対応は慣れたものだ。
変に気を遣うよりも、特に気に留めたようでもなく、さらっとフォローするのがベスト。それが一誠の持論だ。
だから、一誠は何も言わずに近づきーーーー
「----ぇーーーーひゃぁあっ!?」
ーーアリスを抱きかかえ、そのまま町の中央へ向かって歩き出した。
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ーーーーこの青年は何がしたいのだ!?
アリスは混乱していた。
このまま町の中心に行けば、自分のあられもない姿を公衆の面前に晒すことになる。
だが、抵抗すれば、先ほどの兵士たちのように『気が付けば首が無くなっていた』なんてことになりかねない。
そんな葛藤をしているうちに、中央市街の賑わいが聞こえてくる。
ここで辱めを受けるよりは、今すぐ死んだ方がましだと思うが、恐怖のあまり体が動かない。
アリスは大通りに出る
彼女の姿を見た国民たちが騒ぎ始めーーーーー
ーーーーーーーーーーいつも通りの賑わいが続いていた。
「------え?・・・え?どういうーーー」
「しっ、喋るな」
「ひいっ!?」
思わずつぶやいたアリスを青年が咎める。
軽くとがめられただけにもかかわらず、アリスには最後通告のようにも聞こえた。
しかしーー
「おい、今なんか言ったか?」
「え?いや、何も言ってないわよ?」
二人のすぐ側を歩いていた夫婦がそう言いあうのが聞こえる。
ーーその瞬間、アリスはすべて理解した。
ーーーー今の私は、国民達には見えてない
それならば、先ほどの彼の言葉も納得できる。
あれは、単にうるさいという意味ではなく、アリスが喋ると、周りに存在がばれてしまう、それを懸念しての言葉だったのだ。
それに気が付いた瞬間、アリスは今の自分がどんな状況なのかを思い出した。
粗相をしてしまったアリスのドレスは汚れているに違いない。なのに、今この青年は何も気にすることなく自分を抱え上げている。
ーーーそれも人生で初めての『お姫様抱っこ』と言うやつだ。
それに、この人はあの場で殺されそうだった自分を救ってくれたのだ。
ーー彼は、着ている服以外は本当に普通の青年だ。
街中で見かけても特に気にするーーーーいや、恐らくこの『人とは思えない』強烈なオーラで思わず目が行くかもしれない。
ーーだが、この人は何のためにこんなことをしているのだろうか、そんな疑問がふと
頭をよぎる。
誰かが裏で糸を引いている可能性ーーーーはないか、考えながらそう思う。
先ほどの行為は言ってしまえば国への背徳行為だ。
兄上に知られれば、彼も暗殺の対象になるのは間違いない。
トマス兄上と宰相の可能性もない。
これほど優秀な手下がいるのなら、逃げ回る必要がない気もするし、私を保護する理由も見つからない。
ーーーなにせ、私は『側室の娘』なのだ。
『正妻の息子』である兄上二人にとって自分は、優秀な手下を使って守るほどの大切な存在ではないし、そんな風に扱われたことはない。
だとしたら、この人はなにーー??
アリスが考えに浸っているうちに、青年は一般市民が泊まるようなーー可もなく不可もないーー宿屋の前に立っていた。
そのまま宿屋に入り(入口にドアはなかった)おそらく店主ーーの前を通り過ぎる。
昼間から酒場でワイワイやっている男どものわきを通り抜け、二階へと上がる。
長い廊下の一番奥『21』と書いてあるドアの前で立ち止まる。
ーーーおそらくここが目的の場所なのだろう。
このころには、アリスの意識ははっきりしており、気持ちも大分落ち着いていた。
だから、周りに誰もいないのを確認して、青年に話しかける。
「ーーあの」
それと同時に青年がドアを開ける。
「ーーーまずは、体を洗え」
「え」
部屋に入ってすぐの所に、一般市民の宿屋には珍しい浴室ーーのような場所があった。この時代、王族や貴族以外は水浴びで体を清めるしかなかった。それを知っているアリスはそこが浴室のような場所だと理解した。
ーーーが、
「じゃあ、終わったら声をかけてくれ。俺は部屋の前で待ってる。これがタオルと着替えだから」
「------あ、あの!」
「----なんだ」
早口でまくしたて部屋を出ようとする青年に慌てて声をかける。
無表情のまま振り返った彼にーーーーまだ、敵か味方かわからない命の恩人にーーーーこんなことを言うのは気が引けるが、このときのアリスは特に考えもなく告げた
「わたしーーー自分でお風呂入ったことないん・・・です・・・けど」
言いながら失態に気が付き最後の方はほとんど呟きになってしまった。
するとーーー
「-------。-----------。わかった。」
すごく気まずい空気の中、青年は何かを諦めたような顔でそう呟いた。
そしてこの時アリスは初めて、青年の鉄仮面がはがるのを見た。
さて、次回『それなんてエロゲ』。
お楽しみに!!(嘘)