22:そのレイド、古代ガリアの祭儀につき
更新遅くなってすみません。
少し長めです。というか、ぴったり5000文字です!!
それと、2万3千PV突破です!!ありがとうございます!!
不定期の更新ですが、最後までしっかり書いていくので応援よろしくお願いします。
「くそっ!!化け物め!!」
「王子!危険です!!お下がりください!!」
フィルツ王国の王都は既に三分の一が燃え盛り、瓦礫と化していた。
その被害が三分の一で住んでいるのはもちろんトマス王子のお陰である。
ウィッカーマンには顔や目、耳や鼻と言った器官は存在しないが、どうやら攻撃を受けた自覚はあるようで、何度も騎士が切り付ければ反撃しようと追ってくるのだ。
まるで狂獣のようなその習性を利用し、トマスは王都の西側、外壁の外にウィッカーマンをおびき出すことに成功していた。
アリスの専属騎士であったユリウスやフィナは王城を離れていたようで、生き残っており、市民の避難誘導に尽力してくれているはずだ。
だが、いくら策を立てようと、圧倒的なレベル差の前では意味もなく、引き連れていた軍の多くが重傷を負い、戦闘不能にまで追い込まれていた。
トマスの呼びかけに応じた軍の兵士や冒険者はおよそ300人。
しかし、王都の西側への誘導や、今現在も続いている足止めでその数は半分近くにまで減っていた。
自分の邪魔をする雑兵が消えたことを悟ったのか、ウィッカーマンは再びその足を王都へとむける。
いくら王都の外におびき出したところで、倒すことが出来ないのなら意味はないのかもしれない。今、自分が出ていったところでレベルが20の自分にレベル150の化け物が倒せるはずもない。
ーー無理だ、意味はない。
「ーーそんなことは分っている。分かっているんだ」
「王子・・・」
悔しそうに唇をかみ、ウィッカーマンを睨みつけるトマスに、シャランや騎士たちは声を失う。
「ーーー俺は王子だ。だけど、国の象徴は王ではない。王がいるから、人はそこを王国と呼ぶ、だが、民がいなければそれは王ではない」
「ーーー」
「俺は、王族であることに誇りを持っている、この国の民の事を誇りに思っているーーこの国を誇りに思っている」
「ーーー」
「ならば、今、俺たちがすべきことは何だ?立ち尽くすことか?絶望することか?諦める事か?」
「ーーー」
それでも顔をあげない騎士たち。
当然だろう、勝てぬと知って、敵わぬと知ってーーそれでもなお戦おうとする者、戦う意志の残っている者がいるとすればそれは勇者か狂人だ。
人はそれを勇気と呼び、蛮勇と呼ぶ。
「俺は、好きなんだよ。この国が」
「----!」
「だから、守りたい。そしてそれは、誰でもない、俺自身の手で守りたい」
ついに顔をあげた兵士たち。
そして彼らはトマス王子の顔に映ったそれに息をのむ。
そこにあるのは使命感や義務感ではない。
ただひたすらに、愛する者たちを守ろうとする、一人の男としての感情だった。
「ぅおおおおおおおおおおっ!!!!」
トマスは気合の咆哮を上げ、詰め所に置いてあった名もなき剣を引き抜く。
だが、今ここで重要なのはそれが名刀であることではない。
兵士たちにとって重要なのは、そこにいるトマスと言う人物が英雄であることだ。
英雄が立ち上がり、剣を引き抜く。
まるで御伽話のようなその立ち姿に兵士は心を奪われる、憧れる。
ーー自分もそこに立ちたいと心が駆り立てられる。
「「おおおおおおおおおおおっ!!!!」」
走り出したトマスに続き、全ての兵士が立ち上がり、走り出す。
ーー願わくば、あの英雄の隣で戦えることを。
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「走らないで!!落ち着いて!!」
声を枯らしながらフィナは叫ぶ。
本来、これは彼女の仕事ではない。
だが、王城が踏みつぶされ、多くの王城仕えの人間が死んだ今となっては、とにかく人手が足りなかった。
見れば少し離れた場所でユリウスも戦っている。
迫りくる炎の中で、一人でも多くの人間を助けようとしていた。
レイドが王都に出現したとき、フィナとユリウスはアリスの言いつけに従ってトマスの救出に向かっていた。
救出とはいっても、厳密には『お迎えに上がる』と言った形になるので、トマス王子を歩かせるわけにはいかない。
だから、まずは連絡役として一人の兵士を走らせ、その間に牛車ーー王族専用の乗り物ーーを用意していたのだ。
そして、詰め所へと向かう途中、それは現れた。
フィナもユリウスも呆然と立ち尽くしていたが、既に詰め所近くまで来ていることもあり、トマスの声は彼らにも届いた。
だから、すぐにトマスと合流し、フィナは避難誘導に、ユリウスは市民の救出活動を始めた。
二人は一度『死』を経験している。
だからこそ、誰よりも『死』が突然、そしてあっけなく訪れる事を知っていた。
そんな彼らだから救われた命を誰かのために使いたいと思う。
救える命があるのなら、救いたいと思うのは当然であった。
それが元より他人のために尽くしてきた人生であるならなおさらだ。
だが、悲しいかな。
人ひとりーーいや、人が人である内は限界がある。
全てを救う事を目指し、多くを救うために少数を切り捨てる。
これが人の限界であり、その限界を超えた救出劇を人は『神の奇跡』と呼ぶ。
当然ながらユリウスやフィナ、それと彼らを手伝う数名の人物の中に『奇跡を起こせる』者はいない。
だが、『奇跡』と呼ばれる青年の存在を、彼らは知っている。
故に、祈る。
ーーー彼が、再び我らを救わんことを。
そして同時に、己を戒める。
ーー神に縋りつくだけの者に、救いの手は差し伸べられないのだと。
だから、彼らは手を止めない。
消えかかっている命の灯火があるのだから、休むことは許されない。
ーーーしかし、そんな懸命の救出活動も終わりを迎える。
まず、それに気が付いたのはフィナだった。
フィナやユリウスがいるのは王都の西側。
王都の中心に現れたレイドをトマス達が西側へと誘導したため、レイドに近いそこが一番優先されていた。
そんな彼らだからこそ、気が付けた。
否、ウィッカーマンの巨体は王都の東側でも観測できるため、王都の住民ほぼすべてが気が付いていた。
「ーーなに、あれ」
立ち尽くし、誰もが浮かべた驚愕と絶望とが混ざり合った一言を漏らすフィナ。
彼女たちの視線の先ーーウィッカーマンは無数の触手を生やしていた。
その一つが近くにいた兵士の足を捕らえ、空高く持ち上げた後、触手ごと兵士を体内に取り込む。
「ぎゃああああああああああっ!!!」
兵士は悲痛な叫び声をあげながら焼き尽くされる。
その光景にトマスを含め、近くにいた者は素早く距離をとる。
だが、本体とはかけ離れた速度で襲い来る触手に捕らえられ、再び多くの兵士が命を散らす。
もはや傷を負っていない者はおらず、戦える者は50人にも満たなかった。
「くそっ!!なんなんだこいつは!!」
自身に迫る蔓のような触手を断ち切り、トマスは叫ぶ。
それは苛立ち、だが目の前の化け物に向けられたものではない。
己の弱さ、ふがいなさにトマスは苛立ちを募らせる。
だが頭が、司令塔がそれでは部下の命はいくらあっても足りない。
なんとか自らを落ち着かせ、策はないかと考える。
立ち止まって観察する間もないほど絶え間なく襲い来る触手だが、どうもその数には上限があるようだった。
しかし、絶え間なく動き続けるそれを数えることは困難であり、無限に増えるわけではないとだけ覚える。
触手を使い始めた原因は不明だが、少し遠くに避難させてある重症の兵士たちにはそれらが伸びていかないところを見ると伸ばせる範囲にも限界があるようだった。
そうやって少しづつ相手を把握するトマスだったが、少しそちらに意識を傾けすぎた。
なにせ、今までは一人に対して一本にか襲ってこなかった触手だ。防ぎきれると思っていた。
だから、彼は対象(兵士)の人数が減ったことによる『一人に対する触手の本数の増加』と言う簡単なことに気が付けなかった。
「王子!!!!」
「---ーっ!?」
シャランの声にハッとするも、時すでに遅し。
ぐんっ、と体が宙に引っ張り上げられ、視界が反転し急速に地面が遠ざかってゆく。
足首に絡みついた触手を断ち切ろうと剣を振り回すが長さが足りず、届かない。
「くっそがああああああっ!!」
最後の悪あがきに、と持っていた剣を投げつける。
しかし、ウィッカーマンの巨体からすればそれは爪楊枝が刺さったようなものだ。
痛みはあってもそれでどうにかなる訳ではない。
目の前まで迫った巨体と、その中から感じられる死の匂い、燃え盛る炎の熱気に思わず目をつむる。
圧倒的な力の前に英雄は敗れ、人々の希望は途絶える。
ーーーそして、トマスの体は急速に落下を始める。
「ーーーは?」
目を開けたトマスの視界に飛び込んできたのは先端は絡みついたまま、足首付近で切断された触手。
そしてーー
「お兄様!!!!」
「ーーあ、アリスッ!?」
人々の希望を運ぶ、『聖女』の姿だった。
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「さてーーー久しぶりに見たな。こいつ」
アリスがトマスや兵士達の元へ走っていったのを横目で確認しながら、迫りくる無数の触手を躱していく一誠。
アリスを連れて王都へ転移した二人を待っていたのは、瓦礫の山と化した王城と燃え盛る街並み、そして住民たちの悲痛な叫び声だった。
思わず立ち尽くす二人だったが、ロドリスの言葉を思い出し、すぐ我に返る。
王城場付近からでも目視できるその巨体に一誠は見覚えがあった。
「ーーーウィッカーマン・・・」
「そんな・・・レベル150!?ーーーっ!フィナは!?ユリウスは!?・・・お兄様は!?」
慌ててあたりを見渡すアリスをよそに、一誠はウィッカーマンの行動に疑問を覚える。
王城から西側に向かって通った後があるが、そこ以外は破壊されていない。
つまり、現状の被害だけを見れば、ウィッカーマンは西側から侵入して王城を壊し、再び西側へと向かったことになる。
だが、ロドリスの言葉を信じるとすればそれはあり得ない。
ならば、なぜ今ウィッカーマンが王都の外にいるのかと聞かれればそれはーー
「アリス!とりあえずあそこに行くぞ!!」
「えっ!?あんな化け物の側に行ったら死んでしまいます!!」
顔を真っ青にしていやいやと首を振るアリスに一誠は喝を入れる。
「誰かがその化け物の足止めをしてんだよ!!俺はそいつに加勢する!!お前も聖女なんだろ!怪我人の治療をする奴が必要なんだよ!!良いから行くぞ!!」
それは初めて見せる憤怒の表情。
そのあまりの気迫に押され、アリスは一誠の手を取る。
戦場に出ることは慣れている。だが、王女として戦場の最前線に出向くことはできなかったため、思わずためらってしまった。だが、『聖女』としての自覚と責任が彼女に覚悟を決めさせた。
そして、二人は現在に至る。
落下してくるトマスの下に、アリスは一誠にもらったそれを投げつける。
勢いそのままに地面へと吸い寄せられるトマスは、熟れた果実が弾けるような音を立てて地面に激突する。
ーー否、それは激突などではなく着水に近いものだった。
そして、トマスの動きは完全に停止する。
「と、トマス王子!?」
「固まってる!?」
驚いた表情のまま空中で停止したトマスに兵士たちは慌てるが、アリスは笑って答える。
「アリス様、これはいったいーーー!?」
「大丈夫よ、もうすぐ終わるから」
「ーーーーーーーーーーぶはっ、な、なんだこれは!?」
「うふふ・・・スライムトラップだそうですよ、お兄様」
対軍用の罠であるスライムトラップだが、その入手難度の低さや格安さゆえか、効果時間が十秒ほどであるため、上級者のボックスを圧迫する要因の一つとなっている。一誠に至っては『スライムトラップ×99』の表記がボックスに散乱しているほどだ。
そんなトラップの効果は『対象の拘束』で、触れた者は十秒間動きが停止するのだ。
地面すれすれでスライムトラップに触れたトマスはきっちり十秒空中で停止し、その状態から落下を開始する。
高さ数十メートルからの落下が、高さ数センチの落下に切り替わったため、トマスにけがの類は一切ない。
本来の使い方ではないが、ポーションの半分にも満たない価格のトラップで国の重要人物の命が救えたのだ。『安いものである』どころではなかった。
ーーそんな安価な救出劇を確認したのち、一誠はウィッカーマンを抑えにかかる。
アリスはトマスや兵士を少し離れた場所まで誘導し、手当てをする予定になっている。
触手の有効範囲から外れれば彼らに被害を及ぼすものはない。
一誠は邪悪な笑みを浮かべ、武器を持ち変える。
「ーーあの時の借り、返させてもらうぞ」