13:その次期国王、あっけない幕引きにつき
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ありがとうございます!!!!
これからも、一誠君をよろしくお願いします。
ユリウスは、目の前の光景に半ば呆然としていた。
そこには、一人の青年に頭を下げる人々がいた。
つい先ほどまで、その青年ーーーラーズグリーズルを殺そうとしていた衛兵でさえ、その頭をさげ、「神よ、おゆるしください」などと言っている。
たしかに、この青年はあり得ないほどの力を秘めているが、そんな彼が『俺は神だ』と言って、『はいそうですか』と信じるほど人間は単純にはできていない。
ならば、今この状況は何と説明すればよいのだろうか。
その場にいる誰もが彼を神だと信じ、信仰をささげている。
ーーこの国は確かに多神教だから、それ自体に問題はない。だが突然現れ、暴力的なまでの力を振るっただけで『神様認定』してしまう彼らの神経が考えられなかった。
あれよあれよと言う間にラーズグリーズルの前には王城へと続く道ができる。
その道をただまっすぐ、何も言わずに歩き続ける彼と、そんな彼に熱っぽい視線を送るアリス王女。
姫様、その方はやめておいた方が。そう言いたくなる気持ちをぐっとこらえ、ユリウスは彼女の護衛として最低限の働きをすべく彼らの後を追った。
ーーー後ろからついてくる、大勢の市民の足音を聞きながら。
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「ーーー今、何と言った」
少し前、一誠たちが向かう王城でも動きがあった。
「その、罪人アリスとその従者三名がこの城に向かっております。----市民もいくつかの勢力に分かれており、中には彼らを支持している者もいるようです」
「-----ちっ、もうよい。下がれ」
「はっ」
盛大に舌打ちしたフェルナンドは兵士たちが下がってゆくのを眺め、それからゆっくりとその口を開く。
「-----聞いていたな。ロドリス」
「えぇ。もちろんーーー少し、いえ、かなり予想外の行動できましたね。聖女と言う肩書がここまで厄介だったとは」
「どうするつもりだ」
あまり慌てた様子のないフェルナンドを、ロドリスは値踏みでもするように眺めていた。
「----まぁ、純粋に数で押せるとは思うのですが」
「そうだな。だがーーーー」
「えぇ、間違いなくいると思いますよ」
以前、アリスを殺そうとした兵士たちだけでなく、遠くから監視していたロドリスの兵士ですら瞬殺した人物。
そいつもきっといるはずだ。だが、何のためにそんなことをしているのかは全く分からないが。
(単純に聖女を助けたかった?--いや、弱いな。では、他国の?---あり得なくもないが、そこまでする必要はない。ましてや罪人の肩を持つなど。)
分からない。
少なくとも、そんな酔狂なことをしたがる人物には会ったことがない。
ーーーロドリスの脳は警告を発していた。
未知とは恐怖だ。それは彼自身もよく知っている。
(だが、この国での仕事は八割がた終了している。----今が潮時か。)
そう決めたロドリスは早い。
ロドリスが手を引けば、この国の次期国王、フェルナンドの運命は風前の灯火だ。
だが、そんなことにも気が付かず当の本人は悠々たる面持ちでいる。
いつ裏切るかわからない部下と知っておりながら、それに頼り切りとは。
全く、こんなのが国のトップとは笑わせてくれる。
ーーーだが、そのおかげで今までやり易かったのだから、感謝するとしよう。
「フェルナンド様、ここはもう兵をあてるしかないのでは?」
「そう、だな。相手が未知数だからと言って引いているようでは王の器もたかが知れると言うものだ。----精鋭部隊を全員使って潰すとするか。下民どもは反発するかもしれんがな」
「では、私の部下もその作戦に参加させましょう。圧倒的な力で黙らせるとしましょう」
ロドリスの誘導とも言えないそれに乗っかるフェルナンド。
彼は今も昔も完全にロドリスの手駒であった。
もちろん、ロドリスは部下を全員使うつもりはない。
あくまで数人、敵の情報を入手するためだけに投入するのだ。彼らに戦わせるつもりなど毛頭ない。
「さて、それではーーーー」
言いかけたロドリスを遮るようにドアが開き、兵士が飛び込んできた。
それには思わずフェルナンドも立ち上がり、部屋は一変して緊張した空気に変わる。
「申し上げます!!罪人どもが王城に乗り込んできました!!一般の市民や衛兵も混ざっており、かなりの人数です!!ただいま兵を向かわせておりますが、全く歯が立ちません!!」
「「なっ」」
「それだけではありません、彼らの中には死んだはずのユリウスもおりました!!」
そんな馬鹿な、アイツは確かに死んだはずーーー
そう言おうとした時、世界が振動した。
もちろん、地震ではない。何か固いものが砕ける音がしたことから、この城での戦闘の余波であることは間違いない。
フェルナンドはあまりの事態に混乱しているようだ。何かわめいている、がこちらも危険だ。
引き際を間違えれば、長年積み上げてきた計画に支障が起きてしまう。
ーーーーさっさと切り捨てるとしよう。
そう感じたロドリスは誰に気づかれるでもなく闇に溶け込む。
ーーーその際になにかつぶやいていたが、聞き取れた者はいない。
「おい、ロドリーーーっ!?あいつ、どこに行った!!」
「国王様!!奴らもうすぐそこまで迫っております!!お逃げください!!」
取り残されたフェルナンドは、そのあとすぐに一誠たちに捕らえられ、『大罪人』として牢へ押し込められることとなる。
アリスの話では『ロドリス』と言う男が裏で糸を引いているという事だったが、一誠のマップ検索でも見つけることができなかったため、捜索は中止、事後処理に追われることとなる。
国の重鎮達はその役職も権限もすべて奪われていたため、ラーズグリーズルの『放っておけ』の一言で釈放。以前と同じ役職で国のために尽くせとの命により、家の取り潰しも免れ、彼に多大なる信仰を寄せる信者の一員となった。
こうして、フィルツ王国での事件はあっけない終わりを迎え、残りはトマス王子とその宰相、国のどこかに幽閉されたというマーベル王女を救出して終了ーーーーするものだと誰もが思っていた。
だが、フィルツ王国にとっての本当の危機、それはまだ始まってもいなかった。
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内政への関心は全くない一誠は、事後処理を全て他人に押し付けーーーと言うよりも『神にさせるなどとんでもない』と勝手に引き受けてもらいーーーアリスと共に未だ行方の知れぬトマスとマーベルの救出に向かおうとしていた。
なぜアリスも一緒なのかと言えば、一誠一人では信用性がないという事と(『俺は神だ』で通用するのだが。)アリスたっての希望 (むしろこちらが大きい)であった。
「ーーー待っていてくださいね、お兄様、お姉様」
そう意気込むアリスのでに、一誠は空を見上げる。
ーーつい数時間前まで快晴だったはずの空には、多くの雲が漂い、日の光を遮っていた。




