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その旅人、壊れ性能につき  作者: 猪口茂
第一章 フィルツ王国
12/22

12:その長女、囚われの身につき

3000PV突破!!ありがとうございます!!

ーーその部屋は、ただ、命をつなぐためにあった。


食べ物には困らない、寝る場にも困らない、衣服にも困らない。

ーーーすべて最高級のそれが提供される。


だが、『生きること』以外は認められない。

その部屋には一切の娯楽がない。本を読むことも、お菓子を嗜むこともーーーー何一つ許されない。

まさに監獄。そんな場所に彼女はいた。


マーベル=フィルツ=ハイン、この国の第一王女であり、王位継承権は第二位。

しかしながら、その権利をすべて放棄したーーーよく言えば争いを好まない、悪く言えば逃げたーーーどこにでもいるような顔立ちの素朴な女性であった。

二十二歳にして、いまだ婚約者すらいないのは、その立場と、ある噂によるものであった。


ーーーマーベル王女の婚約者は呪われるーーー


初めにそれを言ったのは誰だったか。

今となってはもう思い出せないし、必要もない。


そしてそれは、あながち嘘でもないようだ。


先ほどは未だ(・・)と表現したが、それは正しくない。

今まで彼女には数名の婚約者がいた。

この世界において、王家の長女はあまり権力がない。と言うよりも、女性はあまり地位が高くないーー魔術師を除いて、だが。

もちろん、ほかの姉妹に比べればその立場は高く、政略結婚で他国へと言うことはない。

最悪、その旦那が国を継ぐことも考え国のトップの貴族と婚約する。

当然、彼女も例にたがわずとある貴族の長男との婚約が決まっていた。


しかし、それが発表される直前ーーー相手の男性が謎の死を遂げた。

その後も、彼女の婚約者ーーー候補たちは謎の死を遂げ、そのうち彼女は避けられるようになる。

ーーーただ一人の男を除いては。




「--おや、今日はいつもに増して哀愁の漂う素敵な表情をしておられる」

「-----ロドリス」


その男ーーロドリスは今日も突然現れた。

実はこの男、フェルナンドやその他多くのフィルツ王国の人間が出会う、かなり前からこうやってマーベルの前に姿を見せていた。

だから、彼女はほとんど確信している。

ーーこの男がすべての元凶であると。


「-------」

「おや、そんなに警戒しなくても。今日はお話をしに来ただけですよ」

「-------」

「----はぁ。ま、いいですけども。そうそう、あなたの大事な妹さん、アリス王女に兵を向かわせたんですけど、どうも返り討ちに遭ったみたいなんですよね」

「---ーーーっ!」

「そ・れ・で、ですよ。あの王女の周りにーーーあぁ、ユリウスとか言う男を除いて、そんな手練れっていましたかねぇ?」

「-------」


マーベルは、アリスの事を大切に思っていた。

もちろん、聖女と慕われている彼女に嫉妬もしたし、正妻の娘と側室の娘と言う立場の違いから、あまり親しくはできなかった。

だが、それでも、彼女はこの国に残った唯一の妹だし、それ以上に大切な家族なのだ。----だから、彼女がまだ生きているという事実は彼女にとってありがたくもあり、アリスの身を思うと辛くもあった。


マーベルは、アリスの行動をこの男からいくらか聞かされている。

従者と二人で脱出したことも、侍女がアリスに変装して陽動しようとしたことも。

そのフィナが、ユリウスが死んだことも。


「ー------知らないわ」

「そうですか。まぁ、いいんですけども。---本来の目的はそちらではないですから」


その言い方が引っかかり、マーベルは思わずロドリスを見る。

そこには、ロドリスがいる。そのはずなのに、マーベルには目の前の人物がーーいや、目の前の存在が同じ人間だとは思えなかった。

ロドリスの体から、何か不穏なオーラが漂っていた。しかし、彼はいつもと同じ憎たらしいまでの張り付けたような笑顔で続ける。


「そろそろお伝えしようと思いましてね。---恐らくあなたも気が付いているでしょうが、その事件や今回あなたをこうして拘束している、その理由を、ね。」

「っ!!」


今回、マーベルをこの部屋に閉じ込めたのはフェルナンドだ。しかし当然、それを指示したのはこの男だ。

そして、彼の言い方からして、今までマーベルの婚約者を殺害し続けたのもこの男と言うことになる。

その理由を告げようと彼が口を開いた瞬間ーーー


「-----ちっ、邪魔が入ったか」


彼は手を耳に当て、マーベルに背を向ける。

そのあと、何かささやきーーーー


「申し訳ございません、マーベル様。この続きはまたあとでーーーえぇ、すぐに戻ってきますとも」

「----あ」


次の瞬間、その部屋にロドリスの姿は見えなくなっていた。



「------」



マーベルは再び一人になった。


次に人と触れ合うのはいつになるだろうか。

部屋には小さな窓が一つだけ付いてある。

そこから見えるのは、どこまでも広がる『赤き森』のみ。


「-------誰か」


この狭い部屋から、


この暗い部屋から、


この苦しい世界から。


「-----助けて」


囚われの王女は、再び静かな空間にーーーーその監獄に取り残された。

少し暗くてすみません。

すぐに!助けます!一誠君が!!

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