11:そのレベル差、ただただ圧倒的につき
一誠がフィナとユリウスに作戦を告げた翌日。
フィルツ王国にとって運命の日ーーすなわち彼らがその後『神が地上に降り立った日』と記し、語り継いでいくであろうその日が訪れた。
空はあの日と同じく快晴で雲一つない。
まさに作戦日和な空の元、フィルツ王国王都の中央通りではいつもと同じように多くの人であふれかえっていた。
ーーそして、その多くが異常事態に気が付き呆然とした。
人ごみの中、今はまだ『大罪人』であるアリスが、三人の従者を連れて歩いていた。
いや、その光景を客観的に見ることができればーーアリスが王女だと知らないものが見ればーー正しくは『一人の青年が三人の仲間を連れている』と気が付けただろう。
だが、そのことに気が付けるものはいなかった。
ふと、誰かが叫んだ。
「おい、大罪人だぞ!!衛兵を呼べ!!」
ーーーそれが引き金となり人々は三つの勢力に分かれる。
アリスを大罪人とし、捕らえようとするもの。
アリスを聖女様とし、彼らと対立するもの。
傍観に徹するもの。
だが、不思議なことに、その場を離れる者はいなかった。
それもそのはず、この世界に『娯楽』と言うものは少ない。
中世のヨーロッパのように『公開処刑』を娯楽とするほどではないが、このような『自分にはあまり被害がない』状況において、それを傍観するという選択をとる者は少なくなかった。
よって、この作戦の第一段階は達成された。
その一:『多くの目撃者を作る』
三つの勢力のうち、『アリスを捕まえる』と言う選択をしたものが一番少ない。
それはアリスの聖女としての人徳の高さを表している。だが、それでもアリスに襲い掛かる人がいないわけでもない。
「うおおおおおっ!!----っ!?」
数人の男がアリスに飛びーーーーかかろうとしたのだが、なぜか彼らは皆、青年に飛びかかっていた。
そして、訳の分からぬままはじき返されてしまう。
「な、なにやってんだお前ら!!」
「いや、俺たちはーーー!!」
続く男たちも、そのまた続く男たちもみな青年に飛びかかり、青年にはじき返されてしまう。
アリスを守ろうとしている者も、傍観に徹している者も、目の前で何が起こっているのか分からない。
「『絶対守護』」
だから、一誠の呟きに近いそれを聞き取れた者はいない。
『絶対守護』とは、盾の熟練度を上げることにより使用可能となるいわゆる『騎士スキル』である。
その効果は、『味方が受ける攻撃をすべてその身に受ける』と言うもので、パーティー戦においては、その有無で勝敗が決まる騎士の必須スキルだった。
そして、当然『神剣士』である一誠は使用可能だ。
だが、そもそも騎士ーーつまり、重装備で守りに特化した勇者のスキルであるため、いくらカンストプレイヤーとはいえ一誠が実際に《ナイアー・ラ・オンライン》で使うことはなかったが。
そうこうするうちに騒ぎを聞きつけた衛兵達が現れる。
そして、アリスの姿を確認すると、そのうち一人が通達に走り、残りの兵士たちは剣を抜いた。
しかし、対する一誠たちは堂々と歩き続ける。
兵士の一人が一誠に剣を振り下ろす。
ーーーこれは、『絶対守護』の効果ではなく、アリスを殺す前に、一番先頭を行くこの青年を排除しようという衛兵の判断であった。
ある者はは息をのみ、ある者は目をつむり、ある者は子供の目を隠しーーーーある者は不気味な笑みをたたえた。
「------っ!?ばっ、馬鹿な!!なぜ、傷一つつかない!?」
武器ももたない一人の青年。
真剣で切り付ければ刈り取れるはずのか弱き存在。
だが、そこに本来あるはずの『常識』は通用しない。
振り下ろした剣は確かに青年の右肩に当たった。--そして、その場にいた誰もが青年の死を確信した瞬間ーーー音もたてずに剣が折れた。
《ナイアー・ラ・オンライン》において、勇者の性能はレベルと武器熟練度依存だ。
レベルの上昇に伴い、体力、力、防御力、ありとあらゆるステータスの数値が上昇する。武器熟練度に伴い、使用可能なスキルが変化する。--もちろん、『サポートスキル』はレベルの上昇や課金アイテムによる『スキルポイント』の入手で獲得するのだが。
だから、基本的に課金で強くなることはない。もちろん、便利になる以上確かに少しだけ強くはなる。だが、結局のところレベルと熟練度が物を言うのだ。
話はそれたが、つまりナイラにおいて『ステータスに圧倒的な差がある場合、相手にダメージを与えるのはほぼ不可能』なのだ。
方法がないことはないが、ただのNPCには不可能であった。
そして、今の状況を説明するのであれば、木の枝で、鉄の塊を叩いたようなものである。ただ、『人を剣で切り付けた』という視覚的情報、『人は剣で切れる』という世界の常識、『棒切れでより硬いものを叩けばおれる』という当然の結果。その全てが合わさった、ただそれだけの事である。
「ーーーば、ばかな・・・」
しんと静まり返った空間に、その呟きは確かに響いた。
そして誰かがこう呟く。
「------あぁ、神様・・・」
それは目の前の青年が『神』に見えたからなのか、『化け物』に見えたため、救いを求めたからなのか。
ーーーそれは、誰にも分からなかった。
しかし、その言葉はその人物にとって、最高に都合のよい言葉であった。
その二:『圧倒的な存在として認定される』
青年が口を開く。
「我はラーズグリーズル。フェルナンドに引導を渡しにーー」
そこで一度言葉を切り、
「アリス、マーベル、トマスをあるべき場所へ返しに来た」
それは、明らかな国王への反逆であり、マーベル、トマスが今現在王宮にいないことの暴露でありーーーーー間違いなく『神』のお告げであった。
そして、その言葉をその場にいた全員が受け入れた。
ーー本来であれば反対するはずの人々も受け入れた。
それは、目の前の存在が圧倒的であることへの敬意であり、畏怖でありーーこれもまた一誠のスキルによるものであった。
こうして、市民は一誠を『神:ラーズグリーズル』と認識し、いつまでも語り継ぐ。
国の危機に現れたラーズグリーズルは聖女を救い、国を救った。
実際は、圧倒的なまでのステータスとスキルを振りかざしただけであるとも知らずに。
ーーーその全てを知るアリスは、勇者の姿に呆れながらも彼の背中を見つめ続けていた。
最後のスキル、ゲームに必要なのか?




