10:その土地、御伽話の世界につき
ご都合主義だろうと、テンプレだろうと、『安心して読める』なら良いのです。
むしろウェルカムッ!!
「-------」
フィナはその光景に絶句していた。
彼女の目の前ではーーーー
「-----本当に、生き返った」
「-----ぅ、----こ、ここは?」
足止めのために一人で十人以上の兵士たちを相手取り、その最期を迎えたはずの人物。
ーーーーアリス専属の騎士フェルナンドが息を吹き返していた。
ラーズグリーズルと名乗る青年が持ち出した薬『リライザー』。それにより生き返ったと言われた私は、しかし、その情報を信じる事はできませんでした。
なぜならーーー『死者を蘇生する』方法は、未だ発見できていないどころか、不可能であると言われているものだったからです。
しかしーーー
『じゃあ、目の前で蘇生すれば信じてくれるか?』
なんて言って、傷だらけーー首と体が分かれているユリウスをベットの上に置き、その手に持っている砂時計のようなものをパキッっと割る。たったそれだけで、彼の首と体がつながり、傷が消えーーーーユリウスの心臓が動き始めたのです。
それはもうーーー神の所業でした。
そして話は冒頭に戻ります。
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「ーーーぅ--こ、ここは?---っ!?姫様!?」
「はーいユリウス、落ち着いてーーーーったく、これすごい既視感があるんだけど?」
「返す言葉もございません」
「ーーー!?フィナ!?こ、これはどういうーーーいや、私はーーー」
常に冷静沈着なユリウスですら、取り乱してしまうほどの現象。
ーーーー自分もさっきまではあんな感じだったのだろう。恥ずかしい。
とりあえず、ユリウスは姫様に任せるとして、私はーー
「----ラーズグリーズルさん、あなたはいったい何者なんですか?」
ーーーはっきり言って、怪しいどころの話ではない。
姫様の話では、多くの兵士に囲まれ、殺されかけたところを救ってくれたとか。--それも一瞬で。
それに加え、『魔術』も使える。死者ですら蘇らせる。
それはさながら神の使いーーいや、神そのものだ。
同じく疑問に思ったのだろう、姫様からの説明を聞きながら、ユリウスも彼をじっと見つめている。
だが、そんな二人のぶしつけともいえる視線を気にした様子もなく、その青年は淡々と述べる。
「ん?何者ってーーーただの旅人だ」
「------そんな馬鹿な」
ーーユリウスの意見ではあるが、恐らくその言葉が今の二人の感想である。
ただの旅人に、そんなことができるはずはない。
だが、姫様を助けていただいた上に、自分たちの命まで救ってーーーー
「ーーーって、姫様!?ここは!?ここはどこなのですか!?」
理解不能な出来事を目の前にして、完全に忘れていたが、今自分たちは追われている身だ。できる限り王都から離れなければ。そう思っての発言だったのだがーー
「ん?ここは・・・えっと・・・」
「----?姫・・・様?」
「-----えっと、ここは・・・どこ?」
姫様からーーいや、正確に言えば彼らから返ってきた言葉は自身の耳を疑うものだった。
「だから言ってるだろ、ここは俺の家だ。ーーー『名もなき荒野』のど真ん中の」
「あぁ、そうだっーーーーっ!?」
「----へ?」
「なんーーだと?」
『名もなき荒野』。それはおとぎ話や伝承に登場する地名だ。
曰く、その地は人に試練を与える。
曰く、その地は人に力を与える。
曰く、その地は人に知を与える。
曰くーーーその地は人を神たらしめる。
恐らく、古の人々が修行で訪れるような場所だったのだろう。ーーーそう解釈していた。
まさか、本当に存在していたとは思えない。
だが、彼の今までの行動は既に常識を覆している。
『俺はーーー神だ』と言われても、不思議に思うことはないほどに、だ。
にしてもーー
「えっ、じゃあ『名もなき荒野』ってフィルツ王国のすぐそばにあったのね」
そう、もしここが『名もなき荒野』であるなら、それはつまりおとぎ話や伝承でしか聞いた事のない土地は、フィルツ王国の領地内、もしくはその近くという事にーー
「いや、違う。---ここはラーであって、ラーではない場所だ」
意味が分からない。そう叫びたい心境だが、姫様もユリウスも黙って彼の言葉の続きを待っている。
ーーーここはおとなしく、聞いておくべきだろうか。
「この場所は、言ってしまえば世界の裏側だ。特定の人物か、その連れ以外は入ることができない世界。---それが『名もなき荒野』だ」
つまりは並行世界という事か。
しかしーー
「ーーーつまり、あなたはただの旅人ではないという事ですね」
「------むぅ」
あからさまに、しまったと言いたげな顔をした彼は『詳しくは話さないから、好きに想像しといてくれ』と言った。
どうやら隠し事や腹芸は苦手なようだ。
「ーーーそれで、この後はどうするおつもりで?まさか、一生この世界に引きこもるつもりですか?」
確かに、この世界なら追手に襲われる心配はないだろう。
ーーだが、それは生きていると言えるのだろうか。
「ん?あぁ、いやそんなことはないさ。俺はまだまだあの世界を楽しみたいんだから」
そう言って彼が告げた作戦ーーーどうも姫様と考えたらしいーーそれは、やはり自分たちの予想のはるか上をいくものだった。
あ、ユリウスさんも生き返ってる




