番外1
ジェフリー目線。
駆け足です。
自分の婚約者候補達とのお茶会、正直そんなことどうでも良かった。
誰でもいい。候補なんて言ってないで有力候補のドーソン侯爵令嬢でいいじゃないか。
そう言う自分に母上は、誰かビビっと来る相手がいたら、その子と婚約してもらいたい。幸せになって欲しい。と言った。
仕方なくお茶会の席に着くと、有力候補の令嬢は体調不良で退場。他の令嬢もギラギラした目でお互い牽制しあい、お前ら本当に子供かよ。ってくらい汚い世界だった。
やはり誰でも一緒だ。
翌日の朝、母上にバラ園のバラを一輪切って来るようにと言われた。母上のお願いには弱いので、仕方なくバラ園へ向かう。
指示された品種は奥に咲いているようだ。
そこに昨日お茶会を退場した令嬢が現れる。
成る程、と諦めの境地で声を掛ける。
見目の美しい令嬢は珍しくはないが、彼女はまた他の誰よりも特別に美しかった。
プラチナブロンドのストレートの髪にアメジストの瞳、まだ幼い体つきもあって妖精のようだった。
だが自分は外見ばかり良くて中身の醜い奴が要ることを知っている。
少し意地悪な気分になり、王太子妃には向かないのでは?と問いかけると、驚いた事に肯定してくる。
興味をひかれて四阿に誘い暫く話して見ると、彼女は愛を信じていると言う。キラキラ吸い込まれるような目で俺を見つめてくる。
演技だろうか?俺に取り入ろうと?
だが、これが演技だとしても、昨日の欲望を隠せもしない女達よりは王太子妃に向いているだろう。
俺はこいつを婚約者とすることに決め、早々に母上に報告した。
それから毎週末、こいつは王宮に俺に会いに来た。
ペラペラと色んな話をしては帰っていく。
話をしていると、これは演技ではなく純粋な奴だとすぐにわかった。慣れないお茶を淹れたりお菓子を焼いて来たり。
こんな奴に愛される奴は幸福者だ。思えば思うほど意識してしまい素っ気なくなってしまう。
せめてもと、誕生日の贈り物や用意するお茶等、彼女が気に入るように、落ち着けるように心掛けた。
そんな俺を母上が微笑ましげに見ているのはわかっていたが構わなかった。
彼女にも気付いてもらいたい、俺を愛して欲しいと必死だった。
言葉と態度に表せていない以上、無理なこともわかっていたが。
彼女が15歳になる頃、いつしか俺は王太子の仮面を被って人と対応する癖がついていた。
それは彼女にも例外ではなく、優しく微笑んでも、彼女の大きな瞳は悲しげに揺らめいていたが、成長して益々美しくなった彼女となかなか上手く話せなくて、直すことは出来なかった。
そんなとき、学園で俺は一人の少女と出会った。
出会った少女は俺の事を知らなかったらしく、名乗ると名前で呼んで来た。普段俺が許可したものと家族以外で名前で呼ばれたことが無かったので新鮮だった。
後から正体を知って、名前を呼んだことを謝って来たが、そのまま呼ぶことを許す。
あっけらかんとした奴で女を感じさせないが、キャサリンと同じで俺を利用しようとか言う空気は一切無い。
こんなやつも居るのだと、改めて思った。
マリアの婚約者もなかなかいい奴で、俺は初めて友人を得た。
マリアとガブにはキャサリンの事を相談したりもした。もう少し彼女との距離を縮めたかったから。自分が悪いと解っているが。
そんなとき、キャサリンから手紙で話があると言う。
ゆっくり会うのは久しぶりで、心が浮き立つ。
この機会に素直に自分の気持ちを告白して、これからは愛して貰えるよう努力すると伝えたい。
それには彼処しかないと、王宮のバラ園で会う返事をした。
約束の日、バラ園にあらわれたキャサリンはあいかわらず美しかったが、何故か沈んでいるようだった。
その表情からあまりよくない話かも、と覚悟するが、マリアとの噂とかよくわからない話を始める。
そのあとの話は後半は殆ど聞いていなかった。
キャサリンが俺を慕っていると言ったからだ。
大きな瞳に涙を耐える様子は健気で、早く、俺も早く心を伝えなければと、心臓が早鐘のように鳴った。
何か誤解があるようだ。王太子の仮面を脱いでゆっくりと話をした。
そのあと、柔らかなキャサリンを初めて抱き締めた。
完璧な淑女教育であまり強い感情を表に出さない彼女が、初めて俺の前で涙を流しながら、頬を染めて俺を見上げる。
そのまま口づけてしまいそうな衝動に耐え、俺は彼女に結婚を請うた。
2年前、何の言葉もなく事務的に婚約を決めてしまった、あの時からやり直したかったから。
俺が愛してる者が、俺を支えると言ったキャサリン。
確かに、愛する彼女が側に居てくれるなら、俺はどこまでも頑張れるだろう。