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男は自らの着ていた紺色のシャツを脱ぎ終えると、再びズボンのポケットから今度は車のキーを取り出して車のロックを解除した。そしてワゴン車のドアをスライドさせて上半身をその中に突っ込むと、どうやら車内で着ていた服を丁寧にたたみだしたらしい。そしてしばらくその光景を見ていると、どうやら彼はそのまま着替えを試みているようだ。紺色のシャツはもうすでにきれいにたたみ終えられているらしくて、もう彼はそのシャツを手にしていないようだった。しかし変わりに何か白いポロシャツのようなものを手にしているように見えなくもない。残念ながら今の儀身の位置からでは、彼が車中で実際に何をしているのかということは完璧にはうかがい知れなかったが、ごそごそと上半身だけを車に突っ込んで何かを探っているあたり、きっと紺色のシャツではもう暑さに限界が訪れていたので、荷物でもってきていた別の半そでの服に着替えようと考え付いたのではないだろうか。俺だったらそうするだろうな。儀身は思った。そうだ、俺だったら絶対にそれ以外の理由で突然駐車場で服を脱いだりせんわ! だってそれ以外の理由でいきなり外で服を脱ぎだすなんてありえない。変態か。そんなことをいきなりしでかすなんてよっぽどの変態でないと出来ない芸当なのではないだろうか。もしあのおじさんが着替え以外の理由で今服を脱いで、かつ上半身を車の中に突っ込んで何かを探しているというのならば、ではこのあとおじさんが車の中から取り出してくるものとは一体何なのだろうか。恐ろしくて想像できない。それが一体何なのか。そんなことはもう恐ろしくてちっとも想像なんてしたくないのである。きっと変態グッズの一つなのだろう。それがどんなものであるのかという具体的な想像はやはりさけたいと思うが、しかしそれは変態をつかさどる、彼の変態を象徴するような道具の一つということで間違いないだろう。彼の脱衣が変態的な行動だったとすると、彼はもうその変態行為をしたということになる。そしてこんな真昼間から変態行為に及んだ奴が、その次の行動でどうして紳士的な、社会的に十分に理解のある通常の、普通の日常にありふれている行動に出るだろうか。変態行為の次は、またしても変態的な行為、それかほかに考えられるとすれば、前の変態的な行動よりももっと変態的だと判断せざるを得ないようなレベルアップした変態的な行動だと相場は決まっているのではないだろうか。見たくない。正直見ず知らずのおっさんの変態行為なんて全然みたくない。しかもそのレベルが今後どんどんと上がっていくことが想定されるとすると、ますます見たくないものだ。目をそらすならば今だ。どうする。俺はこれからおっさんから目をそらすべきなのではないのだろうか。変態的な行動はこれ以上見たくないんだろう。だったらこれが最後のチャンスかもしれない。そらしてしまえ! おっさんからさっさと目をそらしてもっと別のことを考えるようにするんだ!