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 隣の駐車場で「ハロージャクソン」から即行で「グッドナイトジャクソン」に到達した男が、スマホをズボンのポケットにしまうと、今度はおもむろに自らの着ていた紺色のシャツのボタンに手をかけだした。そして何をするのかとみていると、そのままボタンを外してシャツを脱ぎ始めたのだ。儀身は「こんなところで何しとんじゃいおっさん」と思ったが、その思いは特にその対象のおっさんには届かなかったらしく、おっさんは実にスムーズにシャツをはらっと一気に脱いでしまった。次に見えたのはおっさんの真っ白い素肌だった。このおっさんシャツの下に肌着を身に着けていないのか。儀身は、こういうところも何ていうかちょっとジャクソン感出てるやんけ、みたいなことを思いながら、しかしだいたいはこういうことを思った。またやらかしよった。またやらかしよったでこのおっさん! ハロー&グッドナイトジャクソンの次は急激な脱衣や! 儀身は、もうこのおっさんに自らの想像力だけで関わって行くのはやめよう、絶対によした方がいい、いいことなんて特にないし絶対にないはずだ、と思っていたのだが、人の裸には、いくらそれがおっさんのものであったとしても、避けられない魅力、別に性的な魅力というわけではないにしても、一瞥くらいはどうしてもくれてやらないと気のすまない何かがあるらしかった。そして一度おっさんの上半身裸を目の当たりにしてしまうと、もうそこからはそのおっさんの行動について考えを巡らさずにはいられない。儀身は思った。おっさんの乳首から毛が生えている。おっさんの乳首からあれは毛? あれは確かに毛なのではないだろうか。確かにはっきりと見えるというわけではないけれども、しかし汗でびちゃっと肌にへばりついている黒い線、あれはきっと毛なのではないだろうか。おっさんの乳首に生えている毛が、おっさんの汗によっておっさんの乳首の周りの肌に張り付いているのだ。あのおっさんの乳首には毛が結構生えている。もっさと思いっきり乳首の周囲に生えているわけではないけれども、何本か細長ひょろひょろっとした毛が確認できなくもない。だからどうした。見ず知らずのおっさんの乳首に長いヒョロヒョロっとした毛の生えていることを確認したからってどうだというのだ。俺のこの世界がそのことによって一体どのように変わるというのだ。直接的には何も影響がないかもしれないけれども、間接的には影響があるかもしれない。今後はこの光景がことあるごとによみがえってきて、とにかく乳首と限らず、他人の体のどこかに頼りない毛が孤高にひょろひょろっと生えていたりすると、俺はもうそれだけで今後このおっさんの乳首と妙に色白い肌とぼてっとしたお腹と毛、それとあとやっぱり乳首全体のことを思い出すようになるかもしれない。それはいいことか悪いことかと言われれば悪いことだが、しかしもうこの現実からは逃れることはできない。俺は思い出すことだろう。誰かの体毛がひょろひょろっと生えているところや、または温泉や銭湯などでふいに肌にぴったりとくっついている長い毛を目の当たりにしたら、ああそういえばあのときのおっさんの乳首の毛、みたいなことを思うんだろうな。


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