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 グッドナイトジャクソン! 儀身は思った。会話終わったやん! 電話してからものの数秒も経っていないのに、もう彼らの会話終わってしまったやん! 儀身はこの事態を受けて、やはり今自分の目の前では現実ではありえないような、いや今自分のいる世界、目の当たりにしている世界は現実なので、これも現実の一つとしてカウントしなければいけないのだろうけれども、しかしこれまででは考えられなかった、今までに経験したことのないような何かしらの出来事が起こっていることは確実なのではないかという感覚に襲われた。今まで自分はぬくぬくとした世界でしかやってこなかったのだ。非常に秩序の保たれている、他人はみな優しい、人の道に外れたようなことをすると誰かが罰してくれたりしかってくれたり、または弱肉強食の世界だったり因果応報だったり、何といってもそれなりのルールというか常識のある世界であったはずなのに、今はもうその世界は信じられない。そういう世界があったのだ、もしくはあるのだということは全然否定したりさげすんだりする気はないけれども、しかし今は違う。今目の当たりにしている世界、逃げようにも襲われてしまっている感覚は、今までのものとは本当に違う、何とも言えない、自分でもどのように扱ったらいいのかわからない、接したらいいのかわからないといったようなものの類なのである。見ず知らずのおっさんが放った「ハロージャクソン」と「グッドナイトジャクソン」という言葉とそのタイミングにすべての世界が音も立てずに崩れ去ってしまったような、真っ白なお皿からすとんとその世界がまるごとテーブルの下に落っこちてしまったような感じに見舞われてしまった。儀身は自分でも今の自らの気持ちを表現する言葉の数々を大げさだなと思いつつも、しかしマジでハロージャクソンの次にグッドナイトジャクソンってその電話の内容なんなん、みたいなことを思っていた。やっとハロージャクソンという言葉の響きにも慣れて、まあそういう言葉が絶対にないかといわれればそうではないわけで、むしろあるかないかでいえといわれたらあるわけで、考えてみてこのおじさんはホームステイの学生を受け入れている家族の大黒柱なのかもしれないし、それでジャクソンという子供が自分の家に先月あたりからホームステイをしている最中なのかもしれないし、それでちょっと頼みたいことがあったから連絡を取っただけかもしれないし、もしかすると留学している娘の今の彼氏が外国人でジャクソン、仕事仲間がジャクソン、昔からの付き合いである友人のあだ名がなぜか気が付いた時からジャクソンだったので自分もなぜかジャクソンと呼んでいる、みたいなまったく別の、ほかのさまざまな理由だって考えられたかもしれないしで、かつその中のどれもがただの可能性だけの話なのであって、このままの状況では一向に真実にはたどり着かないといった命題を含んでいて少しは僕の心も楽しくさせてくれたはずなのに、それなのにハロージャクソンの次に来たグッドナイトジャクソンって何なの。マジで電話をかけてすぐさまグッドナイトジャクソンってどういうことなの。わけがわからん。考えても考えても本当にわけのわからない展開と事態だ。電話の向こうのジャクソンに何か言われたのか。一瞬のタイミングで「死ね」みたいなことを軽やかに言われたっていうのか。それですぐさまあんたは心が折れてしまって、次いで出てきた言葉が「グッドナイトジャクソン」だったとでもいうのか。

 男がスマホを操作して通話を終了させたようだった。マジで電話が終わってしまったらしかった。マジであの男は何のためにジャクソンなる奴に電話をかけ、そして何があったからハロージャクソンの次にグッドナイトジャクソンと言ったのか。儀身は、まあそんなことはどうでもいいことか、と思うと、5月とは思えないような日の照り方に体が徐々にぐったりしてきていることを感じた。まさか今日という日がこんなに暑くなるとは思ってもみなかった。自分は今白い長そでのシャツにグレーのチノパンというスタイルだが、ふと公園の方を見やってみると、なかにはもうすでに半袖のポロシャツに短パン、そしてサンダルという人もいるようだ。気持ちはわからなくもない。だってこんなに暑いのだったら、5月という響きもそこそこに、気温や日差しだけを考慮して服装を選ばないとやっていけないけだるさに襲われてしまう可能性がある。ましてや公園で遊ぶ、つまり公園で体を動かす予定があるという人にとっては、その服装のコーディネートたるや死活問題にまで発展する事柄かもしれない。長袖を着ているからと自らの動きを制限した中で体を使う遊びに興じるのはおもしろさ半減だし、かといってまだまだ春の寒さを想定した服装のまま思いっきり体を動かしてしまうと、見苦しいほどに汗びっしょりになってしまって、仲間たちから「お前汗びっしょりキモ」みたいな評価を与えられてしまうことになるかもしれない。そんな評価は絶対に欲しくない。だから今日という日に限っては、半袖や短パンで園内を活動することは、きっと他人から見ても推奨されることだろうし、かつ自分のような長袖に長ズボンを着ているような身からすれば、憧れ、うらやましい、いいなあ、自分もそんなような服装にしたいな、そろそろ衣替えや、というような願望の対象になること受けあいなのである。


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