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「もしかしてあなた私に嘘を言っているんじゃ?」男が唐突に話しかけてきた。儀身はぎくりとした。

 いや嘘だなんて。嘘だなんて何をおっしゃるんですか。この僕があなたに嘘なんてつくわけないじゃないですか。どうして嘘をついているだなんてお思いなんですか。逆になぜ僕を疑うのかききたいところですね。よく考えてみてくださいよ。僕が今あなたに嘘をついて一体どんな得があるというんです? どんないいことが起こるというんですかね。そんなものちっともないでしょう。いいことなんて一つも起こらないはずですよ。だって本当によく考えてみてください。僕たちは赤の他人なんですよ。まったくの赤の他人同士といったわけなんですよ? そんな人に僕が嘘をついてどうなるというんですかね。何のメリットがあるというんです? でもたとえばもし僕がちょっとした変態的な気質の持ち主で、他人であろうと知り合いであろうと、とにかく他人に嘘さえつければ、そしてかつその嘘で相手を騙すことができれば、まったくそれだけでめちゃくちゃ興奮し、快楽をむさぶるように気持ちを高められて、天にも昇るような心地で周囲を見渡すことの出来る感性の持ち主だったらどうするんですか。つまり僕が天才的な嘘つきで、嘘を自らの興奮材料の一つだと完璧に認識しているような人間だったらどうするんですか。見ず知らずのあなたにもおおいに嘘をついて自らの快楽のために利用してやろうという考えが働いているかもしませんよ。それに嘘をつくときに、あなただったら見ず知らずの人か、それとも自分のことをよく知ってくれている、そして自分も相手のことをよく知っているという人のどちらの方が嘘をつきやすいですかね。そのどちらかだったらどちらの方がより冷徹で意味のない、残酷で自分のためだけになるような嘘をつけるというのでしょうかね。圧倒的に前者の方ですよね? つまり見ず知らずの他人の方が嘘をつきやすくて、かつ嘘がばれたときにもリスクというものが少ないですよね? 嘘をついた相手が自分にとって知り合いで、もっといえば知り合いどころかとっても大切な人だったら、その嘘が相手に露呈してしまったときどんな事態に陥ります? ちょっと僕の経験と想像力ではそこらへんのところはよくわかりませんけれども、きっと大変なことになるんでしょうね。きっと大変なことになって、今まで築いてきた人間関係というものも、たったその一つの嘘で崩壊してしまうということもありえるかも知れませんよ。もうなんで今までそんなしょうもないことで嘘ついてたの、もっと早くに正直に言ってくれれば良かったのに――みたいな感じであくまでもかわいく、そしてぽんと肩を叩かれてにっこりと微笑みかけられるだけで済むこともあるかもしれませんがね。

 儀身は続けて思案した――僕が何を言いたいのか。大切なのは、今この僕があなた対して何をはっきりと言いたがっているのか、ということなんですよ。それはつまりですね、嘘なんかまさかついていない、嘘なんかそんなものまさか絶対についてないですよ、ということなんですよ。本当なのかですって? いやいやいやいやもちろん本当ですとも。本当以外の何ものでもないですとも。僕があなたに対して嘘なんかつくわけないじゃないですか。たとえついていたとしたらですよ? 巨大プロジェクトなんてない、溶接工なんて求めていない、もっといったらあなたと友達になんてなりたくないと言い出したらどうするんですか。あなたは僕に対してどういう態度や行動をとることになるというんですか。なるほどやけになるんですね。やけになって、それでもしかすると今日はちょうど家族とピクニックをしにこの公園にやってきているから、果物を切るためのちょっとしたナイフを持ってきている、なのでもしお前が俺に対してしょうもない嘘をついていることが発覚したら、俺はすぐさま車の中からナイフを取り出してお前の腹部を刺す――とつまりこういうわけになってしまうかもしれないということなんですね? わかりました。やはり僕は嘘なんかついていませんよ。当たり前じゃないですか! 僕は嘘なんてついていません。嘘などつくはずがありません。大丈夫ですとも。ちゃんと巨大なプロジェクトはありますし、僕は溶接工の方を今日本中から集めているところですし、また友達になりたいとも思っています。ただの嘘で刺殺なんて絶対にされたくない。ですから僕は本当に今あなたととっても友達になりたいと思っているんですよ。むしろ巨大なプロジェクトがあるんですから、そのためだけにも早く友達になって仲を深めて、いろいろと今後の仕事の話とかもしていきたいなと思っていますし、また仕事の関係を抜きにしても、あなたという人間に大変興味を持っていますから、今日の帰りにでも一杯どうですか。今日はご家族と休日を楽しむためにこの公園にやってきたということですが、もし帰る方向とかお互いの家が近いようでしたら、今度時間を作って飲みに行きましょうよ。ちなみにこれは関係のない話かもしれませんが、駅前にちょうど新しい飲み屋がオープンしたところなんです。名前は何ていったかわかりませんけれども、店のつくりがやけにしっかりしているところを見ると、もしかするとどこかのチェーン店の別の業務体系かな?


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