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「一体どうしたんですか?」男が言う。それもちょっと何ていうか儀身のことを心配しているような感じで、低姿勢な感じで問いかけてくる。

 儀身は答えた。「ですから交渉の余地はないと申し上げたんです。さあこうなったからにはさっさとこの場から立ち去ってください!」

「あなたにそんなことを言う権利があるんですかな」男が言う。「あなたに一体どんな権利があってそんな発言が許されると思っているんですか」

「別に許されたいとは思っていませんがね」

「許されたいと思っていないですって?」

「ええ」儀身は言う。「私は別に誰に許されようが許されまいが、そんなことは関係ないのです。そんなことは私とは全然関係ないんですよ」

「あなたはそれでも人間ですか!」男が強く言ってくる。上半身はいまだに裸だから全然説得力というか迫力はない。逆に変な意味で迫力があったかといえばもしかしたらあったかもしれないが。

 儀身は思った。いいんだ。もうこのおじさんに対しては世の中の秩序とかルールとか誠実さとかそんなものたちは関係ないんだ。一切関係のないところで、とにかく俺はこのおじさんとの関係を断ち切らなきゃならないんだ。関係を断ち切らないと俺はいつまでもこのおじさんから離れられないで、そして肉体が朽ち果てるまで喋らされ、思案し続けなければならなくなることだろう。何をおおげさに言っているかという人がいるかもしれない。何を大げさに、肉体が朽ち果てるまで喋るか思案させ続けられるかだ、と。でも仕方がない。俺も少し大げさかなとは思うが。しかしちょっとでもそういうことを頭の中で思い描いてしまったのだから仕方がない。そういうイメージがふと頭の中に浮かんできて、もしかしたらおかしな話だけれどもそんなことになるかもしれないな、と俺は恐怖を感じてしまったんだ。だから俺はこれからはいかなる手段を使ってもこのおじさんと決別しなければならないんだ。物理的な手段に出てもかまわない。物理的な手段といって、たとえばもうこれからは一言も喋らずにおじさんのもとから後ずさりするとか、後ずさりでスピードが足りないんだったら振り向いて駆け出してしまうとか。そういうことを無理やりにやってしまってもいいのかもしれない。いいのかもしれないけれども、今はちょっとまだおじさんの眼光が鋭くて怖いのだ。おじさんを見ていると俺はいろいろな余計なことを考えてしまって――それは自分で余計なものだとわかるのだが――なかなか気持ちと体がうまく連動してくれないのだ。困ったことだ。俺はもうこのおじさんと決別する意思をすっかり固めてしまっているのに、どうしてもそれを成し遂げられないといった具合なんだ。誰か俺を救ってくれ。今のこの俺の状況を救ってくれないかね。このままだと俺はわけのわからないことをおじさんに向かって言い続けることになり、そうするとまたおじさんの方でも、何だこのわけのわからないことばかり言う青年は、となってますます彼の興味の対象に当てはまってしまうかもしれない。逃げ出したい。本当は今すぐにでもこの場所から逃げ出してしまいたいんだ。だが逃げ出せない。健康状態は特に問題がないはずなのに逃げ出せないんだ!


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