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溶接工! 儀身はおじさんに矢継ぎ早に質問を並べてその回答を得ると、これでひとまず今後この彼と取っ組み合いのケンカになったときでも、急激に負けに追いやられるとか、何かわけのわからないまま理不尽なことで泣き寝入りをしなければならない事態は避けられることだろうと思った。そうなればこちらとしても何も怖いところはない。このおじさんは普通のおじさんだ。普通の、どこにでもいるような、本当に休日の時間を家族と過ごしに公園にやってきただけのいいお父さんに過ぎないのではないだろうか。いやこいつは決して普通のいいお父さんなどではなかった。俺やもしくは俺以外のみんなの思考を混乱に陥れて、この宇宙や世界の魑魅魍魎、恐ろしさ、不安定さを改めてその平和ボケした各々の胸に刻み込んでやろうとたくらんでいる魔界からの使者、地獄からの使いに違いないのである。だっていまだにずっとこいつは上半身裸で話しているのだぞ。胸もたるんでいておなかの肉もかなりぷよぷよそうだけれども、きっと魔界の使者なのだからその醜い肉体にも何かしらの嘘やずるがしこくて相手を騙すための何かを仕組んでいるのだろう。そんなことをいうのなら、じゃあこのおじさんの昨日食べたものや普段の職業を尋ねたところで何にもならないじゃん! 儀身はふとそう思うと、やめよう、もう本当にこれでおしまいにするんだ、このおじさんに関わるのはもうこれでやめにしようじゃないか、ついさっきもやめよう、このおじさんからは目をそらすに越したことはないんだと自らに言い聞かせていたような気もするけれども、これが本当に最後だ、ラストチャンスだ、さあもうおじさんのことについて頭を働かせるのはやめるんだ、考察するのはやめよう、これ以上彼について考えをめぐらせたって何もいいことなんてないし、むしろ悪いことばかりしか起きないような気がする、どこの誰が一体これから先悪いことしか起こらないとわかっているようなことを好き好んで続けるというのだろうか、そんな変わり者なんて滅多にいないことだろうし、また自分は少なくともそういう変わり者ではないと自負しているのである、だから本当にやめよう、やめちまえ、このおじさんに対して考えを深めるのはもうこれきり一切やめにしてしまうんだ、と思った。おじさんのことをしっかりと観察しないで途切れ途切れの情報だけでその人のイメージを作り上げようとすると、それはとてつもない大きさに膨れ上がってしまい、今後一切コントロールができなくなってしまうだろうということが儀身にやっと理解できたのである。