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儀身は隣の駐車場のおっさんの行動に最初ビックリしたが、しばらくたってもそのおじさんは自らの投げた白いシャツを拾いに行こうとしなかったので、代わりに儀身がその場から動き出し、おっさんの横を無言で通り過ぎて、白いシャツを藪の中まで取りにいってやることにした。幸いまだ外は真昼間だったし、真夏の時期というわけでもなかったので思っていた以上に抵抗感なく藪の中に入れた。そして問題の白いシャツも、藪の奥深くまで達していたというわけでは全然なくて、ちょっと藪の入ったところ、そこはいってみれば藪というより、駐車場の敷地内と表現した方がまだしっくりくる、ただ駐車場にしてはちょっと草木が生い茂りすぎているだけの場所にしか過ぎなかった。なので白いシャツもすぐに拾うことが出来た。儀身はその拾った白いシャツをおじさんに突き出しながら彼に話しかけた。「おじさん白いシャツを拾ってきましたよ。白いシャツを闇雲に地面に投げつけたらダメじゃないですか。しかも今回はアスファルトの上じゃなくて、雑草の生い茂っている暗い方向に白いシャツが飛んでいきましたよ。これは一体どういうことなんですか」「どういうこともこういうこともないさ!」おじさんは言った。「私は今白いシャツを藪の方向に向かって投げたんだ。本当はその白いシャツを着るつもりだった。紺色のシャツの変わりにその白いシャツを着て、私は着替えを完了させようと思っていたのだ。ところがその白いシャツを日光の下でよく見てみると、何か足のもぞもぞと動く虫がへばりついていたんだ。そこで私はとっさの判断を下した。藪の中へ投げ入れてしまえ! それで私はせっかく車内から見つけ出してきた白いシャツをあきらめてそれを自分の欲求のままに藪の中へと投げ入れたというわけなんだ」