1
1
ある晴れた五月の日、友達とせっかくドライブをして広々とした公園にやってきたというのに、彼らはみんな方々に散らばっていってしまって一人も相手をしてくれるようではなかった。儀身は思った。何なんだ。せっかくみんなで休みをそろえて五月のよく晴れた日にのんびりと過ごそうと思って旅行の計画を立てたのに、いざこうして公園についてみるとこうかよ。こんなことなのかよ。こんなことなのかといって、みんな公園につくやいなや車の外に駆け出していってしまって、全然まとまりがないじゃないか。もっとまとまりがあるもんだと思っていた。俺たちは何年友達をやっていると思っているんだ。本当に何年友達をやっているんだかね! 人によっては小学生のときから友達という奴もいるんだから、もう十年以上じゃないのかね! それなのにみんなそろって車の外に飛び出していってしまうだなんてね。ここはまあ公園だから飛び出したいというのであれば飛び出してもいいのだけれども、露骨だよ。露骨だと思わんかね。俺は車を運転していたんだ。みんなの乗っている車を運転してこの公園に連れてきてやったんじゃないか。俺はみんなの運転手じゃないか。それなのにねぎらいの言葉一つもなく、公園に着いたと思ったら「やっと公園に着いたぜ!」といわんばかりにみんな本当に外に飛び出して行ってしまいやがって。そんなに外がいいかね。そんなに公園に遊びにいきたかったというのか。確かに車の中は狭いだろう。車の中は狭くて、そりゃ男が五人ほど乗っていたらいっぱいで身動きがあまり取れなかったことだろう。レンタカーを借りたんだけどね。男が五人も乗る予定だったから、レンタカーでちゃんとそれなりのワゴン車を借りたんだけれどもね。でもやっぱりダメでしたか。車の中と比べると、そりゃやはり外の公園は広いでしょうからね。広い公園を目の当たりにすると、どうしてもそこへ飛び出していきたくなっちゃいましたかね。車の中ではそんなつまらなさそうなそぶりはみせていなかったじゃない! 車の中ではそれなりに楽しくやっているように見受けられましたけれども? たとえば車の中では雰囲気が最悪で、みんな険悪で、お互いのことをもはや憎しみあっていて、この旅行自体のことをうらんでいる、評価は最悪、こんな狭い車中に閉じ込められっぱなしになるくらいだったらそもそもやめておけばよかった、旅行になんかくるんじゃなかった、家の中でじっとしていればよかった、今頃家の中でじっとしていたら、今やっているゲームの主人公のレベルもあがっていろいろなダンジョンに挑戦できるようになっていたかもしれない、いろいろな建物をつくれるようになって、街の収益が倍になっていたかもしれない、――みたいなことを思っていたというのならば、そりゃ飛び出すでしょうね。車が広い公園に着いたとたんにドアを開けて飛び出すのも当然のことでしょう。しかし実態はそうじゃなかったじゃない。実態は、みんな車の中でああでもないこうでもないといろいろなことについて語り合ってたじゃない。たとえば不帰地は今はまっているアイドルグループについて熱く語っていたじゃないか。不帰地の好きなアイドルグループが何だったのか全然名前を思い出せないけれども、確かに君はあのとき熱く語っていたよね。熱く語りすぎてみんな若干引いていたように思うけれども、君は残念ながら一人でも興奮してきたのか、なんかそのアイドルグループのオリジナルの応援ソングとかをみんなの前で歌ったりしていたよね。実は最近部屋で一人でいるときに作詞作曲したりしてみているんだ、みたいなことを言って。正直きもかったです。あれは正直きもいという評価以外下せないことでしょうね。不帰地は頭いかれてる! 不帰地は頭がもういかれてしまって手のつけられない廃人みたいな感じになってしまっているんだ。彼のお父さんやお母さんが不憫でならない。それに彼のおじいちゃんやおばあちゃんもね。あとその不帰地の隣にいた田宮も相当のわけのわからなさなんだ。田宮も結局なんか「俺は将来総理大臣になる」とかわけのわからないことを言い出してみんなをドン引きさせていた。今どきというか、今の年齢にもなって(みんなもう25歳を超えている。立派な大人の年齢だ)俺は総理大臣になるんだとか全然おもしろくない。おもしろくないし痛いしお前はただの工場勤務じゃないかと思う。今工場勤務の奴が将来どうやって政治家になり総理大臣になるというのだ。まあ人生における可能性というものは無限大らしいから、絶対に無理だろうとはいわないし、また僕は君の友達なのであるから、どうしても総理大臣になって日本を変えたい、みたいなことを言い出すなら、まずは市議会議員くらいからどうだとアドバイスをして、その上で選挙活動費などの応援とかできるならちょっとは応援してあげたいなと思う。でも人間的なやばさでいうと、不帰地よりも田宮よりも、大具寝という奴の方がやばいかもしれない。大具寝という奴は本当に俺らのグループの中でやばい奴なんだ。まあそんなにやばい奴でもないかな。今考えてみて「彼がやばいところを一つでもあげてみようか」とふいに思いついたのだけれども、特に何もあがってこなかった。彼は普通に俺と高校生のときに友達になって、それで徐々にお互いの友達も交えて遊ぶような感じになったのだが、カラオケがうまい。そうそう、彼はカラオケが俺たちのグループの中で一番うまいのだ。特に得意なアーティストとかはないようなのだけれども、とにかく何でも歌う。彼がカラオケで歌って一番印象に残っている曲はなんだろう。一番印象に残っている曲はといわれると、逆になんだったっけなみたいな感じになる。一番印象に残っている曲はという問いに答えるのは案外難しいものだということをわかっていただけるだろうか。きっと今僕がこの胸に抱いているもやもやとした感情は「へえじゃああんたのそのカラオケが一番うまいという友達の一番うまい曲は何なの」と尋ねられて言葉に詰まった人にしかわかってもらえないことだろう。真理を言ってやろう。別に他人に今の自分の気持ちをわかってもらえたところで状況は何も変わらないし、ましてや好転なんて絶対にしない。いやもしかしたらそれは僕の見聞が狭いだけで、やっぱり他人に自分の気持ちを理解してもらうと、何かいい感じになることの一つや二つはあるかもしれない。少なくとも「他人と気持ちが理解しあえれば何かいいことがあるはずだ」と思って過ごしている人は大勢いることだろう。みんな頭がちゃらんぽらんなんだ。