Chapter5 犯罪者
「君達、大丈夫だったか?」
ダンジョン最深部。所謂、ボス部屋と呼ばれる部屋の前で攻略チームの全員が集まった。
一足先に侵入していた俺達以外の人は一緒に行動していたのだろう。そして、俺達が来たことでやっと全員が集まったことになる。
「え、ええ、大丈夫でしたよ」
「……で、あの悲鳴はなんだったんだ?」
「悲鳴?」
エリックにそこまで詳しい話はしていなかったのか、アーサーが口にした悲鳴という単語に反応した。
あの謎の悲鳴についてちゃんと話すべきだよな。
これからチート行為のような不当なことをしでかしたらどんな結末を迎えることになるのか。それを皆には把握しておいてもらいたい。
「そのことについて簡単に説明しないとな。みんな、注目してくれ」
注目される行為が嫌いだというのに、注目される位置に立たなければいけない立場になってしまってことを悔いる。
それから俺はゲームシステムにハッキングしたら、どうなってしまうか。不正な行為をしてしまったらどうなるかを熱弁した。
さっきの男と似たような死だけは迎え入れて欲しくないなと、本心からの願いを込めて。
「……そういう理由で、その男は消えていった。だから、俺はここにいる全員に言いたい。絶対にそんな真似をしちゃあダメだ。いや、君達だけじゃない。会った人全員に情報を回してくれ」
「ちょっといいか?」
「なんだ?」
「お前はその男を救おうとしたのか?」
攻略チームにいた一人のプレイヤーが俺に対して質問を投げかけてきた。
俺が言っていることが質問してきたプレイヤーには正しく伝わっていなかったのだろう。
「……いいや。俺は救おうとはしていない」
「なぜだ!? お前が助けたら助かったかも知れないだろ?」
「ああ、出来たかも知れないな。けど、出来なかったかも知れない」
あんな状態で相手を助けられると思う方がおかしい。おまけに何もかも詳細が不明なこの世界に仮にもハッキングをしたんだ。世界から存在を抹消されてもおかしくはないだろう。
「……てめぇっ!」
「ミカエル、やめておけ」
ミカエルと呼ばれた男――、先ほどから俺に突っかかってきている男が、俺に殴りかかろうとしていたところを仲間の男に止められていた。
「けど、こいつは……」
何故、同じプレイヤーを助けることもしないで澄ました顔をしている俺が気に入らないんだろうな。そして、脱出するのであれば、多くのプレイヤーと一緒に帰りたい。その気持ちはわかるよ。
だけど、そんな思いじゃあどうしようもない問題があるんだよ。
「仲間を見捨てて来たのはわかってる。お前の怒りも」
「だったら!!」
「……だが、お前はその状況をその目で見たのか?」
ミカエルを宥める男の言葉を静かに聞き入れる俺達。
「こいつはその光景を見てる。だけど、ミカエル。お前はその男の光景を見ていないだろ?」
「っ……。そ、そりゃあ、けどよ」
「それに得体の知れない世界にハッキングなんて愚かな行為をしたのが悪いというのも事実だ。ここまで来るのに正規のルートを辿って来た俺達は何もなかっただろ? ただし不正に手を染めてしまえば殺される。どう考えても不正をしたプレイヤーが悪い」
「そ、そう考えるのだったらPK行為も不正扱いになるんじゃ……」
そう、この世界には他者を殺すことが出来るのだ。
普通のMMORPGのPKなら殺されたところで、PKをした方は犯罪者という扱いになり懸賞金が賭けられる。そして殺された方はデスペナルティを受けて復活するところだが、この世界ではそんな悠長なことは言ってられない。
ここでの死は現実世界での死だ。懸賞金がどうのとか言ってられるレベルの話じゃない。
「だが、PK行為はゲーム本来の楽しみ方の一つとされている。だから、不正な行為ではない」
PKの一番厄介なところはこれなんだ。
他のプレイヤーを殺したプレイヤー……つまり犯罪者を片っ端から排除していけばより安全な生活が送れると思っているだろうが、そんなことは出来ないのだ。
このゲームの基本的なシステムの中にPKが入っており、してもいい行為の中に入っているのだ。ただし、性犯罪については別だ。
殺すのは構わないが、そういう行為については良しとしないのがこのゲーム。
「……まぁ、こいつの話をすぐに信用しろとは言わない。だけど、こんなところで仲違いを起こしていても仕方がない。これからボスなんだから、力を合わせないと」
「そ、そうだな」
「それでいいか? 少年よ」
「ああ、いいよ」
ミカエルの説得を終えた男が急にこちらに話を振ってきたので、ちょっとびっくりしたりしたのだが、冷静に返事をする。
喧嘩腰で関わってきたのはあっちなのだから、その男のことばかりを考えていればいいのに。
「では、話も終わったところで、これからの戦いについて話を進めておく」
装備の最終チェックを行いながら攻略チーム立役者であるエリックの話を聞いておく。
「討伐報酬は倒した者の物とする。ただし、お金は別だ。均等配分を使って均等にわけてくれ」
まぁ、チーム戦となるとそういうことでゴタゴタになるよな。最初からそうやって決めていた方がわかりやすくていいや。
俺はあまりアイテムなどに拘らない主義なので、地味に攻撃を加えていって経験値を貯める役に徹しておこう。
経験値は攻撃した分の値が割当てられる。簡単に説明すれば、モンスターに100ダメージを与えたとします。すると、経験値は100ポイントもらえるということだ。ただし、そのモンスターを倒したとなると、100ポイントにはならない。フィニッシュポイントというのが入るからだ。
フィニッシュポイントというのは文字通り、とどめを刺したときにもらえるポイント。基本的に雑魚モンスターを倒した際には2倍かな。そしてボスにとどめを刺した場合は蓄積させたダメージ量×5倍ぐらいということになる。ちなみにボスによって倍率が10倍になったり20倍になったりする。
これがエリュシオン・オンライン経験値割当だ。