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エリュシオン・オンライン  作者: 神城 奏翔
第1章 偽りの騎士道
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Chapter3 パーティ結成



 この脱出不可能なデスゲームに全プレイヤーが巻き込まれてから、一週間は経ったが、誰として目標のダンジョンまではクリア出来ていない。

 前のエリュシオン・オンラインなら一週間もあれば半分ぐらいのダンジョンはクリア出来ていた。長くても一ヶ月でゲームをクリアしていた人だって何人もいたはずだ。だけど、全クリアとなると、もう少し時間がかかったりもした。

 だが、今回のクリア時間は比較的遅くなっている。

 理由はわかっている。ここの世界の方が五感がすべて現実世界と同じになっているのだ。時間が経てばお腹も減るし、触った物の感覚も、食事を食べたときの食感もある。まさしく現実世界のそれだ。


「……やっと四つ目のダンジョン攻略か」


 今回の場合は感覚が現実世界とまったく同じ、つまり疲れなどといったものも現実世界と同じ。疲れが溜まっていくに連れて動きも鈍くなってきたり、色々と副作用があったりする。

 そのため、前のように一日に三~四つのダンジョンをクリアすることも出来ない。それどころか、一日に一つのダンジョンをクリア出来るかもわからない。単純に前よりも鬼畜度が跳ね上がっており、ボスみたいな強敵が馬鹿強くなっているのだ。

 ボスだけに関わらず道中にいるモンスターまでも強敵と化していた。

 おそらく道中の敵だけで前のボス並みの力は所持しているはずだ。そう思った理由はきちんとある。雑魚敵を倒してボスがドロップする武器が手に入ったりした。だからこそ、わかったのだ。


 ――自覚はしていたとはいえ、これは遊びなんかじゃない。命を賭けた戦いだ。



 決死の覚悟を持たなければクリアすることが出来ないダンジョン攻略。

 今まではソロでも頑張ればクリア出来るレベルに設定されていたが、これからはそう上手く行くわけはない。これから挑もうと思っている場所は言わば『ソロ殺しのダンジョン』だ。

 基本的にソロで攻略をして行こうと思っていた俺だったが、このダンジョンは一人ではどうやっても攻略出来ないと理解してしまったのだ。


「……それでは、これより『鏡の迷宮』の攻略会議を始めたいと思います」


 かくして、今日のこの刻を持って、ソロ殺しのダンジョンを制覇するべく多数の勇士達が一同に集まった。数は決して多いとは言えないが、少ないと言うこともない。このランクのダンジョンを攻略するには最適な人数だろう。


「えっと、俺は『エリック』。今日は指揮官をやることになりました。よろしく」


 エリックという男は、銀色の髪をたなびかせながらお辞儀をする。こういう集まりの中心役をやるのは慣れているのだろう、物怖じすることなく冷静に話を進めていく。


「今回、攻略に当たる『鏡の迷宮』のボスだが……。なんと、昨日、俺の親友がボス部屋を見つけてボスと交戦したらしい」

(鏡の迷宮のボスと交戦して生き残ったのか!?)


 ソロ殺しのダンジョンと言われている迷宮のボスをソロで狩ろうとし、情報を持っているということは生きて戻って来たってことだ。そして、今、攻略会議が行われているのは、その親友とやらがボスを倒すことが達成出来なかった。という考えで十中八九、合っているはずだ。


「……幸い、そいつは『偵察』スキルを高めていたため、ボスの対処方法など色々な情報を得ることが出来た。今日、集まってもらったのもそれが理由なんだ。今からこの場にいる皆に送る」


 エリックは目の前にウィンドウ画面を開き、親友から受け取ったのであろうデータの纏めがここにいる全プレイヤーに渡される。『範囲譲渡』という設定を用いてデータを渡しているので、当然、誰一人として例外はない。俺に対しても、だ。

 目の前に強制的にウィンドウ画面が表示され、その場所には『エリックさんから贈り物があります。受け取りますか?』の文字が書かれていた。そしてその下に小さく“はい”と“いいえ”のボタンが。

 こんなところで拒否をしても意味がないため、きちんと作戦に参加するように“はい”のボタンをクリックする。

 すると俺の目の前に絵といくつかの文章が書かれているページが出現する。


 通称『ミラマッドネス』。


 ・高い知能を持ち、鏡の迷宮の利点を最大限に活かし、プレイヤー達に襲い掛かってくる。

 ・手下をいつでも呼び出せる能力を所持しているため、雑魚はまともに相手にするだけ無駄。

 ・遠距離攻撃はあまり効果がない。近距離で攻めるのが得策。

 ・火力が高すぎるが上にスピードはあまりない。



「なぁ、これを見て思ったことがあるんだが、質問いいか?」

「ん? どうした?」

「このボスの情報なんだが、確証はあるのか?」


 壁際に凭れながら話し合いに参加していた髪の毛を大々的に立たせている大男が、エリックに向かって質問を投げかける。本当ならその言葉に即答出来ればいいのだろうが、エリックはしばし黙った。


「……合っているさ。“半分はな”」

「“半分”?」

「ああ、このボスは少々、性質が悪いやつでな。体力がレッドゾーンに突入すると全ステータス二倍になるんだ」


 体力が半分以下になった途端にステータス値が二倍以上になるスキルが素から付いてやがるのか……。今回の敵はめんどくさいことになりそうだな。


「ただ敵の武器についての情報はあまりわからなかった」


 エリックのこの発言を聞いた直後、俺はどことなく違和感を感じ取っていた。

 どの辺りが不自然なのかと言われたら真面目に答えられるかどうかわからない。が、試しに他のプレイヤーに偵察スキルを上げることにより手に入れることが出来るスキル――『ルーペ』を使ってみる。

 ルーペをプレイヤーに対して使った場合はきちんと武器や防具などの情報も表示された。なのに、敵の場合はならないなんて不自然すぎる。

 偵察スキルなんて、モンスターに使うべきスキルなのにプレイヤーにしか使えない。そんな欠陥はあるわけがない。


(……おそらく敵モンスターもなにか隠し持っているはずだ。なにかとてつもなく大きな決定打を)


「さて、それじゃあ質問も終わったところで、これから一緒に攻略していくパーティーを作ろうか」

「うげっ……」


 思わず嫌そうな声を上げてしまった。

 知らずの内に声を上げたということは、本当に不満そうな表情をしているのだろうな。

 このゲームの世界でも現実世界でもあまり人と関わることが好ましくない俺にとって、パーティーを組んで一緒にダンジョンを攻略することは俺からすれば苦痛でしかない。


「……別にソロクリアを目指しているわけじゃないから仕方ないか」


 まぁ、こっちから声をかけることは絶対にしないけどもな。誘いの声をかけられたら参加するかといった心境だ。ただ他人任せとか、そういうことではないんだ。ちょっとこっちから声をかけるのが恥ずかしいだけなんだよ。


「出来れば二~三人がベストだが、まぁ、そこは各自の判断に任せる。以上、解散だ」


 そういって、エリックは一時的に集まった人達を解散させ、好きに行動が出来るようにする。

 解散という声を聞いて、集まった人達はその場でパーティーを組むように要請を送るなどをしていた。

 そんな自由な時間だったのだが、当の俺は他の人達と関わるわけでもなく、壁に凭れたまま身動き一つ取らなかった。俺はこう見えてエリュシオン・オンラインの中では『黒獅子』と呼ばれ、恐れられていた。


 深紅のラインが入った黒いTシャツの上にTシャツお同じく深紅のラインが所々に入っている漆黒のコートを羽織り、紫黒色のズボンを穿いている。少し別の色が入っていてもほとんど黒には変わりない。戦場を驚きのスピードで暴れ駆け巡る。その姿を見た人達が付けた二つ名みたいなやつだ。

 その『黒獅子』がいるとなると、都合良く使われてしまうのが関の山だろう。

 二つ名を持つ力強い人間が近くにいるとすれば、その人達に頼ってしまう。それは人間の性というものだ。


 だからこそ、この世界では人目に付きたくないのだ。エリュシオンでの俺が光とするならば、まさしく闇のようにひっそりと生きていたい。その想いを込めて、今の俺は白いフード付きのローブを上から羽織っている。ローブを上から羽織っているので、今は黒のコートを着ていないが、正体を明かしたいわけではなのでちょうどいいだろう。


「……まぁ、こんな怪しい格好をしてたら普通の人は寄り付かないだろうな」


 時々、一緒に攻略することになる人達から怪しい人を見るかのような視線が送られてくるが、気にしないでいることにした。


「ちょっ、ちょっと! 待ってってば」

「うん?」


 この作戦に置いて、少々、気になることが出来てしまい、エリックに質問しに行こうとしたときだった。

 女の子の焦ったような声が聞こえて来たので、気になりそちらの方へ視線を送ってみると、そこには二人の女の子がこちらに向かって歩いて来ていた。

 その二人の子に見覚えはなかったが、彼女達が着ている服装に付いてあるギルドマークは見覚えがある。


(あのマークは……)

「ねぇ、あなたはパーティを組まなくていいの?」


 二人の少女の内、大々的にギルドマークが描かれているマントを羽織っている少女の方が話を振ってきた。


「別に良いんだよ。俺は一人でも行けっから」


 自分で言うのもなんだけど、こんな不気味な格好したやつによくもまぁ、こんな好意的に話しかけてくるよな。俺だったら絶対に関わろうとはしないんだけど。


「……そう。だったら、私達と一緒に行きましょう」

「おい、お前、人の話をちゃんと聞いてたのか?」

「そ、そうだよ。人様に迷惑をかけちゃダメでしょ」


 明後日の方向な回答をしでかすマント少女の言葉に心底、呆れる俺だった。

 そんな呆れた俺の意見に同意してくれるのはもう一人の女の子だけで、マント少女の方は俺が仲間になってくれる算段で話を勧めていやがった。

 だけど、マント少女じゃない少女の様子を見たからにこの少女は俺の服装やらを見て不気味だなと思ってるんだろうな。ま、それが普通な反応だ。


「あっ、それじゃあ、説得力のある話をしましょう。私もちゃんと考えて誘っているんだからね」

「なによ……」


 無理矢理にでも俺をパーティに入れたい理由ねぇ。

 本当にあるのであれば、是非ともご説明していただきたいね。


「この人、この場にいる中では断トツに強い人よ。……レベルもだけど、それよりも身体能力が半端じゃないぐらい高い」

「……へぇ」


 これは俺の評価を少し変えなくてはいけないかも知れないな。人の話を聞かない大馬鹿少女から、人の話を聞かないが観察眼は持っている大馬鹿少女に。


「えぇーーっ!? あのエリックって人が一番強いんじゃないの?」

「ば、バカっ! 声が大きい……」


 大きな声で主催者が一番強くないの? と俺達に向かって質問してくる天然少女に対して盛大なツッコミを入れて小さな声で話すように強いる馬鹿少女。


「……あの人は単なる主催者なだけよ。そしてこの人が中心に立つのがいやなだけ。だから、一番強いのに主催者に申し出ることもしない。そうでしょ?」

「まぁ、そうだな。これだって、本当は暑苦しいけど、注目されたくないから着けてるだけだからな」

「強い人のいるパーティーに入れてもらって守ってもらうこと。それが安全な攻略方法。……ティナが言っていた作戦とも一致するでしょ?」

「そ、そうだけど」

「はい、ティナも合意してくれたことでパーティーを組みましょ。あなたがパーティーを作って頂戴?」


 どうせ却下しても無理を押し通してくるんだろうな。この大馬鹿少女の場合は……。と諦めてメニュー画面を開きパーティーを結成するボタンをクリックし、目の前にいる二人をパーティー招待を送る。


「えっと……、あなたの名前はキリュウって言うのね?」

「ああ、そうだ」


 俺の名前を確認した二人は、招待状にはいと答える。すると、左上の辺りに他のプレイヤーの名前やHPなどが表示される。これがパーティープレイの利点とも言えるだろう。相手の状態とかもすぐにわかり即座に助けに向かうことなどが可能だ。


「私の名前は『ジュリア』。これから短い間だけどよろしく」

「ああ、よろしく」

「そしてこっちの子が『アルティナ』。私達『道を切り開く(ウェプワウェト)』の副団長よ」

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね」


 思い出した――。

 ギルドマークは印象に残っていたから記憶の端っこにでも覚えていたのだが、ギルド名までは思い出せなかった。けど、今、やっと思い出した。こいつら、エリュシオン・オンラインの世界では有力なギルドだったじゃないか。

 エリュシオン・オンラインの世界では有力なギルドが多数ある。そのうち、最有力と言われているギルドが五つ存在する。

 その中にこいつらのギルド『道を切り開く者』もあるし、アーサーのやつが指揮っている『トラスト騎士団』も入っている。


「……それじゃあ、これからの予定でも話そうか」

「ちょっと待て。そのパーティー、俺も加入させてくれよ」


 街中へ繰り出して武器やアイテムなどの調達をしようとしていたが、歩き出す前に第三者の声が聞こえる。俺の予想が正しければこいつとはあまり会いたくはなかったかな。


「よっ、と」

「あー! アンタは『トラスト騎士団』のアーサー」


 そう、一週間前に別れ、別々の道を歩もうとしていたアーサーが、この場にいたのだ。さっき攻略会議をしていたときにはいなかっただろうから、ここに来たのは今さっきなのだろうな。

 おそらく俺をフレンド登録していただろうから、もしかしたらマーカーを追ってここへ来たのかも知れない。


「……うげっ」

「うげって何よ。加入したいって言ったくせに、私に気づかなかったの!?」

「まぁ、そうだな。こいつがいたからここへ来たって感じだし」


 フードを被って姿を隠しているのにも関わらず、俺を見つけ出した。つまり、マーカーを辿ってここへ来たのは確かだ。とあれば、何かしら俺に言いたいことがあるのだろう。


「……アンタ、そういう趣味があったの?」

「ちげぇよ。こいつに謝らないといけねぇんだよ」


 ――やっぱり、そのことか。


「……キリュウ。本当にすまなかった。ログアウトが出来なくて動揺してお前に辛く当たってしまった。すまない」

「い、いや、気にすんなよ。あれぐらい普通だって……な?」

「あれは全面的に俺が悪い。……だから、お詫びと言ってはなんだが、俺を仲間にしてくれ。一回だけでいいから」

「……それじゃあ、この戦いは厳しいものになるだろうけど。彼女達の盾になるか?」

「ああ、勿論だ!」


 元気良く返事をしたアーサーだが、次の瞬間、しまったという表情を盛大にしていた。

 人の話をきちんと聞いて理解してないからこんなことになるんだよ。俺はきっちりと言ったからな。彼女達の盾になるかって。


「……言ったな」

「あー、ちょっと待て。今のは無しだ!」

「へぇ、男のくせに二言があるのね」

「……ジュリアちゃん。やめてあげようよ。アーサーちゃんが可哀想だよ。女の子を苛めたらダメだよ?」


 えっと、アルティナさん? ある意味、あなたの攻撃……もとい口撃が一番ダメージを受けてそうなイメージが持てるのでしょうが、気のせいでしょうか?

 なんていうか、直球で来る言葉よりも変化して来る攻撃の方が精神的ダメージが大きいような気がするんだ。俺的には。


「あははは。このパーティで本当に大丈夫なのだろうか」


 中々にカオスなメンバーが集まった俺達のパーティーだが、この面々でチームワークってのがあるのかな。絶対にないと思うんだけども。







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