Chapter2 罪の意識
「……ぅ、ぅうん」
視界が真っ白に包まれ、何も見えない中にいたのだが、やっと目を開くことが出来た。
「おい、キリュウ。大丈夫か!?」
「あ、あー、一応大丈夫だ」
目を見開いて自分の状況などを確認するために周囲を視野に入れてみる。俺達の近くにはログアウト出来ずにここに連れて来られたプレイヤーがたくさん集められていた。
「……ログアウト出来なかったプレイヤー達は、ここに集められているみたいだな」
「あー、そうだな。それにしても、ここにいるやつらって」
「気づいたか? ここに集められた全員、レベルを1まで戻されている。勿論、俺やお前も」
ここに収容されたプレイヤー達を確認していくと、装備はあちらのままだったにも関わらず何か不自然な点を見つけてしまったのだ。
それでアーサーに確認してみたのだが、俺が思っていたことはすべて合っていたらしい。
「そうみたいだな」
ステータス画面を開き、レベル情報などを確認してみるが、すべてレベル1相当のステータスに強制的に変化させられていた。
ならびに最高レベルだった装備の数々もすべて、攻撃力や防御力は10という初期段階の装備ランクに落とされている。何もかもレベル1ランクの状態だ。
そのなかでも一つ。たった一つだけ、レベル1相当ではないものがあった――。
「……スキルは一応、引き継がれてはいるんだな」
「スキル? そういや確認してなかったな」
俺の言葉を聞き、スキル画面を開くアーサー。
彼の画面を覗き見てみるが、やはり俺と似たような状態だった。彼のスキル画面には一つのスキルしかなかった。
その名も『白竜の鉄鱗』。
こいつの専売特許と言える防御型スキルだ。鉄壁を誇る白竜をノーダメージで殺した者にしか与えられないレアスキル。
俺が知っている中でもこのスキルはこいつにしか持っていなかったはずだ。
「やっぱりな。レアスキルだけは引き継がせてくれているみたいだな」
「……ってことは、キリュウのスキル状態はどうなってるんだ? お前は俺よりもレアスキルを持っていただろ」
「あ、あー、そっか。お前にはレアスキルのすべてを言っていたな。まぁ、安心しろ。俺のところにもせいぜい二つしかなかったからよ」
累計でレアスキルを三十個ぐらい持っていたのによ。全部、無駄にしやがって。ちなみに常人ならレアスキルは多くて二~三個が限度だ。このゲームはそういうバランスだけはきちんとしてやがるんだよな。
え、俺のレアスキルの数はその十倍だって? ……ふん、ゲーマーかつ廃人を舐めるなよ。
「……まぁ、仕方ないんじゃないか。バランスを破壊するんだからよ」
「そりゃそうかも知れねぇけど。どうなってやがるんだ。この世界は――」
「おそらくエリュシオン・オンラインとはまったくの別次元、ないしはそれに似た空間。同じ時系列でもまったく別の空間――つまりパラレルワールドを考えるのが妥当だろうな」
この状況を説明するためには、これしか考えられない。
そうじゃないと、未だにネットゲームの中の世界にいることを説明出来ないからだ。
「……キリュウはどっちが正解だと思っているんだ?」
「たぶんだけど、エリュシオン・オンライン内ではあるだろう。スキルが同じだし、装備も一応同じだからな」
後、気になるのは現在の時間だけども――。
「アーサー。今の時間を確認出来るか?」
こいつに聞いたところで答えは返って来ないだろう。現在の時間を確認するためにはレベル5になって『探索スキル』にポイントを割り振らないと時間を確認することすら出来ないからだ。
「……すまん。『スキルポイント』も0になってやがる」
「やっぱりそうか」
予想してただけあってか、あんまりショックを受けることはなかった。
それにしても一部のスキルを除いて、すべてが初期値になっているってことは何かしらのバグが働いたのか?
「……まぁ、ログアウトっていう後戻りが出来ないのであれば、進むしかないよな」
「お前、本当に大丈夫なのか?」
「うん? なにが?」
転送されたときのショックなのか武器だけが外されていたので、武器を再度装備し直して近くのダンジョンへ向かおうとする。
だが、奇しくもそんな俺に声をかけてきたアーサーによって俺の行動は遮られてしまう。
「お前は現実世界に帰れないってのに、平気なのかよ」
「……別に、平気だが」
約五年ぐらい現実世界に帰れなくても別に構いやしない。
どうせ向こうに帰っても良いことはあまりないだろうし、それならこの世界でずっと冒険をして現実逃避が出来るこちらの方がマシかも知れない。
「それに、ログアウト出来ないということは今のところ脱出手段がないってことだ。ここでぐだぐだとしていても状況が変わるわけじゃない。だったら、前みたいにクリアしちまえば元の世界に戻れるだろ」
「……出来なかったらどうする?」
「そんときはそんときだ。頑張ってやったことに悔いはない」
後ろ向きな自分達と前向きに生きようと決めた俺、たったそれだけの違いだったのだが、今までの戦いを遊びと考えていた幼稚な彼らには決断出来ないらしい。
「……ここからはゲームなんかじゃない。遊び気分だったら、油でも売っておきな。俺はクリアするからな」
彼らに足りないのは覚悟だ。前までは普通にゲームだったのでモンスターに倒されたとしても近くの街に戻されただけ。別に大した被害は受けなかった。HPが0になったにも関わらず死ぬこともなく、所持金が半分に減ったりする非現実的なペナルティ。
だけど、今から始まるのは得体の知れない戦いだ。
これからモンスターに殺されたらどうなってしまうのか……?
これまで通り、所持金が半分減るだけという小さい罰を与えられるだけなのか、それとも死神によって命を刈り取られ、この世界でも、現実世界でも死ぬことになるのか。それは俺には絶対にわからないし、ゲーム開発者すらもわからないだろう。
「じゃあ、俺は行くからな」
プレイヤー達が突然の状況に混乱している最中、いち早く混乱状態から抜け出した俺は他のプレイヤー達の合間を潜り抜け、リスポーン地点から駆け出す。
この世界が本当に『エリュシオン・オンライン』の世界なのか、はたまた、まったく別の次元なのか……。自分達が立たされている状況を整理し、どうすれば現実世界に帰ることが出来るかを理解するために。
リスポーン地点から約数十キロの距離を走っていると、目の前にレベル2相当の狼型モンスター『ウルフ』が群れを成して姿を現す。
姿形はご立派なものだが、実際に戦ってみると本当に雑魚モンスターだ。『エリュシオン・オンライン』上では最弱モンスターとして紹介されていたこともあり、初心者が動きを確認するために戦い続ける練習用モンスター。
そんな練習のために存在しているモンスターが強いわけはない。だが、群れを作って襲いかかって来られるとちょっと手こずったりはするんだよな。
だけど――。
「……俺はこんなところで止まれないんだよ」
何がどうなってこんなわけのわからない空間にテレポートさせられたのか。
隠しダンジョンで見かけた女の子の言葉の真相を……。
この世界について、あの少女について、色々と調べないといけないことがある。
「道をあけろーー!」
“無”を司るように真っ黒な剣――『シュヴァルツソード』を手に持ち、敵の存在に集中していると、剣が薄黒く光を放ち始めた。自分の武器が光を放つのは、本人が手にしている『スキル』が発動する瞬間の合図だ。
俺が手にしていた攻撃専用スキル、『アタックスキル』が発動するのをその身に感じ。そして……。
「まとめて喰らいやがれ!」
そのまま解き放つ。
ウルフの群れに突っ込み、すべてを切り払うように一閃。
すると、剣先から一陣の風のように斬撃が解き放たれる。これが俺の固有スキル『ブラストオブウィンド』。
『ブラストオブウィンド』を回避する術を持たないウルフ達は避けることすら出来ずに自分の体を切り裂かれ、そして体を淡く発光させ砕け散っていく。
自分の目の前に突如モニターが発生し、『レベルアップおめでとうございます。<UP>1~3』、『アイテムを手に入れました。<GET>ウルフの爪・ウルフの牙×2・80ギル』と記されていたが、気にすることなくまっすぐ突き進む。
この先、どんな困難が俺を待っていようとも、こんなところで負けてたまるか。
――俺が少女の言葉の意味を正しく理解していれば、他のプレイヤー達を逃がすことも出来たというのに。
「くっそぉぉーーっ!!」
不甲斐ない自分に対して怒りを爆発させながら、ひたすら広がり続けている草原を走り続ける。
――せめて、逃がせなかった分。俺が頑張ってクリアしてやる。




