Chapter22 好敵手との誓い
アーサーside
『子竜の舞』。この街に着いたと同時に耳にした大会名。名前とは裏腹で大規模かつ活気のある大会となった見世物。
参加者は初心者から上級者に至るまで、何人ものプレイヤーが大会へ参加を希望していた。
その中でも僕、アーサーが気になったプレイヤーは三人。
一人目は、『黒獅子』と呼ばれ恐れられたキリュウと類似した戦闘スタイルを取る謎のプレイヤー。確か名前はリュウキと言ったかな。本大会では一番のダークホースとなると自分は密かに期待している。
そして、二人目が『剣聖』と呼ばれ、『エリュシオン・オンライン』内で最強とされているプレイヤー。最強の剣士ウィンディル。
最強の剣士と言われているものの、僕としてはキリュウの方が最強を自称しても良いだろうと思っている。彼が本気を出す場面は滅多にないけれども、本気を出せば全プレイヤーを凌ぐ力を所持しているのだから。
他のプレイヤーが到達する事も出来なかった隠しダンジョン。その場所を見つけたプレイヤーもキリュウ、ただ一人だけなのだから。
そんな二人より強いと断定は出来ないが、名の知れた人物がもう一人いる。
その名も、カリン。
先程、控え室で話した女性プレイヤーであると同時に、目の前に立つ一人の少女だった。
「さて、本大会最初の盛り上がる試合が今ここに始まろうとしています。『霧雨のカリン』VS『白竜騎士アーサー』」
『黒獅子』という渾名よりは自分的に似合っていると思えますけれど、『白竜騎士』ですか。白竜の鱗を使用しているのは事実ですし、白い防具でもあるので、そう言われても仕方がないですけれどもね。そのまま過ぎる安直な通り名に嫌気が差してしまう。もう少し捻って欲しかった。『白竜騎士』なんて渾名より『黒獅子』の方が質が高くて羨ましい。
「手加減はなしですよ。僕はもう、負けるつもりがありませんから」
「そうしてくれると、嬉しいな。本気の『白竜騎士』と戦ってみたかったし」
何度かダンジョン攻略の際に後ろ辺りから見させて貰ったけど、あなたは本気でなかった。友人である『黒獅子』のバックアップに徹していたからね。と呟く彼女を見て、僕は驚いた。
誰にも気付かれないようにサポート役に徹していたはずなのだが、バレていたみたいだ。
「へぇ、よく気が付いたね。他のプレイヤーは気付かなかったはずなのに」
「後に有名人と成り得る存在は観察・研究していたつもりだよ。現に君も有名になったし、あの『黒獅子』もね」
「研究ね……。なら、サポートに徹していた僕の研究はし尽くしたってことだね」
「そ。後はあなた個人の戦い方を研究すれば、あなたの戦法は手に取るようにわかるってことよ」
そんな簡単に言ってくれると、僕自身にある対抗心が燃え上がるな。
以前にキリュウと約束したからな。「俺は絶対に負けない。キリュウに勝つまでは」と。
彼の鏡の迷宮での立ち回りを見て、僕はキリュウと戦いたいと思い、体力が半分になれば強制的に終了されるモードで決闘した。結果は惨敗。
キリュウには「お前がお前である以上、勝ち目はねぇよ」と言われる次第。そのとき、僕は悟った。キリュウと同じ突撃馬鹿では運動神経の差でキリュウに分がある。では、頭を使った頭脳派になればと。
それからだ。暇があっては頭を回転させ、冷静な性格になるべく『僕』という一人称を使い、突撃しないようになったのは。
(絶対に負けませんよ。僕は……。キリュウに勝つまで)
◇
キリュウside
「……ねぇ、キリュウ君」
「ん、どうした?」
試合開始のゴングが鳴ったにも関わらず、一向に戦おうとせず、悠長に会話をしながら敵の動き方を把握しようとしている頭脳派同士の対決。
見学に来ていたプレイヤーは勿論の事。NPCにも試合が始まれば静かにするというプログラムが書き込まれていたのか知る事は出来ないが、黙って試合を観戦していた。
燃え上がる戦闘とは真逆の静かな戦闘なので、会場の声の一つ一つが大きく聞こえる。
「この勝負、どっちが勝つと思う?」
「アーサー」
未だに武器を構え、一歩も動かない二人を視界に入れつつ、ティナの質問に間髪入れずに返答する。
おそらく俺の返事を聞いた女子二人は「信頼しているんだね」とか思っていそうだが、俺はあいつを信頼して答えたわけじゃない。敵に突っ込みがちな俺を引き止めてくれたり、黙って隙を護ってくれるサポートをしてくれるあいつを信頼はしている。
だが、この戦いでは関係のない話。
一対一である以上、サポート特化しているあいつの勝利を信じるのは難しい。俺がアーサーを知らずにこの戦いを見ていれば十中八九、カリンが勝利すると予想するだろう。
「す、凄い自信だね」
「そう思うって事は、何か理由があるのかしら?」
ティナは即答した俺に圧倒され、ジュリアは俺があいつの勝利を信じている理由を問いただしてきた。
「あいつは俺に……キリュウに勝つまで負けないって言ってきたんだ」
確証のないたった一つの約束。
根拠も理由もない。
「俺は絶対に負けないからよ。じゃあ、一生負けるんじゃねぇぞって言ってやったがな。だから、あいつは勝つ」
そう言い放った直後に、視界の端っこに小さなアイコンが出現した。
手紙のアイコンが現れ、1と表示されている事から何かしらのメールが送られてきたのだろう。
「……っと、悪い。お前らと一緒に試合も見たかったけど、呼び出しを受けちまった」
「あ、もう行くんだね」
「あぁ、今のうちに新しいダンジョンを発見しちまおうぜ。って友人に誘われてね」
「ボス部屋まで行く事はないよね?」
「当たり前だ。今、ここで約束してやろうか?」
心配性なティナに向かって手を差し出し、小指を立てる。
ゲームの世界に入り浸ってからは、この行為を見た事、一度もなかったな。やるのも久しぶりかも知れない。
「じゃあ、約束。『このゲームの世界から一緒に出るまで、絶対に死なないこと』」
「ああ、約束な」
俺の小指を自分の小指で絡める。
幼少期、現実世界で何度もした記憶がある指切りだ。
「約束破ったら、本気で天国まで行って針千本飲ませるからね!」
「おー。そいつは怖いな。飲まされるの嫌だから、死なない事にしないとな」
おどけた態度を取りながら、俺は観客席を後にする。
「……約束、か」
ティナと指切りをした小指を視界に入れては、懐かしい気分になってしまった。
当分の間、戻る事の出来ない現実世界での事。幼馴染は元気にしているのか、義妹は健全な生活を送っているのかなど色々と考えてしまう。
「今はまだ、帰る方法が見つからないけど、俺は絶対に帰るから」
一刻も早く帰るために、攻略組であるティナとジュリアの『道を切り開く者』とアーサーの『トラスト騎士団』の強化は必須。
この大会、絶対に俺かアーサーが勝たなくてはならない。
「俺とアーサーが勝ち残るために、立ち塞がる壁はたった一つ」
幾度にも渡る攻略戦や先程の控え室で会った。ほとんどのプレイヤーに最強の剣士と呼ばれており絶対的な人気を博している『剣聖』ウィンディル。
『黒獅子』と互角の実力を持っているもう一人の最強ってところか。
「……自分で『最強』を名乗るのはおこがましいがな」
もし、俺が準決勝で奴を当たって、負けてしまったとしてもお前が勝ってくれよ。という思いを込めて、試合会場を見る。
俺に勝つために自分の性格を矯正しようとしてんだろ? なら、こんなとこで挫けてるんじゃねぇよ。