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エリュシオン・オンライン  作者: 神城 奏翔
第2章 喜びの感情
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Chapter20 少女達の想い


Chapter20


アルティナside

「……やはり彼は強い」

 順番が一番最後となり、暇を持て余していたアーサー君は、自分の前の試合まで観客席で私達と一緒に試合を見ている。一人寂しく休憩所で試合経過を見ているよりはこっちの方が賑やかで落ち着きそうだったから、とは本人の談だが、本当はジュリアちゃんと一緒に見たかったのではないかなと私は思った。

「あの『リュウキ』って奴? 確かに強いよね。動きも悪くないし、何より速い」

「パワーはそれほど高くないけど、スピードがあるタイプって苦手なんだけどね。彼に勝てるかな」

「アーサーが彼と当たるとすれば……。良かったじゃない。決勝戦よ」

 決勝戦か。アーサー君が勝てば良いとは思うけれども、正直に言ってギリギリだと思う。

 パワーが高いアーサー君、だけどもそれは攻撃が当たってこそ真価を発揮するもの。あのスピードで避けられたら何の意味もなくなる。それに攻撃の後の隙が長いことも致命的だ。

 とはいえ、スピードが速いということは裏を返せば持久戦が苦手ということ。

「ねぇ、ティナはどう思う? アーサーは彼に勝てそう?」

「難しいと思う。一撃が重いアーサー君だけど、やっぱり攻撃が当てられないと意味がないから」

「だよな……」

「けど、スピードが速いということは、持久戦が弱い可能性はあるよ。ここはゲームだけど、ゲームじゃないから」

 って、キリュウ君なら言うはずだよ。と付け加えるように言うと、彼らは息を揃えて笑い始めた。

 本当は私自身が思ったことだけど少し恥ずかしかったからキリュウ君の名前を使っただけなのに、何でここまで笑い者にされているのかがわからない。

「ここはゲームだけどゲームじゃない、か。確かにあいつなら言いそうだ」

 口角を上げながら密かに笑うアーサー。

 昔を思い出すように空を見上げながら、寂しげに呟く彼の姿を見て不自然に思った。

「もしかして、アーサー君とキリュウ君って、現実(リアル)で知り合いだったりするの?」

「ん、どうして?」

「何でかな。ちょっと、そんな気がして……」

 どうしてあんな質問をしてしまったのかもわからない。

 だけど、少なからずキリュウ君のことが気になって、彼らが現実(リアル)友達なのか気になったのかも知れない。

 キリュウ君を思いながら呟くアーサー君がとても、辛そうに見えた。たったそれだけのこと。

「あいつとは、そんな仲じゃないよ。現実(リアル)で会いたいとは思っているけども」

 このゲームで最初に会った友人だから。と私達に言い聞かせるように言葉を放ったアーサー君。

「……さて、そろそろ僕も準備をし始めますかね」

「アーサー! 負けんじゃないわよ。私の武器が懸かっているんだから」

「わかってるって。最低でも『リュウキ』に当たるまで負ける気はしないよ」

 そういって私達に笑顔を見せるアーサー君、彼がする笑顔は人を安心させる力があると同時に、何か隠しているような気がしてならない。

 強いて言うなら、愛想笑い。

 他人に気取られることなく、自分だけで解決しようと思っている人の目だ。

 そそくさと控え室の方へ向かうアーサー君の後ろ姿を見届けたジュリアちゃんは、溜め息混じりに呟いた。

「……まったく、このパーティの男共は」

 このパーティにおけるリーダー格のジュリアちゃんをほったらかして、何でもかんでも自分達で抱え込んで解決しようとする男子達に怒っているみたいだ。

「そんなにアタシが頼りない?」

「そんなことないと思うよ。ただ、理由があるんじゃないかな。アーサー君にしても……キリュウ君にしても」

「……なら、良いんだけどさ。何にも言ってくれないと不安になるわよ」

 ジュリアちゃんの言っていることは痛いほどわかる。

 私もキリュウ君が何も話してくれないところ、全部一人で背負い込んで自分一人の責任にするところが心配だから。みんなで背負えば軽いものをすべて自分のせいにして……。たまに見せる一生懸命な表情がとても辛そうで。

「大丈夫だよ。彼らもバカじゃないから、きっと話してくれる」

 隣で不安に怯えているジュリアちゃんの腕をぎゅっと握って、自分が思う励ましの言葉を送る。

 本当はただ私がそう信じていたいだけで、実際のところ確証は一つとして得られていないのだけども。

(……信じていいよね。キリュウ君)


 ◇


キリュウside


「はっくしゅんっ!」

 控え室にて寛いでいた俺を苦しめたのは、紛れもないくしゃみだった。

(ここまで、現実(リアル)を目指さずとも良いだろ)

 現実と言われても違和感はない。そういうシステムを目指して努力してきた『エリュシオン・オンライン』システムプログラマーに拍手を送りたいな。

(ま、それは置いといて)

 物音一つしない静かな空間。

 参加者メンバーの控え室は、妙な緊張感に包まれていた。

 相手を見定めようと、必死に対戦者を観察する者。のんびり気ままに寛ぐ者。今か今かとそわそわしながら順番が来るのを待つ者。

 皆、それぞれ自由な時間を過ごしているが、決まって全員静かだった。

(この空間、無茶苦茶居づらい!)

 神妙な雰囲気に包まれているこの場所がすごく嫌で、正直に言って面倒過ぎて帰りたくなる。

 俺は賑やかし役になることは出来ないが、それでも賑やかな雰囲気の方がかなり落ち着くし過ごしやすいのだ。

 逆に無音な空間がかなり苦手で、テストの時間などそういう雰囲気な場所は嫌いだ。

 だからかな。あいつらと一緒の時間はかなり楽しい。

 ずっと一緒に行動して、同じようにはしゃぎたい。そう思えてしまうんだ。

「……弱くなったな。俺」

 今まで、ずっと一人で生きてきた。寂しいときも、苦しいときも、腐ったときも一人だった。それなのに、今更、仲間の良さ……一緒にいて楽しい友達の存在に気づくなんて。

 俺の人生、何だったのだろうな。

「さて、そろそろ行くかな」

 不意にその場で立ち上がるアーサー。

 彼の試合はこの試合が終わってからなはずだが、決着のついていない今から行くつもりらしい。

(アーサーお得意の直感か?)

「……やはり、アンタが相手か」

 立ち上がったアーサーを真正面から見つめるように立つ全身黒ローブ姿の人。

 男にしては甲高い声なので、女だろうと思うが、名が知れている人なら良いなと思った。

 有名な人でなければ、まともに戦う意味すらもないからな。

「試合ではよろしくな」

「ふっ。不思議な奴だな、お前は」

 試合前だというのに、二人を囲う雰囲気は一触即発ではなく、和やかなこれから共闘するのかと錯覚に陥るぐらいのものだった。

「私はカリン。一応、名の知れたプレイヤーには入っていると思う」

「……もしかして、『霧雨のカリン』か?」

「ああ、そう呼ばれるな」

 『霧雨のカリン』。他のプレイヤーからそんな渾名を付けられたのには理由がある。

 霧の中、降り注ぐ雨を霧雨という。一見、まったく関係はないと思えるが、情報屋から聞いた話によると。

 彼女はダンジョン『濃霧の森』にて、圧倒的な活躍をしたらしい。静かに這い寄るモンスターを冷静に対処し、一面に血の雨を降らせた。俺ことキリュウの渾名と同じような感覚で付けられたみたいだな。

 濃い霧によって包まれた森の深部、辺り一面には数分間、血の雨が降り続けたと言われている。

「マジかよ。そんな有名人と戦えるなんて」

「そういうアンタこそ、有名人でしょ。『トラスト騎士団』アーサー」

 新たに『銀竜の逆鱗』という異名が世間に広まりつつあるアーサー。そして、『黒獅子』と並び立つ存在とまで言われている。最初の方で独壇場とばかりに暴れまくり一躍有名人の仲間入りした『黒獅子』こと俺と肩を揃えて戦うことの出来る存在である一人と、他プレイヤーの人達は認知しているということだな。

 『黒獅子』最強説や信仰する集団まで出現している模様。情報屋に直接聞きにいったからこそわかるけども、「キリュウこそが世界を救う希望」だとか「キリュウなら俺達、全プレイヤーを元の世界に返してくれる」。そう考えて、安全圏から一切出てこない奴らが多くなっているらしい。

「ホントに迷惑な奴らだよ」

 自分は命を賭けないくせに、他プレイヤーには命を賭けろという。威厳も欲しいが、命は失いたくない。危険な目に遭うのは嫌だ。身勝手で傲慢な願いだ。

(……俺だって、人間だ。疲れもするし、自ら死ににいきたくはない)

 今後、俺を嗾ける奴が現れ、そいつが自分では何もしないのに威張るだけの奴であれば、容赦ない攻撃を受けてもらうにしよう。

 安全圏である街中でなら、相手に攻撃を仕掛けたとしても、威力に見合ったノックバックが伴うだけで、オレンジになることはないからな。

 最近では、それを利用したPK(プレイヤーキル)が行われるらしいが、知ったことか、威張るだけの奴らが悪いんだよ。


「……そんじゃ、先行って待ってるぜ」

「えぇ、良い試合にしましょう」

 そう言って、待機室を後にするアーサー。

 数秒後、後を追うようにカリンも会場へと向かう。

「さてと、俺は試合観戦といきますかな。キリュウの姿で」

 一人、小さく呟いた後、待機室から出て、会場の観客席へと向かう。

 選手と観客が混ざらないように設置されている検問を選手用パスを使用し、平然と抜ける。

 目的地はそう、ティナ達が見ているであろう場所。



 

 

 

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