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神々の宵  作者: 望月満
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其ノ伍

 圧し殺したような低い声を最後に、沈黙が覆い被さる。月読命は信じられないという風に首を左右に振り、風神は唖然と咲耶姫を見つめる。

「……姫様、正気か?」

「ええ」

「人間のために命を投げ出すに等しい行為だぜ? 分かってんのか」

「もちろんよ」

 顔を上げた咲耶姫は、風神から目を逸らすことなく真っ直ぐに彼を見上げ、力強く頷く。

「……あんたら、救いようのない馬鹿だな。もういい、俺が折れるよ、降参だ降参」

 風神は軽く手を振り、髪を軽く揺らすと諦めたような声を上げる。咲耶姫は桜のように美しい笑みを咲かせ、感謝の言葉とともに再び頭を下げる。

「咲耶姫、本気か?」

 流石にこの展開は予期していなかったらしい月読命は、咲耶姫へ不安げな視線を向ける。彼女は月読命へ頷くと、短く肯定の言葉を述べる。

「私の行いで救われる者がいるの。何物にも代えがたいほど尊い行いだと思うわ」

 後悔など微塵も感じられない咲耶姫の口調に、月読命は目を見開いた後、苦笑を浮かべ頷く。

「そうか。咲耶姫がそう思うのであれば、己の信ずることを成すといい」

 二人の様子を見下ろす風神は溜め息を零し、幹に背を預け枝の上に座る。居住まいを直し、彼は息を荒々しく吐く。

「いいか、一回だけだぞ。これきり、お前らにはかかずり合わないからな」

 風神の言葉に、咲耶姫は短く首肯する。風神は嘲笑か自嘲か、小さく口の端を曲げ息をつく。

「本当に、どうなっても知らないからな」

 囁くような声を残し、風神は風を巻き上げる。風は桜の花弁を闇夜に舞い散らせ、人々の願いの結晶とも呼べる鈴を鳴らす。二人が見守る中、風神は闇へ溶けるように消え去った。

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