表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が使えない落ちこぼれの俺だが、解析スキルで魔法学園の戦闘を支えてます ~最強じゃないけど、いないと困る~  作者: 天城ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/32

第7話 噛み合い始めた歯車

 実習が終わったあとも、班はその場に残されていた。


 模擬魔獣はすでに停止し、結界も解除されている。だが、誰もすぐに動こうとしなかった。空気だけが、妙に張りつめたままだ。


 最初に口を開いたのは、セリアだった。


「……さっきの」


 彼女は、少しだけ言い淀み、それから俺を真っ直ぐ見た。


「偶然じゃ、ないのよね?」


「……多分」


 俺は曖昧に答えた。自信満々に言えるほど、まだ自分の力を把握しきれていない。


 セリアは腕を組み、少し考え込むような仕草をした。


「私、自分の魔法は安定してるって思ってた。少なくとも、同年代の中では」


「実際、威力は高いです……」とミナが控えめに口を挟む。「でも、詠唱のたびに、揺れが出てました。私、回復のタイミング合わせづらくて……」


 セリアは、はっとしたようにミナを見る。


「……気づいてたの?」


「い、いえ……なんとなく、です」


 ガルドが頭を掻いた。


「俺は正直、細かいことは分からねえ。でもよ」


 彼は、さっきまで戦っていた場所を見つめる。


「今日は、いつもより楽だった。攻撃の流れが、読みやすかった」


 その言葉に、セリアは小さく息を吐いた。


「……解析、ね」


 彼女は俺の方に向き直る。


「アルト。次から、最初に言って。指示があるなら」


 それは、命令でも、見下しでもなかった。


 ――頼み。


 胸の奥が、わずかに熱くなる。


「分かった」


 短く答える。


 その様子を、少し離れた場所からローディアスが見ていた。腕を組み、表情は読めない。


「よし、解散だ」


 教師の声で、ようやく緊張が解ける。


「今日の評価は、後で伝える。だが一つだけ言っておく」


 ローディアスの視線が、俺に向いた。


「解析は、机上の空論ではない。――少なくとも、今日の実習ではな」


 それだけ言うと、彼は踵を返した。


 周囲から、小さなどよめきが起こる。


「今の、評価じゃない?」

「解析、意外と……?」


 だが、その声はすぐに別の話題にかき消されていった。火属性の派手な成功談、風属性の高速詠唱。話題の中心は、相変わらず分かりやすい力だ。


 俺たちは、自然と教室へ戻る流れになる。


          ◆


 昼休み。


 石造りの中庭の一角で、俺は簡素な昼食を広げていた。母が用意してくれたパンと干し肉。前世のコンビニ弁当より、ずっと温度がある。


「隣、いい?」


 声をかけられ、顔を上げる。


 セリアだった。


「どうぞ」


 彼女は俺の向かいに腰を下ろし、少し間を置いてから口を開く。


「ねえ。解析って、どこまで分かるの?」


 核心を突く質問だった。


「……全部じゃない。今は、魔力の流れと、無駄な部分くらい」


「未来は?」


「分からない」


 正直に答えると、セリアは小さく笑った。


「そういうところ、嫌いじゃない」


 意外な言葉だった。


「自分の才能、全部分かってるって顔する人、多いから」


 彼女はパンを一口かじり、続ける。


「私、火属性で生まれた時から“期待されてた”。強くて当然、上手くできて当然。だから、失敗すると……理由を探される」


 ふっと視線を逸らす。


「今日みたいに、“構造の問題”って言われたの、初めてだった」


 俺は黙って聞いていた。


 前世でも、似たことがあった。結果だけを見られ、過程を見てもらえない。理由を説明しても、「言い訳」として片付けられる。


「……助かった」


 セリアは、ぽつりと言った。


「ありがとう」


 その言葉は、試験のときのどんな評価よりも、重かった。


          ◆


 午後の座学。


 魔法理論の基礎。属性相関。詠唱構造。


 教師の説明を聞きながら、俺は黒板を見つめていた。


 ――やっぱり、ここも。


 図に描かれた魔法陣。説明されている理論。どれも間違ってはいない。だが、効率が悪い。安全側に寄せすぎている。


 前世で言うなら、無駄に冗長な手順書だ。


 理解できる。

 だが、言わない。


 今ここで口に出せば、「生意気」で終わる。解析は、まだ信頼を得ていない。


 俺はノートに、静かに書き留める。


 “なぜこうなっているのか”

 “どこが削れるのか”


 気づけば、鐘が鳴っていた。


 授業が終わり、生徒たちが動き出す。俺はノートを閉じ、深く息を吐いた。


 今日一日で、世界は何も変わっていない。


 それでも。


 歯車が、一つだけ噛み合った感覚があった。


 評価されない力は、まだ脇役だ。


 だが――。


 確実に、必要とされ始めている。


 俺は席を立ち、教室を後にした。


 この学園で、静かに、だが確実に。


 解析という歯車が、回り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ