第34話 断る理由
三日目の朝。
アルトは、いつもより早く目を覚ましていた。
答えは、もう出ている。
だが、それを言葉にするには、覚悟が要った。
◆
解析運用班は、授業前に集まっていた。
「……結論、出た?」
セリアが、静かに尋ねる。
「まだ、学園としての結論じゃない」
アルトは、そう前置きしてから続けた。
「でも、俺個人の答えは決まった」
全員が、黙って耳を傾ける。
「軍の試験運用には、参加しない」
はっきりした声だった。
◆
ミナが、驚いたように目を見開く。
「でも……断ったら、外で勝手に使われるんですよね?」
「そうなる可能性は高い」
否定しない。
ガルドが、歯を食いしばる。
「じゃあ、なおさら中にいた方が……」
「中に入っても、止められない」
アルトは、遮るように言った。
「判断に関われない以上、俺たちは“責任を切り離す装置”になる」
沈黙。
「それは、支えることじゃない」
一語一語、噛みしめるように続ける。
「切り捨てを、正当化するだけだ」
◆
セリアが、ゆっくりと頷いた。
「……あなたらしいわね」
ミナは、不安そうに俯きながらも、小さく言う。
「でも……正しいと思います」
ガルドは、少し遅れて笑った。
「面倒な道だな。でも、嫌いじゃねえ」
◆
午前。
学園長代理の執務室。
アルトは、一人で呼び出されていた。
「結論は?」
単刀直入な問い。
「参加しません」
迷いはない。
「理由を聞こう」
「解析が、止める判断に関われないからです」
一拍置く。
「俺の解析は、“警告を出すため”じゃない。“止めるため”のものです」
学園長代理は、しばらく黙っていた。
◆
「……覚悟はあるか」
「あります」
「断れば、評価は下がる」
「承知しています」
「それでも?」
「それでもです」
即答だった。
◆
学園長代理は、深く息を吐いた。
「分かった」
そして、静かに言う。
「学園としても、今回は断る」
アルトは、思わず目を上げた。
「だが」
続く言葉は重い。
「代わりに、条件交渉に入る」
◆
「条件……?」
「軍は、簡単には引かない」
学園長代理の声は低い。
「完全拒否ではなく、“別の形”を提示する」
アルトは、すぐに理解した。
「……学園主導、ですか」
「そうだ」
視線が交わる。
「向こうが欲しいのは、技術だ」
「こちらが守りたいのは、思想だ」
どちらも、譲れない。
◆
執務室を出たあと。
廊下の窓から、軍の馬車が見えた。
彼らは、効率を求める。
成果を求める。
責任を切り離す。
それを、完全に否定することはできない。
だが――。
飲み込まれる必要もない。
◆
その夜。
アルトは、ログに短く書いた。
《決断》
拒否は、逃げではない。
譲らない線を、示す行為だ。
これで終わりではない。
むしろ、始まりだ。
次は、交渉になる。
学園と軍。
効率と判断。
技術と思想。
どこで折り合いをつけるか。
歯車は、再び軋み始めた。
だが、今回は――
意図的に、噛み合わせに行く。
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