第33話 利用価値
三日の猶予は、短い。
だが、考えるには十分だった。
◆
翌日から、学園内の空気はさらに張りつめた。
軍の視察団は、まだ滞在している。
講義、実習、訓練――あらゆる場面を、黙って見て回っていた。
評価する視線。
感情のない観察。
アルトは、それが何より気に入らなかった。
◆
午前の実習。
解析運用班は、通常通り配置につく。
「兆候、北側。干渉、軽度」
アルトが告げる。
班が、即座に対応する。
「出力、微調整」
「間隔、広げる」
問題なく、実習は進行する。
だが――。
実習場の外縁で、ハーグ准将がローディアスに低く話しかけていた。
「今の判断、不要だったのでは?」
「不要かどうかは、結果論だ」
ローディアスの声は硬い。
「結果が出ている」
「もっと速くできる」
ハーグ准将は、即答した。
「警告が出た時点で、強制停止すればいい」
アルトの背筋が、わずかに冷える。
◆
実習後。
視察団の一人が、アルトに直接声をかけてきた。
「君の解析、興味深い」
若いが、目が鋭い男だ。
「だが、迷いが多い」
「迷い?」
「そう。判断を現場に戻す工程だ」
淡々とした指摘。
「警告が出たら、止めればいい。なぜ、止めない?」
アルトは、少し考えてから答えた。
「止める理由が、毎回同じとは限らないからです」
「理由は、後で分析すればいい」
男は、即座に切り返す。
「現場では、成功したか失敗したかだけが重要だ」
――核心だ。
◆
昼休み。
解析運用班は、食堂の隅に集まっていた。
「……完全に、効率しか見てない」
セリアが、吐き捨てるように言う。
「警告が免罪符になる気がします」
ミナが、不安そうに言った。
「“解析が問題ないと言った”って」
「いや」
アルトは、首を振る。
「正確には、“解析は警告した”だ」
ガルドが、眉をひそめる。
「どっちも、ろくでもねえ」
◆
午後。
学園長代理から、非公式の情報がもたらされた。
「軍は、解析を“指揮補助装置”として見ている」
重たい言葉。
「警告を出す」
「判断は上が行う」
「失敗は、現場の責任」
アルトは、静かに拳を握った。
「……責任は、どこにも行かない」
「そうだ」
学園長代理も、苦い表情だ。
「だが、軍はそれを“合理的”と言う」
◆
その夜。
アルトは、ログを開いていた。
《学園外運用・想定》
解析が警告を出す。
指揮官が進軍を命じる。
現場が壊れる。
それでも、解析は責められない。
指揮官も、責められない。
責任は、曖昧なまま消える。
◆
ページの端に、強く書き込む。
――それは、支えることじゃない。
切り捨てを、正当化するだけだ。
◆
窓の外。
学園の灯りが、静かに揺れている。
ここでは、
まだ人が考えている。
まだ立ち止まれる。
だが、外の世界は違う。
速さを求め、
成果を求め、
責任を分散する。
解析は、便利だ。
だからこそ、危険だ。
アルトは、ペンを置いた。
三日の猶予は、もう半分を切っている。
これは、
参加するか、拒否するかの話じゃない。
――利用されるか、守れるか。
その分岐点が、
すぐそこまで迫っていた。
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