第32話 試験運用要請
その日の放課後、解析運用班は再び会議棟に呼び出された。
今度は小会議室ではない。
学園長代理の執務室――つまり、学園としての「正式な話」だ。
部屋に入った瞬間、空気の質が違うと分かった。
視線が多い。
しかも、教師のそれとは決定的に違う。
◆
「紹介しよう」
学園長代理が、机の向こう側を示す。
「王国軍・第三戦術研究部隊の代表、ハーグ准将だ」
壮年の男が、一歩前に出る。
無駄のない立ち姿。礼儀正しいが、柔らかさはない。
「話は聞いている」
低く、はっきりした声。
「魔法の失敗を“事前に止める”解析。非常に興味深い」
アルトは、何も答えなかった。
興味、という言葉の裏にあるものを、感じ取っていたからだ。
「単刀直入に言おう」
ハーグ准将は、続ける。
「我々は、この仕組みを実地で試したい」
◆
沈黙。
学園長代理が、補足する。
「小規模な実地演習だ。戦場ではない。だが、学園の外だ」
セリアが、思わず口を開いた。
「学生が、ですか?」
「そうだ」
ハーグ准将は、即答した。
「実際に使うのは、若い兵だ。学生に近い方が、データとして価値がある」
その言い方に、ミナが小さく身を強張らせる。
――データ。
人を、数字として見る視線。
◆
「条件は?」
アルトが、静かに問い返した。
ハーグ准将は、少しだけ目を細める。
「三つある」
指を立てる。
「一つ、解析は警告のみ。判断は、我々が行う」
「一つ、結果に対する責任は、軍が負う」
「一つ、失敗した場合でも、解析の欠陥として扱わない」
一見、好条件に聞こえる。
だが。
「……つまり」
アルトは、言葉を選びながら言った。
「俺たちは、止める判断に関われない」
「正確には、不要だ」
ハーグ准将は、淡々と返す。
「判断は、訓練された者が行う」
アルトの胸に、静かな違和感が広がった。
◆
ローディアスが、腕を組んだまま言う。
「解析運用の思想とは、相容れないな」
「承知している」
ハーグ准将は、否定しない。
「だが、現場では速度がすべてだ。迷いは、死を呼ぶ」
正論だ。
戦場においては。
「これは、採用の話ではない」
学園長代理が、釘を刺す。
「“試験運用”だ」
「理解している」
ハーグ准将は、アルトを見る。
「だからこそ、君の意見を聞きたい」
全員の視線が、アルトに集まる。
◆
一瞬、前世の記憶がよぎる。
数字を出せ。
結果を出せ。
過程は問わない。
失敗した理由は、後で考えればいい。
――同じ匂いだ。
「……即答はできません」
アルトは、はっきりと言った。
ハーグ准将の眉が、わずかに動く。
「理由は?」
「俺の解析は、“止めるため”のものです」
一拍置く。
「止める判断に関われないなら、意味が変わる」
沈黙。
拒絶ではない。
だが、肯定でもない。
◆
「返答の期限は?」
アルトが問う。
「三日」
短い。
「それまでに、学園としての結論を出してほしい」
ハーグ准将は、それだけ言って立ち上がった。
◆
来客が去ったあと。
部屋には、重たい沈黙が残った。
「……思ったより、早かったな」
ローディアスが、低く呟く。
学園長代理が、アルトを見る。
「断ることもできる」
「はい」
「だが、断れば――」
「外で、別の形で使われますね」
先回りして答えた。
否定は、されなかった。
◆
会議室を出たあと、解析運用班は無言で歩いていた。
最初に口を開いたのは、セリアだった。
「嫌な話ね」
「はい……」
ミナの声が、かすれる。
「でも、避けられない気もします」
ガルドが、歯を鳴らす。
「使われるなら、俺は中にいたい」
全員の視線が、アルトに集まる。
◆
アルトは、立ち止まった。
「三日、考える」
それだけ告げる。
答えは、まだ出ていない。
だが、一つだけ確かなことがある。
この話は、
「参加するかどうか」じゃない。
――どんな形で、関わるかだ。
学園の外で、
解析がどう使われるか。
それを決める分岐点に、
今、自分たちは立っている。
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